深い深い海の…  〜⑨〜
















風呂上がりのビールを飲み終えて、


「翔くん、そろそろ寝ようか?」


と言うと翔くんがコクンコクンと頷いたので、ベッドルームへと向かった。


















部屋の扉を開けると、ベッドの脇にあるサイドテーブルの上に置かれたテーブルランプの明かりで部屋の中が薄っすらと照らされていた。






あれ?

俺、テーブルランプつけっぱなしだったっけ…?



と考えているとベッドの上が盛り上がっているのが見えたので近付いてみると、大野さんが気持ちよさそうに眠っていた。








「ふふふふふ。
大野さん、ここで寝ちゃったんだ。」



と布団をつつきながらそう言うと翔くんが眉間に皺を寄せて、白い縁取りのボードに、


 



〝大野さんが来たら、いつもここで一緒に寝ているの?〟



と書いて見せてきた。




「いいや。
一緒に寝たりはしないよ。」



と言うと、



〝本当?〟


と聞いてきたので、


「本当だよ。
ただ、この人酔っ払うと俺のベッドで寝る事があるんだよね。」


と言うと俺を見上げている翔くんが少し口を尖らせたように見えた。



「大野さんが此処で寝ちゃった時は俺はソファーで寝るんだよ。」




と言うと翔くんはニッコリと微笑みながら、



〝そうなんだ。
よかった。〟




とボードに書いて見せてくれた。







翔くんは何を心配していたのかよく分からないけど、翔くんが笑顔になってよかった。





さてと今日は何処で寝ようかな…?

自分1人ならソファーでも構わないが、今日は翔くんが居るからソファーは無理だな…。




だったら…。



「翔くん。
今日はゲストルームで寝ようか?」



と言うと翔くんは俺を見上げてコクンと頷いた。













ゲストルームへ到着し、布団を干していない事を思い出し…。



大野さんだったら少々いいかな?と思うんだけど、翔くんだとそうはいかないんだよね。





「翔くん、ごめんね…。
お布団、今日干せてないんだ…。」



と言うと翔くんは、



〝気にしないから大丈夫。〟



と言ってくれた。



「それなら良かった。」




と言い、車椅子から翔くんを降ろして布団に横たわらせて、その横に潜り込むとリモコンで照明の明かりを落とした。





「翔くん、何かあったら起こしてね。」



と言うと翔くんは頷き、いつもの様におやすみのキスをしてきたので、俺も翔くんにおやすみのキスをして俺の胸に顔をすり寄せてくる翔くんを抱きしめて眠りについた。

















コポポポ…。



コポッ…。



 

深い深い海の中…ゆっくりとゆっくりと沈んでいく感覚がある…。







息が苦しい筈なのにそんな事もなく、俺は誰かに抱きしめられて深い深い海の中を漂っていた。




あれ…?
この温もりは確か…。




何かを思い出しそうになっていると、深い深い海の中でユラユラと揺れる赤いスカートが見えた。





ああ…そっか…。

あの時の綺麗なお姉さんが俺に逢いに来てくれたんだ…。














と思いながらそっと目を瞑りあの綺麗なお姉さんに抱きしめられながらユラユラと深い深い海の中をで揺られて…。





再び目を開けると俺の目の前には、あの綺麗なお姉さんではなく…。









俺を抱きしめて気持ちよさそうに眠っている翔くんの姿があった。









あ…。

夢か…。



ボーーーッとした意識の中で居心地のよい翔くんの胸は顔をすり寄せてからハタッと気付いたのだが…。





あれ…?

翔くん…また俺を抱き枕が代わりにして寝ているよね?



ってか折角リスの抱き枕を買ったのに、これじゃあ意味がないじゃんっ!!


あの子何処に居るんだよっ!?





と思っていると翔くんの大きくて綺麗な瞳を隠している瞼がピクピクビクッと動いたかと思うと、ゆっくりと翔くんが目を開けたのだった。








「翔くん、おはよう。」


と声を掛けるとおはようのキスを俺の頬にしてきたので、俺も翔くんの頬におはようのキスをした。




そして、



「そろそろ起きようか?」



と言い、翔くんの身体を起こしてあげたのだ。








先に着替えを済ませようかと思ったのだが、大野さんがまだ寝ていたら悪いな…と思いリビングへと向かうと、キッチンから美味しそうな匂いがしておりキッチンを覗くと、朝食の準備をしてくれている大野さんの姿があったのだ。





「大野さん、おはようございます。」



とキッチンに向かって声を掛けると、キッチンで魚を焼いていた大野さんが、



「おう。
潤、翔くん、おはよう。
今、朝ごはんの用意をしているから待っていてくれ。」



と言ったので、翔くんをソファーに座らせてあげた後、キッチンへと行き、大野さんを手伝ったのだ。







美味しそうな朝食がリビングのローテーブルへ並び3人で、



「「いただきますっ!!」」



と手を合わせて大野さん作ってくれた朝食を食べ始めたのだ。





「大野さん、昨晩も今朝もご飯作ってくれてありがとう。」


と言うと、



「いいってことよ。
折角釣った魚をしっかり食べて貰いたいしな。」




とふんわりとした笑顔でそう言うと、



「翔くん、うまいかっ!?」



と翔くんに聞くと、翔くんはほっぺをパンパンにしながらご飯やおかずを頬張り、


ウンウンッ!!


