「今日は、法律要件と法律効果について勉強しましょう。」
自主ゼミ室内のホワイトボードの前で、青色のマーカーを手に持ったテミスが言う。ここは、ぼくの大学の法学部棟の自主ゼミ室1である。ぼくの大学は、法科大学院と施設が一部共通しており、この自主ゼミ室1は本来、法科大学院用の部屋であるが、予約すれば法学部生も使用可能だ。どうやらテミスが事前に教務課に行って予約していたようである。ホワイトボード、くっつけられた4つの白い長机、8つのデスクチェアが設置されており、自主ゼミをするには申し分ない環境だ。
「法律要件と法律効果の説明をする前に。」
とテミスが言い、羽織っていたジャケットのポケットから、1本の黒色ボールペンを取り出す。そして、テミスはそのボールペンを、デスクチェアでふんぞり返ってテミスの説明を聞いていたぼくの方に差し出し、
「東藤くん。このボールペン、500円で買いなさい。」
なんでだよ。
「いいから買いなさい。これを買わないと、あなたの未来はないわよ。」
「良いじゃんか東藤。帝さんが使ってたボールペン譲ってもらえるんだぜ。俺なら1000円出しても買うね。」
横で佐渡島がヘラヘラしながら相槌をうつ。そういう問題じゃない。
「どう見ても500円もするようなボールペンには見えないぞ。」
一応、ぼくはテミスに抵抗してみる。一般的な大学1年生にとって、500円の出費は死活問題だ。500円あれば、大学近くの激安弁当屋で弁当が2つは買えるからな。2食分の代金を、そうやすやすとボールペンに費やすわけにはいかない。
しかし、テミスはなおもボールペンをぼくの鼻先に突きつけ、
「もう一度だけ言うわ。これを買わないと、あなたの未来はないわ。この意味、分かるわよね。」
ぼくの人生を握っている女神様から、このボールペンを買わないと未来はない、と脅された場合、ぼくの返事は1つだ。
「買わせて頂きます。」
「最初からそう言いなさい。」
ぼくは、財布からなけなしの500円を取り出し、テミスに渡すのと引き換えに、ボールペンを受け取った。見たところ普通の黒色のボールペンだ。少し傷が入っているが、使い心地は悪くなさそうである。ボールペンの上部に、なにか文字が彫ってあるな。ええと、ジー…エー…アイ…エー…。「Gaia」か。
ぼくがボールペンをまじまじと見ていると、突然テミスからひょいとボールペンを取り上げられた。
「あ、何すんだよ。返せよ。」
ぼくはデスクチェアに座ったままテミスの右手からボールペンを取り返そうとするが、テミスは右手に持ったボールペンを高く掲げ、ニヤリと笑って言う。
「どうしてあなたに返さないといけないの?」
どうしてって。
「そんなの当たり前だろ。ぼくの物だからだよ。」
「なるほど、良い着眼点ね。じゃあ、なぜあなたの物だと返さないといけないの?」
「そりゃあ…そのボールペンを持ってるのはぼくなんだから、ぼくが返してくれって言う権利があるからだよ。」
ぼくの返答に、テミスはふんふんと頷きながら、
「良いわね。そう、あなたはこのボールペンの持ち主なのだから、ボールペンを返してくれと私に言う権利があるわ。さて、その権利の名前をなんていうか分かる?」
そんなの突然言われても、法律関係の記憶を全て抹消されているただの大学1年生のぼくが覚えているわけがない。
「はいはい!所有権です!」
佐渡島が、右手を挙げながら発言する。
「そのとおり。所有権ね。東藤くんが所有権に基づき私にボールペンを返せと請求することができるように、ある人が相手方に対して何かを請求したり、ある人が相手方に対して何かの罰を科したりする場合、そのある人には何らかの権利があるのが通常ね。他方で、何かを請求されたり、罰を科されたりする方は、その権利に対応する何らかの義務があるのが通常ね。こういった権利や義務は、法律の条文に定められていることから発生するわ。例えば所有権は民法206条に規定されていることから発生するわね。法律の条文に定められていないのに、権利や義務が発生することは通常はないわ。」
なるほど。確かに法律に書かれた権利が何もないのに、相手が持ってる物を返せとは言えないよな。
「じゃあ、こういった法律の条文に定められた権利や義務というのは、物理的に目に見えるものなのかしら。」
テミスの質問に、ぼくは答えに詰まる。うーん。どうだろう。例えば、このボールペンをテミスがぼくに売る場合、契約書を用意して、このボールペンをぼくに売ります、所有権はぼくのものです、と書くことはできるだろう。だけど、それは紙に所有権、という文字を書いただけで、権利が物理的に目に見えるのかというと、話は別な気がする。
「いや、権利や義務っていうのは、目には見えないんじゃないかな。ぼくは18年間生きてきて、所有権や刑罰権といった物体に出会ったことがないし。」
と、実年齢を11年ほどサバ読んで、テミスに答えてみる。まあ,テミスに生き返えらせてもらって,今18歳として暮らしているのだから,嘘ではないだろう。テミスは、ぼくの解答に左手の指をパチンとならして、
「そのとおりね。この法律に定められた権利や義務というのは、物理的には目に見えないものなの。でも、さっき言ったとおり、何らかの権利がないと、相手方に対して請求したり、罰を科したりすることはできないわ。じゃあ東藤くん、あなたはどうやって自分にこのボールペンの所有権があることを証明するの?」
そんなの簡単だ。
「そりゃあ、テミスから500円でボールペンを買ったからね。テミスが持っている物であるボールペンを、ぼくが500円で買ったってことを証明すれば、同時にぼくにボールペンの所有権があるってことを証明したことにならないかな。」
ただ、このボールペンは、半分強迫によって買わされたものだけどな。
ぼくの解答に満足したのか、テミスはパチパチパチと拍手する。
「厳密にはもう少し詰めるところがあるけど、大まかにはそういうことね。つまり、法律に定められた権利が自分にあることを証明するには、その権利があること自体をダイレクトに証明するのではなく、その権利が存在することを基礎付ける具体的な事実を証明することになるというわけね。
 このように、法律の条文は、権利や義務というものが直接は目に見えないことから、ある法律要件に該当する事実があれば、権利や義務という法律効果が発生する、と規定することによって、権利や義務が存在するという状態を誰の目からでも見える形で把握しようとしたの。これが、今回話す法律要件・法律効果の意義よ。

