付き合う前から、サッカーに行こうと誘われていた。

熱狂的なレッズファンの彼と、同じく熱狂的なNちゃんがレッズ戦を見に行こうと盛り上がったらしく、

通りすがった私を上手に誘ってくれた。

そして、同じくレッズファンのWくんも誘って、4人で土曜日のお昼の試合を見に行く事に。


同じ家から出かけたのに、たまたま駅で会った風を装って、無事4人集合。

後の二人は若いから、二人付き合っちゃえばいいのにね。なんて、浮かれ調子で話をしていた。


サッカーはぶっちゃけよくわからなかったし、

そのレッズは負けてしまったし、

でも、なんか楽しかった。休みの日の朝早くから出掛けるなんて、珍しい事だったし。


サッカーの前も、カップルっぽい写真を撮ろう!なんて盛り上がったりして。

で、試合後に、さっきのカップルっぽい写真を見せて!とカメラを貸してもらったら・・・・・・

二人の洋服が違う二人の写真が・・・・・


そう。私たちがだましていたはずの二人が、実は付き合っており、私たちもだまされていた。と。


そのNちゃんには、

「ケーコちゃん、先輩と何かあった?」とトイレで聞かれたり、なんかずっと怪しまれていたわけだけど、

何もないよ。と言い続けていた私。

そんなNちゃんの弱みを握ってしまった私。


帰りのバスでは、NちゃんとWくんは頭を寄せて、グーグーねてる。


あぁ、若い二人は付き合った事がばれても、何もやましい事はないんだよね。

秘密にしてね。って言われたけど、もし、これが会社の人にばれたとしても、みんな温かく見守って

くれるんだろうな。

私たちは、付き合ってる事がばれたら、お互いまだ相方がいる事になっているから、

なんだかんだ責められるだろうし、何を言われるか分からない。

だから、余計、そんな二人が羨ましくて羨ましくて。

涙が出てきた。

羨ましかった。本気で。


私たちの事、誰にも秘密にしてたんだけど、

なんか、無償に誰かに話したくなってしまった。

でも、話せないという葛藤。

グルグルになってしまった心が止められなくて、涙が出てきた。


彼に「話したい」っていったら、「彼らには荷が重すぎるよ」と言われてしまった。

確かにそうかもしれない。


でも、そのあと、飲みにいった所で、急に彼が、

「あのさ、疑ってる二人にいっちゃうけど、俺ら、一緒に住んでるから。で、結婚するつもりだから」

と、言い放ち、キスをしてきた。

彼らの驚いた顔といったら。

そして、私の顔も、驚き顔。

まさか、一緒に住んでるとまでは思っていなかったようだ。当たり前だ。


それから、しばらくラブラブっぷりを見せつけて、

ご機嫌に帰ってきた。


私が、どうしても話したそうな顔をしてたから、

二人に話してくれたの?と聞くと、そうだよ。と。


私の気持ちを組んでくれて、話してくれたんだ。


そして、私が二人にいいたいって言ったことで、実は彼、

私が本当に本気なんだって、分かったらしい。


うっかりばらしたようになっちゃったけど、それには二人の深い深い気持ちが含まれており、

二人の絆はもっともっと強くなったんだと思った事件だった。



そんな風に、あっさり始まってしまった二人の生活。

一週間前まで、まさか一緒に出勤するとは思っていなかった。

だから、同じ最寄りの駅に住んで、一緒に出社出来るといいね。なんて言っていたんだ。


朝、私よりも少し早く起きる彼は、寝ぐせのついた頭で、近くのパン屋さんまで走って、

クロワッサンを買ってきてくれる。

低血圧な私の為に、コーヒーを入れて、起こしてくれる。

もう、その時点で「うわぁ~」って感動の連続。


一緒に駅まで歩いて、一緒の電車に乗って、同じ会社に行く。

席が一つあいたら、座っていいよ。

エレベーターを降りるときは、私を先に通してくれる。


帰ってきたら、一緒に洗濯をして、

一緒にお風呂に入って、最後にお風呂洗いをしてくれる。


ずっと一緒の生活。

二人三脚の足の紐がついているんじゃないかって、思ってしまうほどぴったりくっついた生活。


