アンティークショップ~紫の石~




































バフッ!!バフッ!!



と言いながら茶色の何かが俺に飛びついてきて、



「うわっ!!」

と声を上げながら、


ドスンッ!!


と床に尻餅をついてしまったのだった。



その瞬間目をつぶってしまい…。






すると、顔にしっとりとした感触があり、

「ちょっ…。
な…なに?なに?」


と言いながら恐る恐る目を開けると…。





目の前には茶色の毛むくじゃらで…。



大きな目に黒い鼻…。


大きな口からは舌が出ており…そいつはベチャッベチャッ…と音を立てながらとものすごい勢いで俺の顔を舐めていたのだった。





何が…居るんだ…?




ってか、なに?なに?なに?なに?なに!?どういう事っ!?



パニクっていると、



「ちょっとっ!!
まーくん、いい加減にしなさいよっ!!」



という声と共に茶色の毛むくじゃらな顔が遠ざかっていき…。



よくよく見るとそこには…。




ハァハァハァ…

と舌を出して尻尾をブンブンッと振り回しているご機嫌そうなゴールデンレトリバーが居たのだった。




ゴールドに近い茶色の毛並みは艶々としており一目で手入れがしっかりされている事が分かるくらいフサフサとしていて、首元にはグリーンのリボンが巻かれていて愛想がよくて癒し系のこの子にピッタリの色だな…。


と思って見ていると、




「この人、ヘタレなんだからビックリしているでしょう!!
ってか、何でまーくん…アナタも一緒に出て来るんだよっ!!
奥の部屋で大人しくしてる約束だっただろうっ!?」



と昨日の店員さんがゴールデンレトリバーのまーくんを叱っているのだが…。




相変わらず『ヘタレ』って言われてるな…。


と凹んでしまったのだがまーくんは全く店員さんの話しを聞いている様子はなく、ブンブンッと思いっきり尻尾を振りながら俺の事を嬉しそうにずっと見つめてくるので…。



その何とも言えないマイペースさと店員さんが必死で文句を言っている姿のギャップが見ていて面白くて思わず、



ふはっ!!


と吹き出してしまったのだった。






店員さんはそんな様子のまーくんに、



ハァーッ


とため息をつき左手でおでこの辺りを押さえ目をつぶり、何かを考えている様子だった。



暫くすると店員さんは俺に、


「ちょっと待っていてくださいね。」


と言い、



「ほら、まーくんおいでっ!!」

とまーくんにに向かってそう言うと、




キュウーン キュウーン…


キュウーン キュウーンキュウーンッ…



と嫌がるまーくんを無理矢理引っ張ってカウンターの奥にある扉へと連れて行き、


ガチャッ


と扉を開けるとズズズズズッ…と、まーくんを中へと押し入れ、


バタンッ!!