そう言うと、テミスは右手に持ったボールペンをぼくに手渡す。おいまさか、この説明のためだけにぼくにボールペンを500円で買わせたんじゃないだろうな。
「さて、法律要件と法律効果を、具体的な条文に基づいて見ておきましょう。じゃあ、復習として、刑法199条の条文を読み解いてみましょうか。2人とも、ポケット六法をめくって条文を確認して。」
刑法199条は前にも六法で引いたが、テミスが六法をめくれと言うのだからめくらねばなるまい。
「じゃあ、佐渡島くん、刑法199条を読んでみて。」
テミスに指名されて嬉しそうな佐渡島は、流暢に条文を読み上げる。
「はい、刑法199条。殺人罪。人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の有期懲役に処する。です!」

「そのとおりね。」

そう言うと,テミスは刑法199条の文言を,ホワイトボードにマーカーでさらさらと書く。

「では,次に東藤くん,民法555条を読んでみて。」

お次は民法か。任せろ。

「民法555条。売買。売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。だね。」

「ばっちりね。」

そう言うと,またテミスはホワイトボードに民法555条の文言をさらさらと記載する。

「さて,じゃあこれらの条文の,どこからどこまでが法律要件で,どこからどこまでが法律効果でしょうか。法律要件の部分に下線,法律効果の部分に下線と太字でそれぞれ区別してみなさい。」

