アンティークショップ~紫の石~
「せっかくだからお夕飯も食べて行けばいいのに…。」
と残念そうにそう言う母に、
「今日はこれから潤くんが用事があるから仕方ないだろう。」
となだめ、潤も母に、
「今日はありがとうございました。
またお邪魔させてもらいますね。」
とニッコリと微笑んでそう言うと、母の機嫌も直り、
「ええ、潤くん。
またいつでも遊びに来てねっ!!」
とニコニコとしながら、どさくさに紛れて潤の手をちゃっかりしっかりと握りしめてそう言ったのだった。
「じゃあ、母さんまたね。」
と言い玄関から出ようとすると、
「翔。
これ、帰ってから食べてよ。」
と言い紙袋を渡れた。
「なに?」
と言いながら中を見るとタッパーに詰められたおかずが入っていた。
「母さん、ありがとう。」
とお礼を言うと、
「翔、あなたお料理しないからどうせカップ麺かコンビニのお弁当しか食べていないんでしょう?」
と呆れた顔でそう言われてしまい…。
潤が来てからのこの数週間は、潤の美味しい手料理を食べさせて貰っているのだが、その事を言うと話がまた面倒な事になってしまうのでここは素直に、
「おっしゃる通り…。」
と肩をすくめてそう言うのだった。
玄関を出て母に、
「それじゃあ、また。」
と言い潤も、
「お邪魔しましたっ!!」
と言うと母は目をキラキラとさせて、
「潤くんっ!!
また来てねっ!!
おばさん待ってるからねっ!!」
と手を振って見送ってくれたのだった。
アンティークショップ 〜紫の石〜 ⑲
母から渡された紙袋の中には、かなりの量のおかずが色々入っており、
「これって…。
俺1人の為に用意しているんだけど、何人分なんだよ…?
潤と2人でも食べ切れる量じゃなよな…?」
と言うと潤が、
「ん〜…。
まーくんがよく冷凍すれば少し日持ちがするとは言ってました…。」
と言った。
「冷凍かー。
そうするか?」
と言うと、潤が閃いた!!という顔をして、
「あ、じゃあ、カズくんにお裾分けしてあげますか?
カズくん、ハンバーグ好きですっ!!」
と言いながら潤がタッパーの中に入っているハンバーグを指差してそう言ったのだった。
「おっ。
じゃあ、カズの所に寄って聞いてみようか?」
と言うと潤は、
「はいっ!!」
と嬉しそうに返事をしたのだった。
最寄りの駅に到着した頃には日が暮れて辺りはほんのりと暗くなっていた。
駅から暫く歩くと赤煉瓦の壁に蔦がびっしりと絡まったレトロな雰囲気の建物があり、その建物の窓からはオレンジ色の暖かみのある光が漏れていたのだった。
「明かりがついているという事は、カズは店に居るかな?」
と言うと潤は、
「多分…いると思います。」
と答えた。
店の入り口に向かい、ドアに下げられたプレートを確認すると〝Open〟となっていたので、早速ドアをガチャッと開けると、
♪カラン〜カラン〜カラ〜ン〜♪
ベルの上の部分に天使が乗った銅色のドアベルが、俺達の入店を知らせたのだった。
「カズー。
こんばんはー。」
と店内に所狭しと並べられたアンティーク家具や絵、そしてテーブルやテーブルの上に置かれた陶器の人形やガラスケースが並べられた空間に声を掛け、奥に見えるカウンターの方を見ていると…。
「はーい。
居ますよー。」
と言いながらカズがゲーム機を片手にカウンターから出てきて俺と潤の前へとやって来たのだ。
が…。
いつも可愛らしい格好をしているカズとは違い、今日はヨレヨレのトレーナーに穴の空いたジーパンを履いており思わず、
「あれ?
どうしたの?今日の格好…。」
と言うとカズは気まずそうな顔をして、
「あー。
俺、着る物に無頓着なんで…基本こんな感じなんですよ。
まーくんが居る時に逢った時にはまーくんが服を選んでくれていて…。
事前にジュンくんが来ると教えてくれていた時もまーくんにコーディネートして貰っていたんだよね…。」
と頭をポリポリッとかきながらそう言ったのだった。
するとそんなカズの姿を見た潤が、
「カズくん…。
それ、ダメです…。」
と頬を膨らませてそう言うと、カズは潤を見て、
「ごめん、ごめん、ジュンくん。
俺がこんな格好して翔ちゃんに逢うのをジュンくんが嫌がるんだよねー。」
と言うと、
「ちょっと着替えてくるから待っててね。」
と言うとそのままカウンターの奥にある扉へと消えていったのだった。
暫くしてカズが姿を現した。
その姿は、白シャツに細めの黒のパンツ姿に、その上にはグレーのざっくりとしたカーディガンを羽織り、先程とは全く違った印象で俺の知っているいつもの可愛らしい感じのカズだったのだ。
カズは潤に向かって、
「お待たせ。
ジュンくん、これでいいかな?」
と言うと、潤はご機嫌そうに、
「うんっ!!
カズくん格好いいよっ!!」
とニッコリと笑ってそう言ったのだった。
「で、今日はどうしたのよ?」
とカズに聞かれて、
「ああ。
今日、潤と一緒に俺の実家に行ってきて、ウチのお袋の作った惣菜を沢山貰ったから、カズも食べてくれないかな?と思って持ってきたんだ。」
と言い、紙袋を見せるとカズは、
「ジュンくん、翔ちゃんの実家に行ったんだ。
よかったね。」
と言うとジュンは、
「はいっ!!
しょおさんにいっぱいピアノを弾いて貰ったんですっ!!」
と嬉しそうにカズに言ったのだった。
「へぇー。
ピアノを弾いて貰ったんだ…。
翔ちゃん、ピアノ弾けるんだ。」
と聞かれたので、
「ああ。
弾けるけど、人に聞かせれるレベルではないんだけど、潤は喜んでくれたんでよかったよ。」
と答えると俺の横で潤はニコニコとして、
「とっても素敵でしたっ!!」
と言ったのだった。
そんな潤を見てカズは、
「ジュンくん、よかったね。」
と言い、
「ずっとピアノは習ってたの?」
と俺に聞いてきたので、
「いや…。
多分…高校に入る前くらいには辞めたと思うんだ。」
と答えると、
「それで今まで弾かなくてよく弾けたね。」
と感心しながらカズがそう言うので、
「いや…。
それが先日、友人の結婚式があってその時の余興でピアノの演奏を頼まれて…それで少し練習したばかりだったから弾けたんだと思うよ。」
と言うと、カズは一瞬目を見開き、
「ピアノの演奏をしたの?」
と聞いてきたのだった。
「ああ。そうだよ。」
と言うと、
「それっていつ?」
と聞いてきたので、
「確か…。
俺がこの店に初めて訪れた日だったかな…?」
と答えると、
「…ふーん…。
そうだったんだ…。」
と言いながらカズは紙袋の中からタッパーを取り出し、
「あ、俺、このハンバーグとポテトサラダとこの唐揚げも貰ってもいい?」
と聞いてきたので、
「ああ。いいよ。
食べて貰えたら助かるよ。」
言うと、
「翔ちゃん、ありがとうっ!!
こちらこそ助かるよっ!!
ちょっと向こうに置いてくるよ。」
と言い、タッパーを持ってカウンター後ろにある扉へと消えて行ったのだった。
アンティークショップ 〜紫の石〜 ⑲
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