見えてきた選挙の裏の駆け引き ~大まかな議席数の予想~ | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

昨日から、各紙が一斉に衆議院選挙の予測議席数を発表しました。

それによると、現在は自民が解散前を上回る300議席をうかがうという見方が強いようです。


衆院選情勢分析で与党優勢:識者はこうみる

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JI02Y20141204


今回の解散が決まったとき、私は正直自民が議席を増やせるかは微妙だと思っていました。

しかし、数十議席単位で減ることもないだろうと思っていたので、290議席前後を今回も確保するんじゃないか、というのが当初の予測だったんです。

その上で、公明党の議席を足せばどうにか「三分の二」を確保するだろうと。


その理由は、まず「増えるパイ」がそれほどなかったためです。

おそらく、今回の衆議院選挙は野党はいずれも議席を減らすことになると思っていました。

とくに分裂した維新と次世代、それにみんなの党はかなり苦戦することになるのが見えていたためです。

そしてまた、今回は前々回の衆議院選挙ほどの注目がありませんから、投票率もおそらくは下がります。

そうなれば、組織票が強くなりますから公明、共産はやや議席を増やす可能性があるものの、浮動票頼みの政党は不利になります。


ところが、選挙の直前になってみんなの党と、生活の党が事実上解党したことで(生活の党は党首の小沢氏以外民主党に合流)、議席にやや変動幅が生まれました。

ここでさらに先ほどの投票率低下が加わると、次世代と維新にはとくに不利になりますので、合計で40~50議席ほどのパイが生まれます。

このパイをどこがとり合うか、ということですが、まずはおそらく組織票の強い共産党が伸び、公明党も伸びるでしょうが、こちらは人数を毎回しぼってきますから、せいぜい数議席です。

そしておそらく、残った議席が自民と民主に流れるでしょうが、これで大体30議席前後変化します。

こうなると、自民党が300になっても不思議ではありません。

後は民主党がこのパイをどこまで吸収できるかになりますが、こうなると「野党同士でパイを奪い合った」という、もっとも悲惨な状況になってしまいます。


そうなったとき、野党はおそらく完全に腰砕けになります。民主党はこの情勢なら多少議席を増やせるでしょうが、共産党との連携ができずに、しかも野党の総数が減ってしまえば、協力体制を構築することはかなり難しくなります。

しかも、現状では「巨大与党に協力して立ち向かう」といってはいても、そもそも民主と維新ではかなり立場に隔たりがありますから、何でも民主に合わせてくれる、ということはまずありません。


野党にとって、今最大の問題は決定的なタレント不足です。

前回の衆議院選挙の際には、維新の党が石原慎太郎東京都知事を党首に据えましたが、今回維新は橋下徹共同代表が選挙への出馬をせず、石原氏は次世代の党にいます。

そして民主党も、もともと鳩山、菅、小沢という体制で政権交代までやってきた党ですが、内部はかなり複雑な部分がありました。

民主党の主流はもともとの発起人の鳩山氏がいて、そこに旧社会党系の菅氏や、仙谷氏がいて、さらに小沢氏がおり、さらに野田氏や前原氏などの、松下政経塾出身の若手グループがいたわけですが、今それを束ねられる人材というのがいません。

そのため、今回の選挙後にこのまま野党勢力が再結集するといっても、「一体誰を旗頭にするのか?」をめぐって、かなりの混乱が起きることは予想できる、といよりもすでに見えています。


これは国民の関心でも同じで、こうした状態の野党は国民にとても信任されません。

自民党が熱烈に支持を増やしたのではなく、消極的な支持で今は政党支持率が高い状態ですけれども、そのあたりを今回の選挙は上手くついたと思います。

もともと安倍首相はこういう駆け引きがけして得意な人ではありません。

ですからおそらく、非常に見通しのいい人物がこのタイミングに合わせてぶつけてきたんだろうと思います。

それだけ安倍内閣にとって、今回の解散は複数のメリットがありました。


ひとつは内閣改造後に起こるであろうと、ある程度予測されていた混乱をこれで白黒つけられることにあります。

個人的に、今回の内閣改造は安倍首相の好みの人事だったというよりも、それぞれの派閥にかなり気を使っているな、と思う部分がありました。


それは例えば松島みどり元法務大臣の起用です。

松島氏はもともと安倍総理に近い存在ではありませんでしたし、それをわざわざ閣僚に起用したのには、彼女の背後にいたのが自民党の長老格である森元総理だったことが、いくらか関係していたように思われます。

内閣改造前に石破国家戦略特別区域担当大臣が、幹事長の職に拘って、自分からその職務を外れるのなら他の大臣職を断る、と明言したことはテレビでもたびたび報道されましたが、こうした発言を石破大臣ができた背景には、自民党の長老格の支持がある程度とりつけてあった、という可能性が高かったのではないかと思います。


小渕優子経元済産業担当大臣の場合はまた違いますが、第二次安倍内閣の発足から閣僚の不祥事がほとんどなかった中で、こうした身体検査の甘さはいささか不自然ではありました。

とはいえ、任命責任となるとこれは総理にいきますから、その非難は免れませんし、事実政権支持率も低下しました。

ですが安倍首相は松島、小渕両大臣の分の「泥」をかぶることで、その後ろ盾の長老議員に半ば「貸し」を作ったことになります。

自民党は大所帯ですから、こうした色々な派閥との調整は総裁である以上、どうしても考える必要があるのでしょうし、安倍総理も性格的に独断専行で何でも決める、という人ではないので、このあたりはいうなれば「党内向けの調整」でした。


