仕事帰り、いつものように私はスマートフォンをポケットから取り出し、妻に『LINE』で帰宅を予告する。
返信がある時と無い時がある。
返信がある時は、【現在の息子の様子】が文章や写真で送られてきたり、【買物】を頼まれたりとか、他愛もないものが多かった。
その日は返信があった。
≪ぼくね、お父さんに会いたいんだよ。と、息子が言っています。≫と
その日は『金曜日』だった。
『休み明け』である。
息子にとって、前日に私と過ごしたことが楽しかったのであろうか。
息子が幼稚園に通い始めて以来、『平日が休日』である私と『平日は14:00まで幼稚園である』息子が過ごす時間は以前に比べて大分減ってしまった。
「午前中はゆっくり過ごせるし、ま、いいか」などと悠長に構えていた私であったが、実のところ寂しい想いが募っていた。
休日は専ら、遅い午後の時間に近所の公園へ息子と遊びに行くようになった。
それだけでは何か私が物足りず、特別に用がなくても、わざわざ『イオン』へ買い物に行ったりした。
あの日は『HMV』でかねてから息子が観たがっていた【モンスターズ・インク】のDVDを買ってあげた。
その日息子が『良い子だった』事例を無理やり買ってあげる理由としてこじつけて。
そして、金曜日の夜。
≪ぼくね、お父さんに会いたいんだよ≫
この言葉を胸に、私ははやる気持ちを抑えつつ、家路に車を走らせた。
息子と一緒に【モンスターズ・インク】を観ることを楽しみにしていた。
「ただいま~!」
普段は抑揚のない挨拶で帰宅する私であったが、その日は幾分声高になってリビングの戸を開け、息子の姿を探した。
息子は私に見向きもせず、テレビのモニターにくぎ付けとなっていた。
【モンスターズ・インク】を観ていた・・。
「ただいま~!」
もう一度、少し強めに『お父さん』の帰宅をアピール。
息子は私に見向きもせず、テレビのモニターにくぎ付けとなっていた。
(そ、そんなはずはない!それじゃ話が違う!)
私は息子の顔の傍まで自分の顔を近づけて、もう一度言った。
「ただいま~!」
息子はチラリと、私の顔を一瞥。
それだけだった・・。
そしてまたすぐに、【モンスターズ・インク】に向き直ったのだった・・。
(ふ、そうか。まあ、いいさ)
(ひな鳥はいつか巣立っていくものさ)
今はまだ、冗談交じりにこのような出来事も楽しく思う私だが、
やはり、いつか子供は親元を離れていく。
それが自然で、とても幸せなことだと十分に意識して、今この時期を大切に過ごしていきたいと思う今日この頃です。
以上、
藤島住宅 岩原 賢太郎