深い深い海の…  〜12〜















ほろ酔い気分の大野さんが、




「潤っ!!
このワイン旨いなーっ!!
潤の料理も旨いなーっ!!
翔くんの好物と潤の得意ばっかだけどなーっ!!
翔くんに美味しい手料理そんなに食べて欲しかったのかーっ!!」


なんて余計な事を言うもんだから、




ベシッ!!



と大野さんの頭を叩く(はたく)と、大野さんは、



「潤、何すんだよっ!!
痛いだろうっ!!」


と頭を押さえながら文句を言ってきた。




「大野さん、飲み過ぎだからっ!!
もうお終いっ!!」



と言うと翔くんが、



〝潤さん、俺まだ飲みたい。〟



と大きな綺麗な瞳をウルウルとさせながら俺を見つめて訴えてくるもんだから、



「じゃ…じゃあ、もう1本持ってくるよ。」



と立ち上がるとキッチンへと向かった。










ワインセラーからワインを取り出し、追加のチーズやクラッカーなんかも用意してリビングへと戻ると、






「で、その人に助けて貰って…。
一目惚れってやつだよな…。」



と大野さんがふにゃふにゃとした笑顔で翔くんに何かを話していたのだ。




ワインとおつまみをテーブルに置き、翔くんと大野さんの空いたグラスにワインを注ぎながら、


「今度はなんの話よ。」



と聞くと、



「そりゃあ、お前。
潤の初恋の人の話だよ。」



と大野さんはドヤ顔で、当たり前のようにそんな事を言ってくるもんだから、




「へっ!?」

と変な声が思わず出てしまい、ワインのボトルが手から滑り落ちそうになったが、翔くんが素早くボトルをキャッチしてくれて、床に落とさずに済んだが…。



「もうっ!!
また勝手にそんな話しをしてっ!!」



と怒ると、



〝俺も聞いてみたかった。〟


と書かれたボードを、翔くんがニコニコしながらこちらに向けたのだ。




翔くんがそんな顔で言うと怒れないじゃん…。



俺の初恋の人の話って事は、あの子供の頃海で溺れた時に助けてくれた赤いユラユラと揺れるスカートを履いたお姉さんの話だな…。


もうっ!!

大野さんに話すんじゃなかったっ!!



