夜も更けて六月といえども森の近くにあるこの場所は、風が少し冷たく感じるのだが、酒が入り火照った身体には心地の良い風だった。
俺も智くんも、徳利から酒を注ぐのが面倒になり、瓶からお猪口に酒を直接注ぎ手酌で飲んでいると、赤紅と紅藤がゆらゆらと前後に揺れて船を漕いでいた。
「ふふふ。
翔ちゃんアイツら船漕いでるぞ。」
「本当だ。
もう休むように言ってくるよ。」
と言い立ち上がり、赤紅達のいるちゃぶ台まで行き、
「赤紅、紅藤、もういいから休みな。」
とゆさゆさと赤紅と紅藤の肩を揺すると、眠そうな声で口を揃えて、
「「しょうさまー、大丈夫ですー。」」
と言うが、目が開いていないので、
「薄紅、すまないが二人をもう休ませてくれ。
薄紅ももう下がっていいから。」
と言うと、
「かしこまりました。
とりあえず、赤紅と紅藤を寝かせたら此処を片付けますね。」
「ああ、すまない。」
「翔様と智様の分は明日の朝下げますので、そのままゆっくりと楽しんでください。」
と言うと薄紅は、
「赤紅、紅藤、行くよ。
足元気をつけてね。」
とふらふらとした足取りの二人の間に入り、片手ずつでそれぞれの肩を抱き、部屋の奥へと入って行った。
席に戻ると、その様子を見ていた智くんが、
「ふふふ。
アイツらはいつまで経っても、子供だなー。」
と、楽しそうに言った。
「潤に合わせて子供の姿でいるせいか、中身も子供のままなんだけど、潤にはアイツらが合ってるみたいだしな。」
箸で赤貝をひょいっと摘み口に入れ、
「貝もうまっ!!」
「翔くんは相変わらず貝が好きだねー。」
「智くんも食べてみてよ。」
「確かに旨いっ!!」
「でしょっ?」
「酒とも合うしな。」
と智くんがお猪口に注いだ酒をクイッと飲み、夜空に浮かぶ月を眺めながら、
「そういえば和也と相葉ちゃん、翔くんの光の星の流星、物凄く喜んでいたな。
俺、見せて貰った事ないのによー。ズリイよなー。」
と拗ねた口調で言ってきた。
「ははは。
あれは潤の為にやっているんだし、和也は今回だけ特別だよ。」
「ふふ。師匠との約束だもんな。」
「ああ…。
智和との約束だったからな。」
「あれから十年経つから、和也も大きくなったよなー。」
「ああ、あんなに小さかったのにな。」
「和也達は明日、帰っちまうんだよな…。」
と智くんがポツリと呟いた。
「ああ…。明日帰ってしまうな…。
潤がきっと寂しがるだろうな…。」
と言いながら、俺もお猪口に注いだ酒を味わいながら口に含み、
寂しがり屋の潤だから明日は和也について行く、とか言わないよな…?
と思っていると智くんが、
「翔くん…。
潤が和也について帰る、って言ったらどうする?」
と聞いてきた。
思わず口に含んだ酒を
ブッ!!
吹き出してしまい、
「智くん、それだけは勘弁して。」
と着物の袖で口を拭いながら言うと、
「ふふふふふ。
流石の潤もそれは言わないよな。」
と智くんは笑いながら言ったが、俺は潤の事だから冗談にならないような気がして、内心冷や冷やとしていた…。
⭐to be continued⭐