美容師とお客さん
初めて行く美容院はその人一人でお店をまわしていた。ふわふわした感じで、髪はお団子にしていて、童顔だった。「今日11時から予約した者です」と伝えると一瞬間があったけど「あ!!はい!奥宮雫様でいらっしゃいますよね!お待ちしておりました!」とハキハキと可愛らしい声で案内された。可愛い人だなーと思った。初来店の手続きも済まして鏡の前へ向かった。その子は動く丸椅子に座りゴロゴロと私の隣に来て、自己紹介をしてくれた。「担当させて頂く、藤田美帆です。よろしくお願いします!」同い年だということが判明して、少し盛り上がった後、髪の話になって、カラーと髪の長さや形をどうするかの打ち合わせが始まった。なんとかスッキリしたかったので、「本田翼さんぐらいの髪の短さと色はこげ茶みたいな色でお願いします」と要望した。藤田さんは笑顔で「かしこまりました」と微笑んだ顔が物凄く可愛かったのを覚えている。しかし、その笑顔がのちに青ざめた表情になる事を私も、きっと彼女も予想していなかっただろう。カラー染めをしている間、ちょこちょこと話をする「そういえば、ここって何で知りました?」「あー、えーっと、友人から聞きました」「おぉ!ご友人様から!嬉しいです!」「なんか、雰囲気いいよって紹介してくれて」「へぇ!そうなんですね!実際来てみてどうですか?」「結構ハマってます」「わーいっやったー!ww良かったです!」「いえww藤田さんも面白くて楽しいです。」「嬉しい~~w精一杯頑張りますね!お客様のご期待に添える髪型にします!」「ふふwはい、お願いしますw」塗り終えて時間を置く時、飲み物は何を飲まれますかと言われ「じゃあホットのお茶でお願いします」と言ってすぐにお茶と少しのお菓子が乗った小さめの木の板を目の前に置いてくれた。携帯を弄りながらお茶を飲んで過ごしているうちに髪を洗い流す時間が来た。髪を洗われている時丁寧に頭皮を這うその指を急に意識してしまった。手つきが凄くいやらしく思えて、ムズムズしてしまっている自分が物凄く恥ずかしかった。しかしそれだけでは終わらなかった。そう、マッサージだ。頭皮のツボをゆっくりと指全体で押してくる。両方の指でこめかみ部分を優しくグリグリして、おでこの産毛あたりから耳の付け根まで一気にスゥーっと下がり、極め付けには両耳を手全体で摘むようにし、終いには親指で耳の穴の入り口付近を少し擦ってそのまま後ろ首を揉み揉みして終わった。正直、鳥肌がすごかった。きっと今私は濡れている。そう自覚したのは起き上がる時ひんやりしたからだ。思わず「はぁ。めっちゃ良かったです」と気抜けた声でそう呟いていた。「ふふwご満足いただけて嬉しいです!」と柔らかな声が後ろで言ってるのを聞きながら髪を拭かれていた。椅子に戻り、髪をクシで整えながら最終確認をする。お願いしますと答えると、では切りまーすと返ってきた。チョキチョキ切られていると段々眠くなって、ウトウトしている間に寝てしまっていた。どのくらい寝ていたのか、肩をトントンされてるのが分かって、あ寝てしまったと思い起きてすぐ謝った。だけど何かがおかしい。藤田さんが目の前にいる。何やら必死で謝っている。「ど、どうしたんですか!」「ごめんなさいっ!私・・・」「え・・・?なに?」スッと横にずれて目の前にいる自分を見て、驚いた。髪が・・・ない。ないというより、ベリーショートだ。本田翼はどこへ行ってしまったのだろう。「え・・・」「本当にごめんなさい!私・・・私・・・」藤田さんは物凄く焦っている・・・俯いて、目をぎゅっとつぶって、長めのスカートをぎゅっと掴んで肩に力を入れていた。