良いしつけの家庭に育った欧米人が来日してショックを受けるのは、レディファーストがないこと、音をたてて蕎麦・うどんをすすること、そして鼻をすすることだろう。
 レディファーストは、廃れつつあるとは言え、西欧ないし欧米の文化であって、異国でそれが慣行でないからといって、異文化の国にそれを期待したり、野蛮な国と思ったりするのは、本来不遜なことだと思う。
 彼らのいうレディファーストとは、例示すれば、
 1.エレベーターの乗降や入室の際に、女性に先導させる。但し、高級レストランに入る際だけは、男性が先導する。エスコートする紳士がいるレディであることを示すためで、娼婦が客引きに勝手に入るのを防ぐために始まったらしい。
 2.男性の左側に立つ。
 3.
 女性が椅子(ソファーではない)に座る時は、男性は、後ろに立って、女性が座りやすいように少し椅子を引き、女性が腰掛ける際に腰をかがめたタイミングで、椅子を戻す。
 4.
 女性が皆座るまで、男性は自分の椅子の後ろに立っている。高貴な方が同席さられる場合には、男女とも、その方が着席されるまで起立しいる。 
 5.車の乗降では、男性が先に車を降りて女性側のドアの
 開閉をする。
 6.握手の際は、男性は、女性が手をさしのべたら、握手する。特に
社交の場では、女性の手への接吻(baisemain)があり、その場合も、男性は、待たねばならない。その際男性は、女性から出された手をとり、そのくるぶしあたりに唇が触れない程度に一瞬近づけて終わる
 7.レジでの清算は、原則男性が行う。
 8.歩道を連れだって歩く際は、男性は、車道側を歩く。
等があげられる。
 これらのマナーは、13世紀に西欧で確立された騎士道によるとの説が有力で、女性尊重のあらわれとされているが、男女平等の現代では、ゆっくりと廃れつつある。但し、外交官の世界では、鹿鳴館時代のごとく、依然として古い西欧の習慣や儀礼やエチケットが上記も含め尊重されている。

 私は、よく半分冗談めかして、1.については、「女性にエレベーターの安全を確かめさせているのだから、女性尊重ではない。日本では、男が先にたって安全を確認するために先に入るし、外の安全を確かめるために、 先にエレベーターを出るのさ。」と言う。
 2.については、「西欧式では、右側の女性が邪魔で、右手が使いにくく、女性を守りにくい。女性を盾に使っているのではないか。侍は、一歩先を歩いて女性を守っていたのさ。」だ。
 3.と5.は、「裾の長いイブニングとハイヒールという社交用の服装という西欧文化を前提としていたもので、普通の洋服や着物なら 必然性はない。」と言える。但し、女性が西欧人の場合は、男性がドアを開けるまで動かないかも知れない。
 4.は、日本でも皇室の方がご臨席の場合に適用される。
 6.は、男女同権・平等だから、通常ならどちらから手をさしのべてもおかしくない、とも言えるかも知れない。但し、相手が自分より上位の人なら待つのが礼儀だろう。
 7.については、最近の日本で、男性のために女性が支払いをしている場面が目立つのは、 「男女同権が進んでいるからさ。」と抗弁できるかも知れない。
 .については、ビルとビルの間に引きずり込む強盗も多い欧米だから、今や必ずしも妥当とは言えまい。

 冒頭の蕎麦をすするのは、ソバつゆを十分楽しむ伝統手法なのだと説明するが、彼らは納得してくれない。子供の頃から、食事で音をたてるとピシャッと叩かれていた躾けのためだろう。鼻をすするのは確かに感心しないが、欧米人が轟くような音をたてて鼻をかむのは、日本では遠慮してほしいと思うことの一つだ。
 いずれにせよ、21世紀の世界は、女性の世紀だ。女性尊重といいながら、DVによる女性の死亡件数が日本の何倍も多い欧米でもある。また、男尊女卑といわれながら、実は女房のしりに敷かれる旦那が多い日本でもある。東西お互いに良いとこ取りでいいから、真の女性尊重の世界の到来を願うものだ。