これは2017年3月20日 13時に金沢市立泉野図書館2階オアシスホールで上演された劇団不完全燃焼第3回公演『サンジュウシ』についての劇評です。
舞台は、戦争により地上が住めなくなってから、100年後の世界。戦争をしないため人間は地下にコンピューターによって監視、統制された世界を作った。そこでは、暴力、競争、娯楽が禁止され、それを犯したものはコンピューターに粛清される。そんな世界を変えようとレオン率いるレッドエンペラー、リック率いる緑のカジノ、アバコス率いる青闘社の三つの地下組織(コンピューターの管理する地下世界よりさらに地下にある)が協力して、コンピューターのコントロールタワーの襲撃を計画する。
劇を見終わった私は消化不良な感じを抱いていた。舞台上のキャラクターの目的を整理しているうちに劇はなんとなく終わってしまった。そうなった要因をこれから一つ一つ解きほぐしていきたいと思う。
まず、この劇を複雑なものにしている設定をあげるとすれば、それはクローンの存在である。この『サンジュウシ』の世界では、コンピューターから一人の人間に二体ずつクローンが与えられている。登場キャラクター5人のうちナオト以外の4人、レオン、シン、リック、アバコスはクローンを2体ずつ持っており、三つの組織は実質、上の4人とそのクローン、緑のカジノの新人ナオトで構成されている。例えば、青闘社は、アバコスの本体、リックのクローン、レオンのクローン、シンのクローンがメンバーである。他の二つの組織もこういった具合で作られてる(三つの組織は協力するにあたって、信用の証として、お互いのクローンを交換しているため、クローンと本体がひとつの組織に属するということがない)。つまり、一人のキャストに3人のおなじような役が与えられているのである。この13人を舞台上でキャスト五人がどのように表現していたかというと、昨年12月に公演された劇団羅針盤の『西遊記』のように、クローンと本体が入れ替わり、立ち代りをしてクローンを表現していた。クローンと本体を区別するために、キャストは赤、青、緑の三色に光るブレスレットを身に着けており、それによって、今の自分が他の組織にいるクローンなのか、本体なのかはっきりさせていた。レオンの場合、赤ならレッドエンペラーの本体、緑なら緑のカジノのクローンになる。また、舞台上の照明を用いて、それぞれの組織を表現していた。薄暗い照明のときは青闘社の中、赤のホリゾントならレッドエンペラーの中といった具合である。
問題はここからである。それぞれの組織の日常を描いた劇序盤までは、三つの組織は照明によって区別されており、舞台上のキャラクターに関しても、とりわけ混乱することはなかった、今の舞台は青闘社の中で、このアバコスは本体で、このレオンはクローンであるとキャラの正体を認識できた。ところが、三つの組織がいよいよコンピューターのコントロールタワーに乗り込んだ時になると、それまで混ざり合うことなかったクローン同士が殺し合いという形で、対面することになった。というのも、青闘社のアバコスがコンピューターを保護する白の組織と密約を結んでおり、残る二つの組織を裏切ったからだ、青闘社のリックやレオンのクローンは、アバコスの謀略により、他の組織にいる仲間のクローンもしくは本体と戦うことになったのだ。その結果、舞台上で、青闘社のレオンのクローンが緑のカジノのリックの本体と戦い、死んで、そう思ったら、緑のカジノのレオンがナオトを守って、死んで、青闘社のアバコスがレッドエンペラーのシンを殺して、というようなクローンと本体が混同するしっちゃかめっちゃかな状況になった。私は誰が死んで、誰が生きているのか、誰が裏切ったのか、まったく整理がおいつかなかった。このときすでに本体とクローンの区別するものがキャストの身に着けているちっぽけなブレスレットの光だけとなっていたため、ただでさえ区別があいまいな本体とクローンの区別がさらにあいまいになっていたのである。これにより、一人のキャラクターが矛盾した行動しているように映ったのだ。これが混乱の主要な原因だと思う。
そして、そんなわたしをよそにキャストはひたすら、かっこよくポーズを決めて、銃を撃つ。そのたびにクローンはあっけなく死んでいく、そして何事もなかったように同じ顔のキャストが舞台袖から出てくる。そんなやんちゃなこどものごっこ遊びのような情景を観ながら、死んでは、また出てくるキャラクターの命の軽さを感じずにはいられなかった。
物語はさらに進んで、闘争の結果、本体だけが最終的に生き残り、5人はついにコンピューターのコントロールルームに到着する。その際、キャラクターの正体が次々に明かされる。三つの組織の下っ端的存在だったシンの正体が実は先述した白の組織のリーダーであり、宿敵だったということ、唯一クローンを持っていなかったナオトの正体が三つの組織の元リーダーだったのだ。彼は記憶を失っていたのだ。そして、アバコス、リック、レオンの3人の本体だと思っていたのは実はクローンであり、本体はコンピューターのコントロールルームに眠っていたのだ。彼ら3人のクローンの目的はリーダーのナオトの記憶を呼び覚ますことだった。その後、彼らはシンのレーザー攻撃によって、一掃されてしまう。窮地にたたされたナオトであったが、記憶を取り戻し、一発撃った弾丸が見事に、アバコス、レオン、リックの本体の眠っている何かに当たり、3人はよみがえる。三人の本体はクローンと記憶が共有されているので、シンを敵だと認識し、形勢逆転。ラストシーンでは、シンはナオトの説得により、地上への扉をあけ、ナオト、アバコス、リック、レオンの4人は地上の世界へ旅立って幕が下りる。
全くわけのわからない状況だった。どんでん返しが畳み掛けるように来て、キャラクターの真の目的や関係図がわからなくなっていた。シンがナオトをここまで連れてきた目的、裏切ったはずのアバコスをシンが殺したり、リックが突然、ナオトをつれてきたとして、アバコスを撃ったりと。結局、誰がどことつながっていて、誰が敵なのかわからなくなっていた。レオン、リック、アバコスの本体が同時に復活してきたところが非人間的な感じがして、ただただ気持ち悪かった。
総括すると、劇が観終わった後の混乱はクローンによるキャストの一貫しない行動と後半のどんでん返しの多さによってもたらされたものだった。
今回の劇団不完全燃焼の公演は、それまでの高校演劇らしい側面とは、打って変わって、羅針盤のような空想活劇に変わっていた。『死ぬ気でやりたいことをやる』という劇団不完全燃焼らしいテーマは残っているものの、銃でのアクションや物語の設定を説明する語りの方法など羅針盤と似かよっていた。それまで採用してきた高校演劇に代わるものとして、空想活劇を打ち出してみたのだろうか、今回の劇がその転換点なのかはわからない。ともかく、次に観るときにはもっとみやすく、混乱しないような劇を期待したい。