と素早く扉を閉めたのだった。



扉を右手で押さえたまま、どこから持ってきたのか細長い箸の様な棒を左手で取り出したかと思うと、


「NARUKUTEDE!!」


と叫び棒を扉の方に一振りした。



すると扉が一瞬黄色く光り輝いたかと思うと、スゥーッとその黄色の光はすぐに消え去り元の扉へと戻ったのだった。







その後扉が開く事なく中からは、



クゥーン クゥーン クゥーン   

カリカリカリカリ…


クゥーン クゥーン クゥーン

カリカリカリカリカリカリ…


とゴールデンレトリバーのまーくんの寂しそうな鳴き声と扉を引っ掻いている音がしていたのだが、暫くするとその音もしなくなったのだった。

















アンティークショップ〜紫の石〜 ⑤



















「やっと諦めたか…。」


と店員さんは扉を見てそう呟くと、俺へ振り向くと、



「すみません、お待たせしました。
俺に用があるんですよね?」



とニッコリと微笑んでそう言ったのだった。





「あ…。

そうなんですっ!!」


と言いながら胸元にあるネックレスをシャツの中から引っ張り出し、


「この子の…と言っても潤は今はウチにいるのですが、このネックレスの…紫の石の妖精の潤は一体何を食べるのかを貴方に聞きにきたんですよ。」


とシルバーで出来たフェザーの形をしたペンダントトップを店員さんに見せながらそう言うと、



「………。」


店員さんが目を大きく見開いて、驚いた顔をして俺の胸元にあるネックレスをジッと見つめていたのだった。






そのまま固まってしまっていたので不安になり、



「あのぉ…。」


と声を掛けると、




「あ…。
すみません…少し驚いてしまったので…。

で、ジュンくん…は…貴方に姿を見せたんですか?」


と聞いてきたので、


「ええ、はい。
昨晩の俺のベッドで気持ちよさそうに眠っていましたよ。」


と答えたのだ。





すると店員さんの口元が嬉しそうに弧を描き、


「そうか…。
そうでしたか…。
こんなに早く姿を現すなんて…。
よかった…。」


と両手を組み合わせてその手をギュッと握りしめながらそう言ったのだった。




「貴方はこのネックレスの石に、妖精の潤が宿っている事はご存知でしたか?」



と聞くと、


「…妖精…ですか…。
ええ…まあ…潤くんの事は知っていましたよ。」



と店員さんがそう答えたので、


「やはりご存知でしたか…。

それで…潤の正体を知っている貴方なら、潤の食べる物をご存知かと思って伺いにきたんです。
妖精の食べる物ってよく分からなくて…。


お恥ずかしい話…。
俺は全く料理をしないもんで…。
なので、ウチに食べる物がないと言ったら潤は『カズくんにお願いするので大丈夫です。』と言っていたんですけど…。
でも心配で…。」



と潤が今朝言っていた事を伝えると…。





「えっ?
ジュンくんがそう言っていたんですか?」


と聞き返されたので、


「ええ。
はい、そうです。」

と答えると、




「おかしいな…。

そんな連絡貰っていないし…。」




と店員さんが左手の親指と人差し指を顎に当てながらそう言うと、



「見逃したのかな…?」


と言いカウンターの上をゴソゴソと探り始めたのだった。



「あれ?
おかしいな…?
鏡がないや…。」


と呟くと、


ワンッワンッ ワンッワンッ!!


とカウンターの奥にある扉から先程中に閉じ込められたゴールデンレトリバーのまーくんの声が聞こえてきたのだった。





すると店員さんは扉をチラリと見て、



「チッ。
まーくんの仕業か…。」


と呟きまた先程の棒を手に取り、


「IKOTEDEYOMIGAKA!!」


と言い棒を振りかざすと、まーくんの居る部屋からスゥッと銀色の何かが扉を突き抜けて出てきたのだった。



するとフワリフワリ…と浮かびながら、店員さんの手元に銀色のそれはポトンと落ちたのだった。




「えっ!?
それって今、扉を突き抜けてきましたよね?」



と驚いて聞くと、店員さんは淡々とした口調で、


「ああ…。
そうでしたか?
見間違いじゃないですか?」



と俺の方を見ずにそう言うと、手のひらの上にある銀色のモノを必死で眺めていたのだった。







何があるのか店員さんの手元にある物を覗き込むと…。




手のひらより少し大きめの丸い古びた鏡があったのだった。


店員さんが鏡を両手で持ち、何かブツブツと言いながら鏡を持ち上げたら下に下げたりして見つめていて、それを何度か繰り返して、



「あっ。
これだ。」


と呟きくと、鏡を左手の人差し指で円を描きながら見つめていたのだった。





店員さんの持つ鏡の裏側は銀色に羽根と花の模様が掘り込まれており、花には紫色の色が塗られているが年代物なのか所々色が剥げていて鏡の自体の銀色も色がくすんでいたのだった。






まーくんの居る扉から、



ワンワンワンッ!!


ワンワンッ!!


とまーくんの鳴き声が聞こえてくると店員さんは、





「はぁー!?
まーくんが届けたって?
まーくん、貴方まさかジュンくんに姿を見せてないでしょうね?」


と眉間にシワを寄せてそう言うと、


ワンッワンッワンッワンッ!!


とまーくんが返事をしているかの様に吠えていたのだった。





「本当に…?
自分の姿は見せてないんだね?」

と店員さんがそう言うと、


ワオンッ!!


と大きな声でまーくんは答えていたのだった。




「まあ、それならいいですけど…。

もしも違ったら…覚えてろよ…。」


とそう言うと店員さんは扉をキッと睨んでいた。








何が起こっているのか全くついていけず…。






店員さんは犬の喋る言葉が分かるのか?


この鏡はいったい何なんだ?


潤に届けたって何を?