と頷きながら大野さんに答えていたのだが、流石に口に詰め込め過ぎたらしく、翔くんが慌ててお茶を飲んでいた。



お茶を飲む為に箸をテーブルに置いたのだが、箸が上手く置けていなかったようでそのまま床へコロコロッと落ちてしまった。

落ちた箸を目で追っていると、その落ちた先は翔くんの足元をだったのだが思わず固まってしまった。






すると、大野さんがサッと翔くんの足元に落ちた箸を拾ってくれたのだが…。








その様子を見て、






「あぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」



と思わず叫んでしまったのだ。







しまったっ!!


似合いすぎていてすっかり忘れていたけど、翔くんの足はお魚さんだったんだっ!!




大野さんは思いっきり見ていたけど、何にも言わないのはなんで?



ってか気付かない訳ないよね…?


まあ確かにあの人はちょっとした事では驚かないけど、流石にこれは…。



と思い、



「お、大野さん…。
あの…翔くんの足…。
足、どんな風に見える?」



小声で大野さんに尋ねると、


「翔くんの足…?」


と言い翔くんの足をジッと見つめると、


「白くて綺麗でいい足をしてんなーっ!!」


と言いながら翔くんに近付いて翔くんの足を撫でると、翔くんは不機嫌な顔になり大野さんの頭を思いっきり右手で、



パシッ!!


と叩いていた。





「いってーなっ!!
ちょっとくらいいいじゃんかよー。
なー?潤。」


と言ってきた。



「あ…いや…。
今のは大野さんが悪いでしょう?」


呆れてそう言うと、



「ちぇっ。
いいじゃんかよー。」


と大野さんは拗ねた声でそう言った。




「よくないでしょう…。」


ジトッと大野さんを睨んでそう言った後、



「ってか、それ以外は…?」


と聞いた。




「それ以外?
白くて綺麗でいい足以外に何に見えるって言うんだよ?
潤、お前…まだ寝ぼけてんのか?」


大野さんが不思議そうな顔をしてそう言った。


「ははははは。
そ、そうかも…?」


笑って誤魔化していると大野さんも、



んふふふふふ。


と笑うと、


「やっぱりお前は天然だな。
箸、洗ってくるから翔くん待っててくれな。」


と言い、大野さんは翔くんの落とした箸を持ってキッチンへと消えていった。





不思議そうに翔くんの足を見つめていた俺の服をクイクイッと引っ張ると、翔くんは右手の人差し指を唇に当てると、



しーーーっ



と口を動かした。





「えっ?」



と翔くんを見つめると、翔くんはそのままお茶を飲み始めたのだった。




どういう事…?





疑問は残ったまま朝食は終わった。











その後着替えを済ませてから洗濯をして洗濯物を干し終わりリビングへと戻ると、翔くんと大野さんが意外な事に仲良く並んで座り、大野さんのモバイルの画面を2人で真剣に眺めていたのだった。








「どうだっ!!
可愛いだろう?」





「うんうん。
じゃあコレも送っておくな。
あ、コレもどうだ?」




と言った具合に大野さんが何かを言うと翔くんが白い縁取りのボードで反応して、また大野さんが翔くんに話しかけて…。




また大野さんの釣った魚の自慢だろうな、と微笑ましく思いながら2人を見ていると俺に気付いた2人が慌てていて、大野さんなんてモバイルをズボンのポケットにそそくさとしまうので、




「えーっ?
何?何?2人してー。
俺に見せられない様なモノでも見ていたの?」



と言うと、



「そんな訳ないだろう。」


と大野さんは言うが、翔くんの目が泳いでいたので、





「えっ!?
まさか本当に見せれないモノ見てたのっ!?」



と言うとビクッとした翔くんが持っていたタブレットを床に落としたのだった。




「翔くん、タブレット落ちちゃったね。」



と拾ってあげると…。








「えーっ?
何で俺…?」



翔くんのタブレットの画面には俺の写真があり、スライドさせて見てみると次から次へと俺の写真が出てきたのだった。




驚いて見ていると、


「ああ。
バレちまったか。」


と大野さんはそう言うとふんわりと笑って、



「俺のモバイルの中にある潤コレクションだっ!!」


とドヤ顔でそんな事を言ってくるので、



「なに、それ…?
ちょっと怖いんだけど…。」



と言うと大野さんが、



「折角だから翔くんにもおすそ分けしてあげたんだっ!!」



なんて言うもんだから、



「そんな物翔くんも貰って困るだろう?
ねえ、翔くん。」



と言うと翔くんは何だか困った顔で手を伸ばしてきたので、



「はい、翔くん。
タブレット、どうぞ。」



と翔くんに手渡すと、翔くんはタブレットを両手で抱えて大切そうにしていたのだった。

















それからあっという間に大野さんの我が家での滞在も終わり、
 
 
 
 
「今度は2人を俺の船に招待してやるよ。」
 
 
 
と言い、大野さんは帰って行ったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
大野さんが帰っていってからも翔くんと大野さんはメールでやり取りをしているようで、翔くんのタブレットのアルバムには俺の写真が増え続けている様だった。
(大野さんのモバイルのアルバムに俺の写真が増えていない事を祈るのだが…。)
 
 


 大野さん、いい加減にしてあげてくれないかな…?

翔くん、絶対に迷惑しているから…。
 
 
 
 







   



⭐to becontinued⭐