集団的自衛権を合憲と解釈したいなら、これでどうですか? | 今村健一郎(愛知教育大学 哲学教員)のブログ

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 政府・与党は集団的自衛権の合憲性の根拠として最高裁砂川判決を持ち出している。だが、砂川判決を集団的自衛権を容認した判決と解するのは、多くの論者が言うように、明らかに無理筋である(この無理な解釈の与党内での主要な支持者は高村副総裁[弁護士出身]であるらしい、だが、彼の出身校である中央法科の憲法学の授業では、そんなことは教えていなかったと思う)。

 さて、今回は、タイトルにあるように、集団的自衛権をいかにして合憲と解釈するか?という問題について、少なくとも砂川判決を根拠に持ち出すよりは説得的な答えを提示したいと思う。

 結論から言うと、可能な道筋があるとすれば、それは、(憲法は個別的自衛権ならば認めているという前提の下で)集団的自衛権を「個別的自衛権の共同発動」と解する方途だけではないだろうか(個別的自衛権共同行使説)。調べると、この解釈は、昭和26年の第10回国会での外務省条約局長の答弁に見ることができる。引用しよう。

「一つの武力攻撃が発生した場合に、その武力攻撃によって、自国の安全に対する被害を受ける国が数多くある場合には、その数多くの国は、おのおの国際法上当然自衛権を行使し得るわけであるが、これらの国が自衛権をいわゆる共同して行使するという場合、そこに集団的自衛権というものがあると解釈するのが一番穏当かと思われる」(西村熊雄外務省条約局長の発言。第 10 回国会参議院外務委員会会議録第 6 号 昭和 26 年 2 月 22 日 p.2.)

上の引用中の下線の部分に「個別的自衛権の共同行使としての集団的自衛権」という発想が示されている。

 さらに遡るならば、この「個別的自衛権の共同行使としての集団的自衛権」の観念は、サンフランシスコ会議に先立ち、チャプルテペック協定によって米州の共同防衛体制を築いていたアメリカがすでに抱いていたものでもある。(そのアメリカや、アラブ連合を結成したアラブ諸国の要求によって、サンフランシスコ会議では、集団的自衛権を謳った国連憲章第51条が挿入されたのである。)国際法の教科書を引用しよう。

「…国連憲章の立案当時、ことに米国は、集団的自衛権を『集団的防衛』と同一に理解し、そのような権利は国家に『固有なもの』として存在していたし、当時も存在するものと考えていたようである。当然その背後にある意識は、高度な連帯意識であり、…その一ヵ国に対する外部からの攻撃を、自己に対する攻撃と同程度であるとの認識が存在する環境で成立する権利であるとみた。このことから、学説として、集団的自衛権の本質を、集団的自衛権は、他国のためにする防衛ではなく、本質的には自己防衛であり、そのような密接な関係(または共通利益)の存在を前提に、個別的自衛権の共同発動として成立する「国家の固有権」であるとする説が生ずる。」(経塚作太郎『現代国際法要論』中央大学出版部、446-7頁)

上記引用中の下線部分が重要であろう。「その国が攻撃されることは自国が攻撃されるに等しい」と日本の政府と国民が認識するような国は、果たして存在するだろうか?そのような「密接な関係」ないし「共通の利益」の認識があるとするならば、そこには、「相互防衛条約」がすでに存在していなくてはならない(すると、「日米安保条約」はそのような「"相互"防衛条約」に該当するかどうかが問題となってこよう)。だが、そうすると、「国家の固有の権利」としての自衛権の意味が薄れてしまう(経塚447頁)。

 つまりこういうことだ。日本と相互防衛条約を締結している国が存在する。その国と日本は(主に安全保障上の)共通の利益を有している。日本とそのような密接な関係にある国が第三国から武力攻撃を受けたならば、その攻撃国に対して、日本は集団的自衛権を行使しうる。無論、日本とその国の間には、すでに相互防衛条約が存在するのだから、この場合の日本の武力行使は、条約の発動である。だとすれば、これをさらに「集団的自衛権の行使」と称する意義は乏しいのではないか。

 「集団的自衛権」に意義があるとすれば、それは相互防衛条約ないし集団防衛条約を国連の枠内で合法化するという点に尽きるだろう。となると、もし日米安保条約がそのような相互防衛条約であるとするならば、集団的自衛権は、日米安保条約を国連の枠内で合法化するためにこそ、有意義であるということになろう(国連を重視する日本としては、この意義は軽くないと言わねばならないだろう)。

 日本にとって「集団的自衛権」の意義とは何か?それは国連加盟国に対して、「日米安保条約は国連憲章に則った集団的自衛権の行使なんです」という合法性のアピールができるという点に尽きる。…しかし、日本政府は、日米安保条約の合法性や正当性については、機会あるごとにアピールしてきただろうから、今回の政府・与党の憲法解釈は、単にそのアピールの回数を一回増やしただけという気がしなくはないが…。

 日本政府・与党のみなさん、どうでしょうか?「集団的自衛権は合憲である」と解する方途はあります。でも、それは日米安保条約が相互防衛条約であるか否かにかかっています。そして、もし日米安保条約が相互防衛条約であるならば、それは国連憲章第51条が国家に固有の(inherent)権利として認める集団的自衛権として、国際法上、合法です。なんか「泰山鳴動して鼠一匹」って感じですけどね。