大学生時代からの付き合いなので、大野さんには色んな話しをしてしまっているんだよね…。





これ以上大野さんが居ると余計な事を翔くんに言うと思い、




「もおっ!!
大野さんはお風呂に入って来てっ!!」


と大野さんをリビングから追い出したのはいいけど、翔くんと2人っきりっていうのも何だか気まずい…。




美味しそうにワインを飲んでいる翔くんの綺麗な顔やぷっくりとした唇をチラチラと見ていると、



〝潤さん、今日も一緒にお風呂に入ってもいい?〟




と翔くんが白い縁取りのボードを俺に見せてきた。



「あ…。
うん、いいよ。」



そう答えると、翔くんは嬉しそうに微笑み、



〝最後だから嬉しい!!〟



と書いて見せてくれた。



翔くんが〝最後〟って書いているのに胸がズキンと痛み、何だか寂しくなってしまいそれを打ち消す様になるべく明るく、



「……。
ウチに泊まるの最後だもんね。
翔くん、またいつでも遊びに来てね。」



と言うと、翔くんは一瞬寂しそうな顔になったが直ぐに微笑み、コクンと頷いた。







暫くするとお風呂から上がってきた大野さんがタオルで頭を拭きながらリビングにやって来て、


「潤、上がったぞーっ!!」


と言いながら、ソファーへと座った。



「大野さん、水かお茶飲む?」


と聞くと、



「俺、ビールがいいなぁー。」


なんて言うから、


「もお。
飲み過ぎなんだよっ!!」



と言い、キッチンへと行くとビールと水を冷蔵庫から取り出し、ビールをグラスに注ぐとリビングへと持っていき、


「今日はアルコールこれでお終いだからね。」


と言いながら大野さんの目の前にビールの入ったグラス、そして水の入ったペットボトルを置いた。



「おおっ!!
潤、ありがとう。」



と言いながら大野さんはグラスに入ったビールを、ゴクゴクと美味しそうに飲んでいた。




「さてと…。
俺達もお風呂に入ろうか?」



と翔くんに声を掛けると翔くんがコクコクッと頷いたので、翔くんを車椅子に乗せてあげると、



「大野さん、ゆっくり飲んでいてね。
俺達もお風呂に入ってくるわ。」



と言うと大野さんはニヤッと笑って俺を見たあと、


「おお。
ごゆっくりな。」



と言いビールを、


「ああーっ!!
うめぇーなーっ!!」



と言いながら飲んでいた。
















バスルームへと向かいお風呂に入ると、翔くんはいつもの様にお魚の足をユラユラと揺らしながら湯船の中で気持ちよさそうにしていた。





「翔くん、翔くんの赤いお魚さんの足は綺麗だね。」


と言うと、翔くんは悪戯っ子の様な顔をしたかと思うと、尾鰭でお湯をバシャッとかけてきた。




「もおっ!!
やったなっ!!」



と翔くんにお湯をかけ返して、2人で湯船の中でお湯をかけ合って遊び遊び疲れた頃に翔くんが脱衣所の方を指差したので、



「そろそろ上がろうか?」


と言うと翔くんはコクンと頷いたのでお風呂から上がり、いつもの様に翔くんの髪を乾かしてあげた後、翔くんが俺の髪を乾かしてくれたのだった。















リビングに戻るとローテーブルの上にあったお皿やグラスが綺麗に片付けられていて、大野さんの姿も見えなかった。



「大野さん、もう寝ちゃったみたいだね。」


と言うと翔くんがコクンと頷いた。






「さてと、俺達ももう寝ようか?」



と言いベッドルームへと向かった。













翔くんをベッドに寝かせてあげた後自分もベッドにもぐり込み、いつもの様におやすみのキスをして眠りについた。





抱きしめいる翔くんの温もりが愛おしくて、そして何だか安心するんだけど…。



明日から翔くんがこうして俺の隣に居ないのかと思うと、やっぱり寂しくて、なかなか眠りにつく事が出来なかった。




結局、リスの抱き枕は寝る時には使われる事なく、翔くんはいつもこうやって俺に抱きしめられて眠りについた後、朝起きる時には俺を抱きしめているんだよね。





俺の腕の中で気持ち良さそうに眠っている翔くんの、ぷくっと可愛いほっぺを指でつついてみた。



「ふふふ。
柔らかいや。」



何度も何度もつついてみるが、翔くんは気持ち良さそうに眠っていて起きる気配がなかった。






暫く翔くんの寝顔を見ていたが、



「あー。
眠れない…。」



と呟くとそっとベッドから抜け出そうとすると、翔くんがギューーーッと俺のパジャマを掴んで離してくれないので、そっと翔くんの指を少しずつ俺のパジャマから外すと水を飲む為にキッチンへと向かった。



















キッチンに到着しいつもの様に常温の水の入ったペットボトルを手に取ったが、今日は何となく冷蔵庫が目につきペットボトルをテーブルの上に置き冷蔵庫を開けた。









冷蔵庫の中を見ると…。




中には凝ったデザインの小さな赤い瓶が入っていた。





「何だろう?
さっきまで無かったのに…。」


と言いながらその赤い瓶を手に取ってみた。



そんなに大きくない大きさで、ミニボトルのウイスキーくらいの大きさで、蓋の部分もガラスで出来た物を瓶に差し込んでいる形の物だった。


何だかアンティーク風で、香水の瓶の様にも見える形だった。






「大野さんが持ってきたのかな?」


首を傾げながら眺めた後、冷蔵庫に戻そうかと思ったのだが…。








何故だが…。




あ…。

俺、コレを飲まなくっちゃ…。



と思い、そっとガラスの蓋を開けると瓶の中に入っている液体をグイッと飲み干した。







あ。
甘くて美味しい…。



と思った途端、急にクラクラとしてそのまま床へ倒れ込んでしまったのだ。







あれ…?

俺、どうしたんだろう…?







クラクラとする頭とグニャリと歪む視界…。













そして誰かが俺に近付いてくる気配…。



意識が遠のく前に見たのは…。







あれは…。






























































お魚の…あ…し…?















そうお魚の足で…綺麗な尾鰭で床の上で立っているのが見えたんだ…。















⭐to becontinued⭐