もう、ね、私はあなたなしでは生活できないよ。


これまで、夫といても、何もかも、一人でやっていた生活。

朝ご飯も作ってたんだよ。掃除も洗濯も、お風呂洗いも。すべて自分一人でやってたんだよ。

頑張って。頑張ってやったけれど、ほめてもらえる事なんてなかったんだよ。


それをね、頑張らなくても、一人で責任負わなくても、あなたが一緒にやってくれる。

こんなに力を抜いた生活ができるなんて、それがこんなに心地いいなんて。

新たな一面を、あなたが教えてくれたんだよ。


ありがとう。

私を救ってくれて、ありがとう。

でも、私も、あなたの生活からあなたを救いたかったんだよ。

救えて、嬉しそうな顔してくれて、私が運命の人だと言ってくれて、ありがとう。



ゴールデンウィーク。

お互い、家庭がある身だと、会えないかもしれないね。

なーんて、言っていたのに、その週の初めに、家を出る事を決意した彼。

そして、その家探しについていった私。

翌日、引っ越せる家を探して、結局、私が夫と住む家の最寄りの駅の反対側に決定。

これだと、駅で待ち合わせをして、一緒に行けるね♪と彼。


そんな中、夫とは、大ゲンカ。

私も、言いたい事をこれまでずっと貯めこんでいたのもいけなかったんだけど…

私の友達が、来た時に、顔も出さずに、隣の部屋から「どーも」と言っただけだった夫に、

その時はいえなかったけれど、ずっとムカムカしていたので、その事について言ってしまった。

そしたら、普通にゴメンと。


『私の友達が来ても、おもてなしはしないの?』と聞くと、

『うーん、無理かな。』と。

『家事とか手伝う気ないの?』と聞くと、

『うーん、無理かな。』と。

『もし、子供が生まれたら、育児手伝う気ないの?』と聞くと、

『うーん、風邪引いた時くらいは手伝うけどさ』と。

『あのね、私、あなたとの子供、産むつもり、もうないから』と言い放った。

本気でそう思ったんだ。

私が風邪をひいた。薬がないから買ってきてほしいと、お願いをしても、帰ってくるのは深夜3時。

そんな人が、いくら子供が生まれたとしても、何を手伝ってくれると言うのだろう。

結局、私は一人なのだと、悟った瞬間だた。


それを機に、実家に帰ると宣言し、

翌日から、彼と、家具選び。

ちょっと、後ろめたい気もしたけれど、ゴールデンウィークの間、全く夫から連絡はなかった。


彼と新しい家具を選びに行く。

私の家でもないのに、けいちゃんはどれがいいの?と聞いてくれる。

夫は、すべて自分の気に入ったものを、アッというまに、買ってしまっていた。二人の家なのに相談もなし。

新しい所に引っ越しをしたら、彼が探検に行こうと。

これまで、夫と2度引っ越しをしたけれど、一度も町を歩いた事がなかった。

普通そうだよな。引っ越ししたら、一緒に探検に行くよな。

でも、そんな普通な事が、嬉しかったんだよ。

日用品を一緒に買い行って、お掃除をして。

渋谷でフラフラ。お茶して、もうひと頑張り。そんな普通が心地よかったんだよ。

ずっと先の未来まで見えてしまったんだよ。



そして、ゴールデンウィークの最終日。

一応、最終日には帰ると夫に言っていたから、帰ってみた。

実はタクシーでワンメーターの距離。

帰って夫と話あおうと思ったけれど、結局・・・家事も育児もするつもりはナイと。一言。

何の進展もない。

じゃ、私、頑張るネ。というより、和解の方法はないのか。

でも、それは無理。じゃぁ、どうする?


ゴロゴロ引く旅行バッグに当面の荷物を詰めて、また来た道を戻った。タクシーでワンメーターの彼の家に。


泣きながら、帰ってきた私を、

ビックリした彼が迎えてくれた。


「お、おかえり」


そう、言って、抱きしめてくれた。

夫と話したことを、話そうとしたけど、涙で言葉にならなかった私に、

ぎゅってして、「今は話さなくていいよ。ここが、けいちゃんの家だと思っていいからね」と、

そう言ってくれた彼に、しがみついた。

もう、私の居場所はここしかないと思った。


怒涛のゴールデンウィークが終わろうとしていた。