テミスが,ぼくと佐渡島にそれぞれマーカーを投げ渡す。佐渡島とぼくは,そのマーカーをキャッチすると,さっそくホワイトボードに書き込みにいく。

 

・刑法199条 殺人罪

人を殺した者は死刑又は無期若しくは5年以上の有期懲役に処する。

 

・民法555条 売買

 売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによってその効力を生ずる

 

「そのとおり。人を殺した,という法律要件に合致する具体的な事実があれば(例えばXさんが殺意をもってVさんを刃物で刺し,失血死させた事実などがあれば),法律要件が満たされたことになるので,死刑又は無期若しくは5年以上の有期懲役に処するという法的効果(ここでは刑罰権)が発生することになるわね。

他方,売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約した,という法律要件に合致する具体的な事実があれば(例えばYさんがXさんに対し,令和2年12月22日,「鬼滅の刃」のコミックス23巻を,代金1000円で売った事実などがあれば),法律要件が満たされたことになるので,その効力が生ずる,すなわち所有権がXさんに移転するなどの法律効果が生ずることになるわ。民法555条には,その効力を生ずる,としか書いていなくて,具体的な法律効果の中身は,総則の編の民法176条に書いていたり,契約の章の民法560条に書かれたりしているけど,このように具体的な法律効果の中身が民法の中のあちらこちらに散らばっているのは,民法が特殊な規定の仕方をしていることによるわね。この辺りは,後日勉強する民法入門でまた話をするわね。」

やれやれ,この勉強会は後日も続くのか。そんなぼくの落ち込み具合を意に介することなく,テミスは話を続ける。

 

「2人とも,前回(第1話 法的三段論法② | リーガルコレクトーやり直しの司法試験 (ameblo.jp))の法的三段論法は覚えているかしら。

法的三段論法とは,

①大前提(規範。条文やその解釈)を確認し,

②小前提(規範を適用する前提となる紛争の事実)を確認した上で,

③紛争の事実に規範(条文)が適用できるかどうか,という結論を(②が①に当てはまるかという結論を)出す手法

を言うんだったわね。

私たちは,紛争を解決するために法律を学ぶのだから,まずはその紛争の事実(②小前提)をしっかりと把握した上で,その紛争解決のために適用すべき法律の条文(①大前提)を探さなければならないわ。そして,適用すべき法律の条文(①大前提)を発見できたとしても,その法律の条文を読んで,どの部分が法律要件なのか,どの部分が法律効果なのかをきちんと読み取れないと,結論(③結論として②の紛争の事実が①の法律要件に当てはまり,法律効果が発生するか)を適切に導くことはできないわ。法的三段論法を適切に使うためには,大前提となるその法律の条文を読んで,どの部分が法律要件なのか,どの部分が法律効果なのかをきちんと読み取る能力を身に付ける必要があるということね。ここで最後にもう一度,前回の法的三段論法を法律要件,法律効果の観点から復習するわね。②小前提の事実は,ゲドーの事例を使いましょう。」

今回の自主ゼミはけっこう長めだな。テミスがかなり丁寧に説明している節もあるが,それだけ重要なところということなのだろう。あとテミス,お前も外藤先生がいないときはちゃんとゲドーのあだ名で呼ぶんだな。

「法的三段論法を説明すると,以下のとおりね。ちなみに,刑法199条の法律効果の部分は,前回同様,分かりやすさのために簡略化しているわ。

 

①大前提(規範):「人」を「殺した」者は、刑罰に処する(刑法199条)

 

②小前提(事実):Xは、持っていた刃渡り20cmのナイフでYの左腹部を突き刺し、その後ナイフを引き抜いたため、失血死させた。

 

③結論: よって、Xは、「人」であるYに対し,持っていた刃渡り20㎝のナイフで左腹部を突き刺し,その後ナイフを引き抜き失血死させた行為により「殺した」ため(②が①に当てはまるため),刑罰に処する。

 

これを図式化すると,こうね。

 

