深い深い海の…  〜13〜


























眠っているといつもの翔くんの温もりを全く感じず、何だか少し寒い様な気もした。








翔くん…どこ…?







意識がまだハッキリとしない中、翔くんを探す為に手を動かそうとするが身体が上手く動かない。






あれ…?


どうして…?




と思っていると、誰かの話し声が聞こえてきた。












「…うん、そう。
…と一緒に…。」




話し声を聞いていると意識が少しずつ少しずつ浮上してきて、よくよく聞いていると喋っている人の声が…。










何となく俺の声に聞こえた…。












「うん。……だから俺は先に大野さんの船の置いてある場所に来ているから。
……うん、うん。だから……。
……そうそう、今から出発して。」






へえー。
大野さんと会話をしているんだ。





っていうか今喋ってるの俺の声だよね…?




ウソッ!?

俺、喋ってるの…?


いや、そんな訳がない。



口を動かしている感覚がないし…。




それに何だか身体が上手く動かせないし…。





じゃあ、一体誰が…?












重い瞼をゆっくりと開くとそこに居たのは…。














































「ああ…。
潤くん、おはようございます。」




「…かず…な…り…く…ん…?」



其処に居たのは和也くんと…。





「潤ちゃん…おはよう。
大丈夫…?」




それと、今にも泣きそうな顔をした雅紀くんだった。





「目が覚めてしまいましたか…。
おかしいな…?」




と和也くんは首を傾げながらそう言うと、先程まで大野さんとの会話に使用していたモバイルではなく…。

手のひらより少し大きめの巻貝を古めかしい木で出来た丸テーブルの上へとコトンと置いた。






横たわったまま部屋の中を目で見渡すと、壁は岩の様な物で出来ていて所々に穴が空いており、そこに蝋燭が立てられていてその蝋燭のほのかな灯りで部屋が薄っすらと照らされていた。





其処は見覚えのない場所で…。



此処は何処なんだろう?


と思っていると、俺の心の声が聞こえたかの様に和也くんが、




「ふふふふふ。
潤くん。
此処は海の魔女の館ですよ。」




と教えてくれた。





海の魔女…?



と思っているとまた和也くんが、




「実は此処は深い深い海の底なんですよ。」


とニッコリと笑いながらそう言うと、色素の薄い茶色の綺麗な瞳でジッと俺を見つめてきた。





その瞳に見つめられていると…何だか意識が遠のいてしまいそうになってしまい、再び重くなってきた瞼を閉じようとしたその時…。




「潤ちゃん、ごめんね…。
大丈夫…?」



と雅紀くんが近付いてきて俺の身体を起こしてくれて意識が遠のきそうになっていたのも消え去ってしまったのだ。




「…潤ちゃん…ちょっと待っててね…。」



雅紀くんが俺の耳元でそっと囁き、何かをブツブツと唱えると更に身体がズシンと重くなり、雅紀くんの腕の中に倒れ込んでしまったのだ。






「えっ!?ええっ!?
潤ちゃん、どうしたのっ!?」



と雅紀くんの驚いた声が聞こえ、


「潤ちゃん、どうしたのっ?
大丈夫っ!?」


とユサユサと身体を揺すられていると、








「あっ!!
まーくん、アナタ何やってんのよっ!!」



和也くんが慌てて俺と雅紀くんの方へとやって来た。






「もう…。
まーくんの魔法は効かないんだから無駄な抵抗はしないでよ…。
まーくん、余計な事するの止めてくれる?」




そう言い和也くんが何かを唱えると、俺の身体は相変わらず動かないけどフワッと軽くなり楽になった。




「潤ちゃん、ごめんね…。
僕…魔法使うの苦手みたいで…。」


涙目で謝ってくる雅紀くんに、


「ま…ほう…?」


と聞くと、



「あっ!!
いや…何でもない…。」


と雅紀くんは目を泳がせながらそう言うと、和也くんが、


「まーくんのバカッ!!
まあ、その話しは後でゆっくりとしますよ…。」


と言った。






「それよりも潤くん、大野さんって人が迎えに来てくれますからね。」


と和也くんに言われて、



「大野さんが…?」


と聞くと、

「そうですよ。」



と和也くんは答えた後、



「まーくん、そろそろ出発するから潤くんを背負って移動してくれる?」


と雅紀くんにそう言うと、雅紀くんは、



「うん。いいよ。」


と言い俺に背中を向けてしゃがむと、和也くんが俺の身体を起こしてくれると、雅紀くんの背中に乗せてくれた。



「潤くん、身体の力は入らないと思うけど、腕は動かされるようにしたのでしっかりまーくんに掴まっていてね。」



と言われてコクンと頷いた。








いくつもの岩で出来た部屋を移動して上へ上へとあがって行き、和也くんが重そうな木の扉を開けると…。








其処には真っ青な景色が広がっており、所々で魚達が泳いでいた。





さっき和也くんが『実は此処は深い深い海の底なんですよ。』と言っていたのは本当だったんだ…。


と思いながら海の中の景色を眺めていると、



「さて、行きますか?
まーくん、潤くん大丈夫ですか?」


と和也くんに聞かれて雅紀くんは、


「僕は大丈夫だよ。
潤ちゃんも大丈夫?」



と聞かれたので雅紀くんの背中で俺はコクンコクンと頷いて返事をした。







海の中を泳ぎ始めた途端に前を泳ぐ和也くんの足がお魚の足になり、尾鰭で思いっきり水をかき分けながらスイスイと気持ち良さそうに泳いでおり、雅紀くんの足元を見つめると雅紀くんの足もお魚の足になっていたのだ。




翔くんと一緒…。



でも、翔くんのは赤くてキラキラとしたお魚の足だけれども、和也くんのは黄色でキラキラとしており、雅紀くんのは緑でキラキラとしたお魚の足だった。



和也くんのお魚の足…どこかで見たような…。

とジッと見つめていると…。


ああっ!!

そうだったっ!!


俺は家のキッチンで倒れたんだった…。



それを思い出し、


「俺がキッチンで倒れた時に居たのは…和也くんだったんだ…。」



と呟くと和也くんは振り返り、





「そうですよ。」


とニッコリと微笑みながら答えた。







そう…意識が遠のいていく中俺が見たのはお魚の足だったけれど、翔くんの赤いお魚の足ではなく和也くんの黄色のお魚の足だったのだ。








「私達は人魚なんですよ。」


「やっぱり人魚だったんだ…。
翔くんも赤くて綺麗なお魚の足をしていたからそうだと思っていたんだよね…。」



と言うと和也くんは一瞬目を見開いて驚いた顔をし、雅紀くんは、



「えっ!?
潤ちゃん、翔ちゃんの人魚の姿が見えてるのっ!?」


と大きな声で聞いてきたので、



「うん。
ウチで一緒に暮らし始めてから見える様になったんだよ。」



と言うと、


「そうだったんだ。」


と言う雅紀くんの声は何だか嬉しそうに聞こえ、和也くんは左手の指を顎に当てて、



「なるほど…。
そういう事か…。」



とポツリと呟くと、



「さてと、先を急ぎますか。」



と言い再び泳ぎ始めた。







その後和也くんと雅紀くんは深い深い海の底から水面を目指してゆっくりゆっくりと泳いで移動し、それと共に海の景色も暗くて深い青から少しずつ明るい青へと変わっていったのだった。



















⭐to becontinued⭐