深い深い海の…  〜18〜


























和也くんの冷たい瞳に背筋がゾクッとして…。

これは危険だ…と頭の中では分かっているが…。



その条件を呑めばきっと翔くんを助ける事ができる筈だ…。




和也くんがもう一度俺に向かって、



「潤くん、お願い♡」



目は笑っていないけど、可愛くそう言ってきた。









「それってどうすればいいの?

そうすれば翔くんをあの中から出してくれるの?」


意を決して和也くんにそう聞くと、



「ええ。
出してあげますよ。」



和也くんはそう答えた。





信用していない訳ではないが念には念をと思い、


「絶対に?」


と確認すると、




「絶対に。
約束します。」



と和也くんはそう言った。






いつも翔くんの事を大切にしてくれている和也くんの、


『絶対に。
約束します。』



と言うその言葉を信じる事にした。











「それと…。
翔くんの声は元に戻るの?
翔くんは人魚の世界で元の生活に戻れるの?」






翔くんの今後が心配になりそれも確認すると、




「ええ。
声も戻りますし、元の生活にも戻れますよ。」



と和也くんからは翔くんの明るい未来が保証されている言葉が返ってきたのだった。








翔くんが元の世界で幸せに暮らせるのなら…。



俺の願いはそれだから…。






「それなら俺やるよ。
翔くんに心臓の半分を返せばいいんだよね?」



と和也くんに聞くと…。










バンバンッ!!

バンバンッ!!



と大きな音がした。



翔くんが必死で泡の中から透明の壁を叩いている音だ。





音のする…翔くんの方を振り向き、



「翔くん、大丈夫だよ。」



と笑顔で翔くんにそう言った。









翔くん、あともう少しだけ待っててね。


俺、翔くんを助けてあげるからね。


自分の左肩にあるハートの形をした痣を右手でグッと掴み心の中でそう呟いた。








「潤くん、もう時間がありません。
もうすぐ朝日が昇ります。
それまでに終わらせないといけないんで…。」



和也くんが少し焦りを見せながらそう言ってきたのだ。





「朝日が昇る前に…?」



と聞くと、




「そうです。
今日は翔ちゃんの誕生日で、翔ちゃん誕生日の日の朝日が昇る前までにある事を終わらせないといけないんです。」


と和也くんは答えた。







「ある事って…?」




「それは潤くんが、翔ちゃんの心臓の半分を返してくれる事です。」




「……。
分かったよ。
どうすればいいの?」


和也くんにそう聞くと、和也くんの左手にはいつの間にかキラキラとした装飾の施されたナイフが握られていたのだ。




そのナイフは翔くんが先程海に投げ入れようとしていたナイフだったのだ。










和也くんはそのナイフを俺に差し出し、



「じゃあ、この短剣で潤くん…自分の心臓を刺してくれますか?」



とニッコリと笑いそう言ったのだ。









「これで…俺の心臓を…?」



と、和也くんの手にあるナイフを見つめながらそう聞くと、




「そうです。
本来なら翔ちゃんが潤くんを刺す筈だったのですが、翔ちゃんはそれを拒否して自分が海の泡になり消える事を選んだんです。」



と和也くんが言った。






「……。
翔くんが海の泡になって消えようとしていたんだ…。」





翔くんは優しいから…。


だけど翔くん…俺なんかの為に海の泡になって消えたりなんかしないでよ…。




そう思っていると和也くんが俺の左肩にあるハートの形をした痣のある場所にそっと触れながら、





「ええ、そうですよ。
潤くん、貴方の此処にあるハートの形をした痣を…翔ちゃんの心臓の半分を回収しないと、翔ちゃんの命が危ないんです。

それが出来ないと翔ちゃんは海の泡となり、永遠に消えてしまうんですよ…。」




そう言ったのだ。










あともう少しで朝日が昇る…。




翔くんの為になら俺は自分の命を捨てれるよ。



だって…俺は…。


俺は…。










和也くんからナイフを受け取ると、俺は大きな泡の中に閉じ込められている翔くんの元へ行き、



「翔くん…25年前、俺を助けてくれてありがとう。」


とそっと泡に手を触れると、翔くんは今にも泣きそうな顔をしながら、何かを言うと首をブンブンと横に振った。





透明の泡の壁越しに翔くんが俺の手のひらに自分の手のひらを合わせて悲しそうな顔をしている。




「翔くん…そんな悲しそうな顔をしないでよ…。
俺は翔くんの笑ってる顔が好きだよ…。」


と言うが、翔くんは眉間に皺を寄せて透明の安房壁をバンバンッ!!と叩き、首を横に振っていた。








「翔くん…ありがとう。
さようなら…。」



両手でナイフを握ると自分の左胸に振り翳し、






「翔くん…愛してるよ…。」


と呟いた。




愛する翔くんの為なら、この命なんて惜しくないよ…。

















激しい痛みとかすんでいく視界…そして遠のいていく意識の中で…。








パリンッ!!


とガラスが割れるような音がしたような気がした。









意識朦朧とした俺はよろけてそのまま、





ザブンッ!!








コポコポコポッ…


コポコポコポッ…







と深い深い…海に沈んでいったのだった…。




















冷たい冷たい海の中で、










「…ゅん…。」


「じゅ…ん…。」



「じゅん…。」



「潤っ!!」



と低めの声で俺の名前を呼び、抱きしめてくれる温もりを感じていたのだ…。









ああ…。



7歳の夏のあの日…助けてくれた赤いユラユラと揺れるスカートを履いたお姉さんだ…。



お姉さん…ごめんね…。




折角助けてくれたのに、結局俺はこの命を失って…海の魔物に食べられちゃうんだ…。













そんな事を思いながら俺は意識を手放していったのだった…。






























⭐to becontinued⭐


 
 
















いつもお話を読んでくださって、ありがとうございます。


昨晩、大きな地震があったみたいなのですが、皆様の所は大丈夫でしたでしょうか?

皆様のご無事と被害が少ない事を祈っております。