①大前提:「人」を「殺した」者(=A)は、刑罰に処する(=B。刑法199条)。 …→A=B

 

②小前提:X(=C)は、持っていた刃渡り20cmのナイフでYの左腹部を突き刺し、その後ナイフを引き抜いたため、失血死させた(=A)。 …→C=A

 

③結論: よって、X(=C)は、「人」であるYを「殺した」ため(=A)、刑罰に処する(=B)。…→C=A=Bより,C=B。

 

そして,前回したこの法的三段論法の説明を,今日学んだ法律要件・法律効果の議論を踏まえて考えると,以下のとおりの説明になるわ。

 

①大前提:「人」を「殺した」という法律要件Aがあれば,「刑罰に処する」という法律効果Bが生ずる(刑法199条)。 …AB

 

②小前提:結論の対象となるX(このXを仮に「C」と置く)は,持っていた刃渡り20cmのナイフでYの左腹部を突き刺し、その後ナイフを引き抜いたため、失血死させた(これは,法律要件Aに合致する具体的事実である)。…CA

 

③結論:よって、Xは、「人」であるYに対し,持っていた刃渡り20㎝のナイフで左腹部を突き刺し,その後ナイフを引き抜き失血死させた行為により「殺した」ため(小前提②の事実が①の法律要件Aに当てはまるため),「刑罰に処する」という法律効果Bが発生する。…→C=A=Bより,C=B。

 

ということになるわね。」

なるほどね。要は,法的三段論法は,②小前提の事実を①の法律要件Aに当てはめて法律効果Bが生ずるかどうか,という③結論を,説得的に説明するための手法なんだな。そして,①大前提の法律の条文のうち,どこが法律要件Aで,どこが法律要件Bかを少なくとも自分が読み取れないと,法的三段論法をそもそもきちんと使うことができないってことか。

「東藤くんにしては冴えてるじゃない。」

納得顔をしていたぼくの内心を読み取ったのか,テミスが声をかける。

「あの,1つ質問なんですけど,殺人罪って,『人』という要件と,『殺した』という要件とで,法律要件は2つあるように思えるんですよね。この場合,どちらか片方の要件が満たされない場合,法律効果はどうなるんでしょうか。」

佐渡島がテミスに質問をする。なるほど,確かにそうだな。

「良い質問ね佐渡島くん。法律要件は,基本的には直列回路の形で定められている,と思ってくれれば良いわ。」

テミスはそう答えると,ホワイトボードに直列回路の図を書く。

 

この直列回路の図で法律の条文の説明をすると,法律要件Aが2つの赤い電池(「人」の電池a,「殺した」の電池b),法律効果Bが黄色の電球だと思ってくれれば良いわ。この電球は,電池が2つあることで点灯するという設定だとして,例えば「殺した」対象が「人」ではなく母体のお腹の中にいる胎児だったとしましょう。その場合,「殺した」の電池bはあるけれども,胎児は刑法上人ではないから,「人」の電池aがセットされないことになるわね。すると,電池aと電池bが両方ともそろわないため,電球という法律要件Bは点灯しない(法律効果Bは発生しない)のよ。佐渡島くんが言ってくれたとおり,直列回路型の法律要件の場合は,その条文に規定されている法律要件を全て確認した上で,それらの法律要件に該当する具体的事実が,②小前提の中に含まれているかどうかをしっかりと吟味することが大切なのよ。」

なるほどね。確かに法律の条文を読んで事実に当てはまるか検討している際に,法律要件の漏らしがあるとまずそうだ。1つでも法律要件が欠ければ,法律効果が生じなくなってしまうんだから。

…あれ,今テミスは直列回路型の法律要件の場合は,って言ったな。

「今の言い方からすると,直列回路型以外の法律要件の定めもあるってこと?」

「そのとおりよ東藤くん。直列回路型ではなく,並列回路の形で条文が定められているものとして,例えば改正民法95条1項(令和2年4月1日施行)を見てみなさい。」

改正民法95条1項か。ええと。

 

