キセキ。 | やさしい時間

やさしい時間

ときメモGSの妄想小説です。

ネタバレなSSもアリ。
一部限定公開もアリですのでご注意を……。

 思い返してみると、僕らの出会いは互いにあまり良い印象の残るものではなかった。あの時の君の顔を思い出して、僕は小さく苦笑いを浮かべる。
 予鈴が鳴り終わるぎりぎりに校門に飛び込んだ君は、満面の笑みで「セーフ!」と呟いていたっけ。そして僕に声を掛けられた後の膨れっ面。くるくると変わる表情に、僕は呆気に取られていた。

 それから毎日、君は校門に立つ僕に声を掛けてくれるようになった。他の生徒は挨拶をしても関心のない様子で通り過ぎていくか、小声で小さくゴニョゴニョと挨拶を返してくるのに、君だけはいつも笑顔で挨拶を返してくれる。そんな当たり前の行為が嬉しくて。
 いつしか、僕は君の姿を探すようになっていた。君の明るい笑顔と透き通った声。君の姿を見ないと、1日が始まらないような気さえしていた。

 挨拶を交わすだけの間柄が、いつしか二人で一緒に出かけるようになって。君と約束を交わした日は、何故だか気分が高揚して眠れないくらいだった。
 服装を気にしたり、遅刻がちな君を心配してみたり。君の言葉や些細なしぐさ、その視線の先にまで何かの意味を求めたり。
 君の全てが気になって、一緒に居れば君が何を考えているのかが気になって仕方がなかった。とても落ち着かない気分になった。
 それなのに、君と別れた後にはひどく胸が締め付けられるように痛んで。君が立っていた空間がとても寂しくて、冷たくて。
 僕は一体どうなってしまったんだろう。そんな事を思っていた。

 この想いが『恋』であると気が付いたのは、一体いつ頃だったんだろう?
 君が傍に居るだけで暖かく感じたり、全てが上手くいくような高揚感に包まれたり。ただ君が笑ってくれる、それだけでとても幸せな気分になった。
 ただ、君の傍に居られるだけで幸せだったんだ。

 君は、僕のこんな気持ちに気が付いていたんだろうか?戯れに手を繋いできたり、不意に僕に触れてきたり。その度に僕はドキドキして、みっともないほどに慌てて。そんな僕を見て、君はいつも楽しそうに笑っていたね。
 そんな君を見ているだけで、本当に幸せだったんだ。


「何か、奇跡みたいだよね」
 いつだったか、僕らの出会いについて君がそう呟いた。『奇跡』とは夢見がちな君の好みそうな言葉だと、僕は小さく苦笑い。
「しかし僕らは、同じ高校に通っていたんだ。そんな奇跡的な出会いでもないだろう」
「えー?だって、あの日たまたま私が遅刻ギリギリで登校したから、出会えたんでしょ?」
「ははは。僕はあの頃、毎日校門に立っていたよ。それに、あの日以降も君はかなりギリギリな時間で登校していたじゃないか」
 そう返した僕に、君は頬を膨らませた。まるで初めて会ったあの日のように。
「だって、それは…格くんの事が、気になってたんだもん」
「え?それはどういう…?」
「格くんの事が気になって、あの時間に登校すれば会えるかと思ってたんだもん」
 拗ねたように呟く君に、僕の鼓動が速くなった。あの頃、僕が君に抱いていた微かな感情を、君も同じように感じていてくれたのだろうか。そう思うと、胸の奥が熱くなった。
「…ねえ、格くん?」
「あ、ああ」
「やっぱり、奇跡だと思わない?」
 僕の胸の内を見透かしたのか、君は僕の顔を覗き込んでニッコリと笑った。


 あの頃も今も、君の遅刻癖は治らないようだけれど。僕は読みかけの本から顔を上げ、チラリと時計を見て溜息を吐いた。今までの経験から言うと、後5分もすれば君が慌てて走ってくる姿が見えるだろう。息を切らせて、少し申し訳なさそうな笑顔で。

 君と共にある時間。君が僕に与えてくれた、さまざまな感情。君と一緒に居ることで、僕は色んな事を学んだ。君から、色んな事を教わった。
 僕らの出会いが『奇跡』だと君は言うけれど。僕にとっての君との出会いは、偶然で、必然で、そして…。


「格くん!」
 予想通り、息を切らせた君が現れた。荒い息を整えながら、申し訳なさそうに僕の前で両手を合わせる。
「ごめんね、せっかくのお誕生日なのに遅刻しちゃって」
「いや、構わないよ」
 あまりに想定していた展開通りで、思わず頬が緩む。そんな僕の顔を見て、君が不思議そうに首を傾げた。
「…私、何か変なこと言った?」
 その仕草がとても可愛らしくて。僕の頬が、ますます緩む。
「ねえ、何で笑うの?」
「いや、何でもない」
 込み上げてくる笑いを誤魔化すように歩き出す僕。君はそんな僕の顔を覗き込みながら、僕の隣を歩く。
「ねえ、格くんってば!」
「いや、こうして君が僕の隣を歩いてくれているだけで、僕は充分なんだなと思ったんだ」
「?…どういう事?」
 きょとんとした様子で君が聞き返してくる。僕は込み上がってくるこの気持ちを少しでも君に伝えたくて、ゆっくりと言葉を探した。
「上手く言葉には出来ないのだけれど…。そうだな。君が傍に居てくれると何というか、僕は…」



 君がこうして僕の隣に居てくれる。ただそれだけで、心が温かくなる。君が与えてくれる、この優しい気持ち。これこそが、まさに僕にとっての『奇跡』。


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はぴばSSっぽくないけど、一応はぴばSSという事でσ(^_^;)

10月6日は氷上くんのお誕生日です。
彼は好きなキャラの中でも、かなり上位に入ります。

…いや、不動の1位は譲れませんけども(笑)