これほど早く不祥事が発覚することを予見していたかはともかくとして、こうした内閣改造の仕切り直しをもう一度するタイミングが欲しかった。これは解散の一因になったのではないかと思います。


第二は、普天間移転をめぐる沖縄の県知事選挙の影響です。

民主党政権時代に、鳩山元首相が「最低でも県外」という約束を一度はしたことで、アメリカとの普天間移転をめぐる問題は白紙にまで戻りかけましたが、民主党も結局は自民党政権時代の合意を踏襲し、やや修正するという妥協案をとり、最終的には安倍政権になった後で、沖縄の仲井間元知事がこれ了承したことで、辺野古への移転は最終決定した形になります。


ですが、基地問題はもともと沖縄県内では「県内のどこに移転するにしても反対」という意見が強い問題ですから、おそらく次の選挙では仲井間氏がもう一度出馬をしても、選挙に勝てる確率は低いだろうという予測はついていたと思われます。

とはいえ、反対派の知事になったとしても、これで普天間の移転がゼロに戻るということはまずありえません。

ここで計画を白紙に戻すといった場合、アメリカが普天間で固定、と判断する可能性が高いためです。


おそらく自民党としては、沖縄の選挙は今回敗北する、というのは想定内で、あくまでも移転は行う。

こうした方針をとることはわかるのですが、その場合懸念されるのが来年に行われる統一地方選への影響でした。

地方選挙とはいえ、敗北をしたまま選挙を迎えるとなると、それまではには内閣支持率も若干低下していることも考えられますから、党内からは交代論が出る可能性は高かったろうと思います。


しかし、ここで選挙を行って「国政選挙」となれば、全体の方向性としては国民の了承、承認を得られたという大義ができますし、野党が打撃を受けた場合、統一地方選に向けても与党優位の構図がおそらく維持できることになります。


さらに、ここでもう一度「安倍内閣」で選挙に大勝することができれば、党内の非主流を大幅に押さえつけられることにもなるわけです。

こうなれば、少なくとも後二年間は政権を担えるだけの基盤は十分に整えられることになるでしょう。


こうした見ると、今回の解散は実によく狙ったタイミングで仕掛けたものだと思います。

先ほども書きましたが、安倍さんは必ずしもこうした仕掛けが得意ではありません。ですから、おそらくはこのシナリオを書いた人は別にいます。

今の官邸に近い人間で、これだけの筋書きを準備できるとすれば、それはたぶん飯島勲内閣参与の他にいないと思います。

そう思っていたら、知らなかったんですが「たかじんのそこまで言って委員会」ですでにその旨を発言をしていたそうです。


「12月2日に衆議院解散、14日に投開票」 安倍首相の右腕と言われる飯島勲氏がTV番組で暴露

http://news.livedoor.com/article/detail/9425971/


そうすると、今回の選挙を準備した中心は安倍首相周辺の浜田宏一内閣参与と、飯島勲内閣参与の二人で、消費税の増税先送りと、電撃的な選挙での内閣の基盤安定を同時にはかる、ということを数ヶ月前から準備していた、ということがぼんやりとではありますが見えてくるように思いました。

こんな駆け引きのできる人が周辺にいる、というのは安倍総理の能力、それも人柄によるところが大きいのでしょうが、有能な策士っていうのは本当にいるもんだとつくづく考えさせられます。


最後に個人的な今回の選挙の議席数の予測ですが。


自民295~305 民主65~85 公明31~36 共産15~23 維新22~34 次世代4~9


というあたりに落ち着くのではないかと見ています。

共産党は最初に書いたように浮動票を取り込むのではなく、組織票と投票率の低さである程度伸びるでしょう。それだけにどの程度増えるかはあまり予測できません。

公明党は支持率の高さからもう少し議席をとりそうですが、候補者自体が少ないですからある程度増数も限られてくると思います。
民主は他の野党の議席を食べることになるでしょうから、伸びることは予測できてもどこまでかは不透明です。


そして、おそらく悲惨なのが旗頭のなくなった維新ですが……と、ここまで書いて検索したところ、飯島勲内閣参与本人が同じような見解を今日公開されたプレジデントのオンライン版に掲載されていました。


総選挙予測! 与党330議席超、橋下維新崩壊

http://president.jp/articles/-/14082


今回の選挙は「野党の審判選挙」と前々回書いた覚えがありますが、こうやって自分と同じ思考で先読みされてるのを見ると、すごい人がいるものだと、やはり思います。

この通りになれば、まさに思惑通りということなのでしょう。

その上12月8日にGDPの二次速報値が発表される予定ですが、こちらはかなり上向きに改善する可能性が高いという予測がすでに出ています。



http://www.asahi.com/articles/ASGD14HGKGD1ULFA014.html


これも私見ですが、GDPの一次速報値(-1.6%)が発表される前、すでに改善の見通しはデータからも政府の周辺にいる人々のうちの何人かは予測できていたのではないかと思います。

すると「一次速報値」の公表後、ほどなく「増税の延期」を決めたことも、数値を利用していた可能性が高くなってきます。

あれだけ悪い数値を見せられれば、「増税は無理だ」と誰しもが思うところですから、もともと増税路線には否定的だった浜田参与や、クルーグマン教授がそのあたりを安倍総理と相談していても不思議ではありません。


そうするとこれは、野党どころか、財務省すら欺いたという、かなり大掛かりな解散だったように思うのですが、さていかがでしょう。



どうやら選挙の結果の予想はできそうですが、裏はもっとなかなかすごいものがありそうです。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。