大きなテーブルの上には沢山の料理が、オレの為に並べられており、



「んめぇ〜!!んめぇ〜!!」

と言いながら、大好物のオムライスをモグモグと頬張っていると、



「それだけ食欲があるのなら、良かったわ。
おかわり、まだあるからね。」


と母さんがクスクスと笑いながらそう言った。







「あ〜、んめぇ〜っ!!」


と言いながら唐揚げを一口で食べた後に、サラダを食べていると、横でレモンスカッシュを飲んでいた和が、


「ちょっと…。
ヤギがいる…。」

と呟いた。



「誰がヤギだっ!!」


と言うと、



「だってずっと、『ンメェ〜ンメェ〜』って鳴いてるじゃん。」


「煩いわっ!!」



「でも…、よくそんなに食べれるよね。」


と和は呆れた言い方をしたが、顔は何だか嬉しそうなんだよな。








あの後、和が母さんと智くんにオレが目を覚ました事を知らせてくれ、和と一緒に母さんが部屋に来た。



それから少ししてから智くんがやって来て、智くんに診察をしてもらうと、




『どこも異常は無いよ。
翔ちゃん、大丈夫だよ。』


と言った時の母さんと和の安堵のした顔を見た時に、はじめて事の重大さを知ったような気がした…。




ただでさえ、犬になるなんて特殊な体質なうえに、倒れてから犬の姿になっまま寝続けていただなんて、そりゃあ心配だよな…。


しかも人に怪我をさせていただなんて…。




オレ、最悪だよな…。











ウチの家系に何人かに1人は犬の姿になる体質の男の子が生まれるらしく、それがオレで、生まれた時には犬の耳と尻尾が生えた状態で生まれてきたそうだ。


なので、そんな子供が生まれてきたら、普通ビックリしてしまうので、先祖代々櫻井家の人間は智くんの所の大野医院にお世話になっているんだ。

なんたって、大野家は櫻井家に初めて犬になる体質の子が生まれた時からの付き合いらしく、大野家にも代々櫻井家に犬になる体質の子供が生まれる事が言い伝えられているらしいのだ。



 
何故こんな体質の子が生まれるかは不明みたいなんだけどね…。







子供の頃は自分の意思とは関係なく、犬になってしまう事が多くて、それで友達と遊ぶ事が出来なかったんだ。


なので子供の頃はいつも和と一緒に、この家の庭で遊んだり、和の大好きなゲームをして過ごしたんだよな…。




小学生になった頃から徐々に自分意思とは関係なく犬になる事は少なくなり、その代わり自分の意思で犬になる事が少しずつ出来るようになって、今では自分でコントロール出来るようになっていたんだ。





但し、満月の夜以外は…。


満月の夜になると自分の意思とは関係なく犬になってしまうので、満月の夜は憂鬱なんだよな。




だけど、今回は満月の夜ではないのに、自分の意思とは関係なく犬の姿になってしまったんだ…。




あーあ…。

オレ、何でこんな体質で生まれたんだろう…。



と思い、


ハァーーーーッ


と深いため息をつくと、


「翔ちゃん、食べ過ぎて胸焼け起こしたの?」

と和が聞いてきたので、


「違うわっ!!」

と答えると、


「ふふふふふ。
翔ちゃん、それだけ元気なら大丈夫だな。」


と智くんが笑いながらそう言った。




お腹一杯になり、


「はぁーっ、美味しかった。
ご馳走様でした。」


と手を合わせると、母さんが、


「満足して貰えてよかったわ。」


と笑みを浮かべてそう言った。
















「じゃあ、俺は帰るわ。」

とさとちゃんが立ち上がると和が、



「あ、さとちゃん、俺も帰るよ。」

と言うと、智くんが、


「じゃあ和、乗せて帰ってやるよ。」


と言うと和は、

「やったーっ!!
さとちゃん、ありがとう。」

と言うと、帰る支度をして立ち上がった。






そんな2人を見ていた母さんが、


「2人ともお夕飯食べて帰ればいいのに。」

と、しゅんとしながら言うと智くんが、


「今日は帰ってやる事があるんで、また今度ご馳走になりに来ます。」


とふんわりと微笑みながらそう言った。



「伯母さん、ごめん。
村人が待ってるんだ…。」




「「「えっ!?」」」



「俺、今日は帰ってから村を助けないといけないんで。」


とコントローラーを動かす動作をした後に、両手を合わせて和が言うと、母さんは笑いながら、



「ふふふふふ、
和ちゃん、それは急いで帰らないとね。」


と言い、智くんと和を駐車場まで見送りに出た。





「智くん、和、ありがとう。」


「翔ちゃん、無理はするなよ。」


「翔ちゃん、食べ過ぎて今度の土曜日無理とか言わないでよ。」


「和、大丈夫だよ。
土曜日は予定も入れないし、食べ過ぎて無理とかも言わないから。」


と答えた。



「「じゃあ、またねー。」」


と車から手を振る2人に、




「智くん、和、またねー。」



「さとちゃん、和くん気をつけて帰ってねー。」



と言い2人の乗った車を見送った後、




「じゃあ、戻ろうか。」

と言うと、


「そうね。
この後お茶にしようか?」

と母さんが聞いてきたので、


「うん。」

と答え、家に戻った。








リビングで母さんとハーブティー飲みながら、


「母さん、ごめんね…。」


と言うと母さんが不思議そうな顔をして、


「何が?」

と聞いてきた。



「いや…、だってオレがこんな体質だから、子供の頃から迷惑かけているし…。
今回も犬の姿で眠り続けていたんだろ?
しかも人を噛んじゃったみたいだし…。」


俯きながらそう言うと、母さんは優しいし声で、

「潤くんを噛んでしまった事はよくなかったけど…。
犬になるからって、翔に迷惑かけられた事なんて一度もないわよ。」

と言った。


顔を上げて母さんの顔を見つめると、


「黒い柴犬の時の翔は可愛いし、母さんの自慢のワンコよっ!!」

なんて真面目な顔をして言うから、


「ふはっ。
犬のオレの方が自慢なんかいっ!!」

と言うと、母さんは、


「ええ、犬の姿の翔も好きよ。」


と微笑みながら言った。






その母さんの顔が一瞬…。







『……が好きよ。』



と微笑む知らない女の人と被って見えた…。



だ…れ…?






〝……さま。〟


〝……さま。〟



頭の中で声がする…。


この感覚…前にもあったような…。













なんて思っていると…。












「…ょう…。」


「しょ…う…。」



「翔っ!!」



母さんがオレの肩をグッと掴み、ユサユサとオレを揺らしながら呼んでいた。



「えっ…?」


「大丈夫っ!?」


「うん。」


「もう、ビックリさせないで頂戴よーっ!!
今度は目を開けたまま、寝たのかと思ったわよっ!!」


母さんは無理して笑いながらそう言った。



「あ、ああ。
ごめん、ごめん。」

これ以上心配かけてはいけないと思い、


「このハーブティーが美味しかったから、感動のあまり言葉を失ってたんだよ。」


ハハハハッ


と笑いながら、苦しい言い訳をすると、



「それならよかった…。」


と母さんはホッと安堵の表情を浮かべ、




「感動するほど美味しい、ハーブティーのおかわりはいかが?」



ニッコリと笑って聞いてきた。















⭐to be continued⭐