目が覚めると、背中に人の温もりと、甘い、甘い…花の香りを感じた…。





さっきまで夢を見ていた様な気がするけど…。

なんだったっけ…?





それよりも、後ろから誰かがオレを抱きしめている事の方が気になり…。






スースースー


と規則正しい寝息が聞こえるので、多分オレを抱きしめて眠っているんだと思う…。





ふと抱きしめられているフサフサとしたお腹の辺りに目をやると、そこには白い手が見えて…。





ああ…この白い手は…。






和だと思い、


〝和っ、離せよっ!!〟


と言うと、


「ん…んん〜…。
か………じゃない…し…。や…だ…。」


と返事をしたのは和の声ではなくて…。



えっ!?

誰だよっ!?


と、お腹の辺りに見える手をよくよく見ると、色白の手だが和の手の様に柔らかそうな手ではなく、細くてスラッとした長い指が印象的な手だった。





いつもなら、この姿でいる時には人の気配には敏感で、部屋に入って来る前から気付くのに、今日は人が部屋に入ってきているうえに、抱きしめられているなんて…。




気付かなかったなんてオレ…どうしたんだろう…?




不思議に思いつつ、




〝誰だよっ!?〟


と聞いても、


「…ん…ん〜。
…ゅ……だ…よ…。」


と、よく分からない返事をするだけで…。





自力で相手の顔を見る為に向きを変えようとするが、相手がガッチリとオレのお腹の辺りに手を回して抱きしめているので、犬の姿のオレの力ではそれは難しくて…。





オレを抱きしめている人の手に、自分の爪が当たって傷付けないように爪を引っ込めながら、そっとその人の手の甲を、



ポンポンポンッ


と前足で叩いて触れてみるが、反応がなく…。










〝離してっ!!〟


と言いながらもう一度手の甲を、


ポンポンポンッ!!



と叩くと、



「ん〜。
はなしたく…ない…から、いや…だよ…。」



と、眠たそうな鼻にかかった舌足らずな声が後ろから聞こえた。




〝は•な•し•てっ!!〟



と言いながらその人の手の甲を 


ボン•ポン•ポン•ポンッ!!


と叩くと、くるりと向きを変えられて、その人と向き合う形となった。


あまりにも近すぎて、焦点が合わず瞬きを何度もしてその人を見つめると…。







………。

























そこには…。


あれ…?


この人どこかで…?



いやいや、知らない人だ。





見たことのない人がいて、思わず、



〝お前、誰だよっ!?〟



と叫んでしまった。







眠そうなトロンとした目でオレの顔を見つめてきたその人は、黒髪で色白の小さな顔に濃い眉毛に、綺麗な瞳は長い睫毛に覆われている、整った顔立ちをした人だった。




「むーっ。
だれだよっ!?
なんて…ひどいな…。」


と頬を膨らませてそう言った後、



「ふふふふふ。
まあ、いいか。
黒柴のワンコさんもお目覚め…?」


と言いながら、ふわふわっと優しくオレの頭を撫でてくれた。




彼の手の感触が気持ちよくて、そして以前もこんな風にこの手で撫でられたような気がする…。



でも、一体いつ…?何処で…?


ぼんやりとそんな事を考えていると、その人はゆっくりと起き上がると、



「あ、そうだっ!!
クッキー食べる?」


と言いながら、ベッドの下に置いてあったボディバッグの中から犬の絵の書かれた紙袋を取り出した。



カサカサカサッ


と袋の中からクッキーを取り出し、



「ワンコ用の、ツナ入りクッキーとささみ入りクッキーだよ。」


とニッコリと微笑んで手のひらの上にクッキーを2枚、オレに差し出してきた。



〝クッキーっ!?〟


と尻尾を振って喜んでいると、


「どうぞ、召しあがれ。」


と言われたので、その人の手のひらの上にあるクッキーを一口食べてみた。



〝んめぇ〜っ!!
んめぇっ!!んめぇっ!!〟


と言いながら2枚のクッキーを交互に食べていると、


「そんなに美味しい?」

と聞かれたので、



〝うまいっ!!〟




と言いながら頷いた。



「ふふふ。
そんなに美味しいのなら作った甲斐があったなー。
よかった。」


とその人はオレの頭を撫でながらそう言った。



〝えっ!?
お前が作ったの?〟



と聞くと、


「うん。
俺が作ったんだよ。手作りクッキーだよ。」



と白い歯をニッと見せて笑ってそう答えた。















⭐to be continued⭐