・民法95条1項 錯誤

 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

 

「確認できたかしら。民法95条1項は,契約など意思表示に錯誤がある場合にその意思表示を取り消すことができる,という法律効果を定めた条文だけど,その法律要件を見てみると,『次に掲げる錯誤に基づくものであって』,とあるように,

 

 意思表示に対応する意思を欠く錯誤(一号)

または

 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(二号)

 

のどちらか片方に該当する錯誤であれば,法律要件Aを満たすことになるのだから,一号,二号の両方を満たす必要はないわけね。このような法律要件の規定の仕方は,並列回路型だと考えれば良いわ。」

そう言うと,テミスはホワイトボードに並列回路の図を書く。

 

「並列回路型の条文の説明をするわ。さっきと同じように,法律要件Aが2つの赤い電池(一号の電池a,二号の電池b),法律効果Bが黄色い電球だと思ってくれれば良いわ。並列回路だから,電池aか電池bさえセットされていれば,電球は点灯するわね。そして,②小前提の事実として,一号に該当する錯誤の事実はないけれども,二号に該当する錯誤の事実があったとしましょう。その場合,一号の電池aはセットされていないことになるけれど,二号の電池bがセットされているから,法律要件Aが満たされ,電球という法律要件Bが点灯する(法律効果Bが発生する)ことになるのよ。」

ははあ。なるほどね。ますます,法律の条文をしっかりと読み解くのが大切になるな。

「そのとおりね。法律の条文は一応日本語で書かれてはいるけれど,しっかりと読み込まないとどういう構造になっているか,どういう意味かを間違って読み取ることになってしまうわ。法的三段論法は,少なくとも①大前提と②小前提が正しくなければ,③の結論も正しくはならないのだから,バカにすることなく,条文が出てきたら,その都度,きちんと六法で条文を引いて文言を読み込むことが大切よ。六法は学生のときに使っていた国語辞典や英和辞典とは異なるの。私たちの商売道具かつバイブルなのよ。たとえ一度引いたことのある条文だったとしても,何度も何度も引いて読み込むの。それが法律の力を向上させるための必須条件よ。

だからテミスは必ずぼくに六法を引くように指示していたのか。六法をきちんと引いて,文言を読み込む重要性が少し分かったよ。

「まあ,法律の条文の基本的な読み方は,また別の機会に解説するわ。長くなっちゃったし,とりあえず今日はここまでね。」

テミスが両腕を上げ,んーっと伸びをする。ぼくもだいぶ肩が凝ったな。でも,なかなか勉強になったぞ。テミスについていけば,ぼくの司法試験合格も夢じゃないかもしれないな。また自主ゼミも開催してくれるみたいだし。佐渡島はまた次回も来てくれるのだろうか。

そんな風に思って,ぼくはちらりと佐渡島の方を見た。満足げなぼくと,今日の仕事は終わったとばかりのテミスとは対照的に,佐渡島はまだ何か質問があるような顔で,あごに手を当てている。

「どうしたんだよ,佐渡島。まだ何か質問があるなら,テミス,じゃなかった,帝に聞いといた方が良いぞ。疑問が残ったままだと気持ちが悪いだろ。」

ぼくの呼びかけを受けて,佐渡島はまだ何かうーんと考えていたものの,

「帝さんにも質問があるけど,東藤,お前にも質問がある。」

とぼくに言う。佐渡島がぼくに質問なんて珍しいな。

「おお,なんだよ。なんでも聞いてくれ。」

と,ぼくが返答すると,佐渡島は意を決したかのように,こう言った。

 

 

「さっきの説明で出てきた,『鬼滅の刃』ってなんなんだ?『令和』ってなんのことだ?『改正民法』ってなんのこと言ってたんだよ。」

また,佐渡島は続けて

「あと,なんで東藤は帝さんのことをテミスって呼ぶんだ?」