とグルグルと頭の中で考えて、



「えっと…。」


と一体何から聞こうかと悩んでいると…。






「ああ。
ジュンくんに食料を届けてくれた人がいるみたいなので、多分帰れば食事の用意がされていると思いますよ。」



と店員さんはニッコリと微笑むと俺にそう言ったのだった。



「えっ!?
そうなんですか?」



と言うと、



「ええ。
…まーくんが届けてくれたみたいなので。」



とまーくんの居る扉を不満そうな顔をして見つめながらそう言ったので、








「そうなんですね。
ありがとうございます。
まーくんは犬なのに凄いですねー。
とても賢い子なんですね。」


と言うと店員さんは渋い顔をすると、



「さあー。
それはどうでしょうね…。」



と少し低めの声でそう言ったのだった。







「あと潤くんは人間が食べる物を普通に食べるので、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。

貴方にそんなに心配して貰えるなんて潤くんが知ったら潤くん大喜びしますよ。」


とニッコリと微笑みながらそう言ってくるもんだから、


「そ、そうですかね…。」


潤が嬉しそうに微笑む姿を想像すると、何だか嬉しくなり口元が思わず緩んでしまったのだった。







ただ…。


潤が今朝言っていた『カズくん』という人物が気になり、



「あの…。
潤が言っていた『カズくん』って…。」



と店員さんに尋ねると、



「あ、これは失礼しました。

潤くんが言っていた『カズくん』は多分俺の事です。」

  


と言いながら店員さんは、黒い小さな紙を俺に差し出しながらそう言ったのだ。


    






差し出された紙を受け取るとその紙にはゴールドの文字で、





〜•〜•〜•〜•〜•〜•〜•〜

antique shop

店主 カズナリ



〜•〜•〜•〜•〜•〜•〜•〜









と書かれており、どうやら名刺を渡してくれた様で、俺も慌てて胸ポケットから名刺入れを取り出すと、


「俺は櫻井翔と申します。」


と言いながら名刺入れから1枚名刺を取り出し、名刺入れの上に乗せると『カズくん』に差し出したのだった。




俺の差し出した名刺を受け取った〝カズくん〟は、




「櫻井…翔…さん…。」



と名刺を見ながら俺の名前を呟き、



「翔さん、今後ともどうぞ宜しくお願いしますね。」



と言いながらニッコリとやわらかい笑顔を浮かべると手を差し出してきたので、



「こちらこそ、宜しくお願いします。」


とその手を握り返すと、ギュッ!!と思いっきり力を入れて握り返されたのだった。




一瞬…何となく…〝カズくん〟の目が笑っていない様な気がして…。


顔は笑っているけど、目は冷ややかというか…。






ゾクッとするくらい冷たい瞳で俺を見つめたかと思うと…。






「俺、〝翔ちゃん〟って呼ばせて貰うから、翔ちゃんも俺の事を〝カズ〟って気軽に呼んでね。」


と人懐っこい笑顔でそう言ってきて…。



先程感じた冷たい雰囲気は1ミリも感じず…。





俺の気のせいだったんだな…。



と思い、

  


「では、俺は潤が待っているのでそろそろ帰りますね。」



と言うとカズは、


「じゃあ、そこまで送りますよ。」


と言い出入口のドアの所まで送ってくれて、店を出ると、


「あ、そうだ翔ちゃん。
この近くに〝Angel J〟という美味しいケーキ屋さんがあるから、潤くんにモンブランを買って帰ってあげてよ。
あの子モンブランが大好きだから。」



と言ってきた。






〝Angel J〟とは有名なケーキ屋さんで俺も何度か食べた事はあるのだが、本当にどのケーキも美味しいんだ。


ケーキ職人さんのこだわりのケーキを店頭に並べるので、確かチェーン店とかではなく1店舗しかなかった筈だ…。




だけど〝Angel J〟の店の場所はここから少し離れた場所にあるのだ…。

   



オーナーさんの意向が変わって2号店が出来たとか?



などと思い、



「えっ!?
〝Angel J〟ってこの近くにありましたっけ?

あっ!!
もしかして2号店が出来たとか?」


と言うとカズは頷いて、


「うーん。
2号店は出来ていないけど、今日は近くにあると思うよ。」


と言うので…。





『今日は』ってどういう意味だ?

 

と思いカズに、


「え?どういう事?」


と聞くがカズは俺の言葉はスルーして、



「そこの通りの向こう側の道にあるからさ。
じゃあね、翔ちゃん。
気をつけて帰ってね。」


と言い、ドアを閉じながらカズは、



「…〝Angel J〟だなんて…ジュンくんにピッタリな名前の店だよね。」



と呟くように言うと、パタンと店のドアを閉じたのだった。






カズの言っている意味がよく分からないが…。







とりあえずカズが指差し方向に向かって歩いてみる事にしてみるか、と思い〝Angel J〟のケーキ屋さんを探す事にしたのだった。























アンティークショップ〜紫の石〜 ⑤
 ⭐⭐to becontinued⭐⭐