言っても、私は決して本田翼さんみたいになろうとしていた訳ではなく、まぁ短ければなんでも良いと思ってたので、特に気にしておらず、そんな藤田さんを見て可哀想に思えて来た。でもどうして、こんなになってしまったのかを知りたくて、ちょっと今の藤田さんには酷だが、聞いて見る事にした。「怒らないので、経緯を教えてください」「・・・は、はい・・・。」しばらくの沈黙の後、固く閉ざされていたその口がやっと開いた「え、っと・・・いつの間にか奥宮さんが眠られていたのを確認した時、ちょうど、右側の部分を切っていました・・・」「その時にふと思ったんです。奥宮さん、頭の形いいからもっと短くても絶対似合うなーって。それをずっと考えていたら、最後のドライヤーが終わり、コンセントを外して片付けている時でした。あれ・・・?って。急いで全体を見ました。そしたら・・・」「こうなっていた、と。」「はい・・・。ご、ごめんなさい・・。どうしよう・・・。」「怒らないですから、大丈夫ですwwいやぁ~実際、ベリショと迷ってたんですよね~」「え・・・?」「本田翼さんも短いけど、まぁあれでもスッキリするかなって事で言ってみただけなんでwでも・・うん!いい感じです!」「え、え、え・・・」藤田さんを見てそう伝えると、ブワッて涙が溢れ出てて焦った。「え!なっ!」と私は動揺して、一瞬で藤田さんの手は今私の髪の毛だらけ、つまり拭えない!と判断して、藤田さんの腕を掴み近くまで来さして、親指で拭きとった。必死で、泣かないでくださいって伝えたけど、私を見ながら子供のようにうわんうわん泣いていた。それにびっくりしたけど、なんか可愛くなって藤田さんを見上げながら控えめに肩を震わせながら笑ってしまった。なんで笑ってるんですかぁと泣きじゃくりながら訴えて来て、ごめんなさいと言いつつも笑っている私をみて、笑わないでくださいぃもっと怒ってくださいぃ私を叱ってくださいぃと変な懇願をして来た。それに我慢していた物が込み上げてきて、盛大に笑ってしまった。側から見たら、何事だと思うだろう。「ちょ、ほらぁもう、顔ぐちゃぐちゃですよ!ティッシュどこですか?」そういってあたりを見渡す、すると受付付近にあるのを発見し、箱ごと持って藤田さんの所へ戻る。何枚かとって、鼻水をふく。「はい、チーン」「ん、」ブゥ~と鼻水が出て、それを綺麗に拭き取る。美容室に来て一体私は何をしているんだろうと一瞬よぎったが、考えない事にした。しばらくして、落ち着いたのか、私の目を見て謝って来た。「ほんっとうに、申し訳ありませんでした!!」「ほんと、大丈夫ですからw」「いえっ!ダメです、私は美容師として失格です!私情を挟んでしまったのですから!」「私情?ですか?」「あ・・・えっと、な、なので!代金要らないです!それぐらいはさせてください!」「え!いや、ダメですって!代金は払います!」「いえ、結構です!!私のせめてもの償いを受け取って下さい!」そう必死でお願いをされ、渋々了承した。だけど、なんかその時、またこの子に会わなきゃって思って、無理やりプライベートの連絡先を聞いた。一年後・・・「あぁ~えっと・・・専門学生の頃だったかな、よく通ってたカフェがあったんだけど。そこに同じくお客さんとしていつも居た人がね女性で、しーちゃんにすんごい似てたの。それで、その人の髪型がベリショートで、すごくタイプでっ!それで思い出してたら、自分の好みの髪型にしていたの・・・。」そう言って、話す彼女は少し申し訳なさそうに締め括っていた。それをそうだったんだと笑いながら聞く私は彼女にこう言った「私もね、大学通ってた頃、行きつけのカフェでお団子頭のふわふわした感じの女の子がいつも決まった時間に来てたのを見てて、可愛いなって思ってた。」