季節は冬となり、その頃には和也への謎解きの手紙も既に出来上がっており、全ての準備が整っていた。





そんなある日、智和に呼ばれておおみ屋工房へと足を運んだ。





♫ピーンポーン♫



玄関にある呼び鈴を鳴らすと、


「はーい。」


と言う声が聞こえ、ガラガラガラッと玄関の引き戸が開くと、中から花浅葱が出てきてた。




「翔様、お待ちしていました。」



「花浅葱、こんにちは。

お邪魔するね。」


と言い、玄関を上ると、




「翔様、どうぞ此方に。」


花浅葱に迎え入れられ、玄関を入って真っ直ぐ続く廊下の突き当たりにある友和の部屋へと案内された。






部屋の前に着くと、コンコンッと花浅葱が襖を叩き、


「師匠。翔様がお越しになられましたよ。」

と言うと中から、


「どうぞ、入ってくれ。」


と声がし、花浅葱がスッと襖を開けた。



中に入ると、布団の中で横になっていた智和が、

「翔、この寒い中すまないな。」

と言ってきた。



「いや、大丈夫だ。」

と言いながら中に入ると、花浅葱が横になっていた智和の身体をゆっくりと起こすのを手伝い、寒くないように肩にカーディガンをかけてやり、


「師匠、大丈夫ですか?」

と智和に声を掛けると、智和は、


「ああ、大丈夫だ。」

と答えた。





それを聞いた花浅葱が俺の方を見て、



「翔様、ごゆっくりしていってくださいね。」


と微笑み部屋から出て行った。





この頃、智和の体力は衰えており、横になって過ごす日が多かったのだ。






「智和、体調は大丈夫なのか?」



「ああ、今日はすごぶる調子がいいんだ。」



「それはよかった。」




「今日、翔を呼んだのは、翔に渡したい物があらからなんだ。」



「渡したい物…?」



「ああ、そうだ。」



と言いながら、智和は枕元に置いてあった赤い布に包まれた手のひらに乗る大きさの物を、俺に手渡してきた。


智和からそれを受け取り、そっと赤い布を外すと、小さな桐の箱が現れた。

その桐の箱の蓋を開け中を見ると…。




中には懐中時計が入っていた。


その懐中時計の蓋には、星と唐草模様が彫り込まれおり、所々に星の形をした紫と赤の小さな石が散りばめられ、時計の上側に付いている竜頭(竜頭)も星の形をしており、手の込んだ代物だった。





「智和、これは…?」

と問うと、




「翔には世話になったので、お礼だ。」

と、智和は答えた。




「綺麗な懐中時計だ…。」


竜頭の上にある蓋の開閉ボタンを押し、蓋を開けてみると、文字盤の十二と六の位置には赤の石が、三と九の位置には紫の石が埋め込まれていた。





「その文字盤に埋め込んでいる石は、潤からのリクエストだ。」





「潤からの…?」




「ああ…。

赤は翔の妖力の色で、紫は自分の妖力の色だから、絶対にその位置に赤と紫の石を入れて欲しい、と頼まれたんだ。





「ははっ。潤らしいな。」





「潤らしいだろ。

潤は口を開けば、〝翔くん、翔くん〟だからな。」

智和は、ハハハハッと笑いながら言った。




「智和、ありがとう。

大切に使わせてもらうよ。」


と言うと、



「翔の事だから勿体ないと言って飾るのだろうが、出来れば使って欲しいんだが…。」




「おっしゃる通り…。精進します…。」

と肩を竦めて言うと、




「そうして貰いたいな。」

と、智和が目を細めて笑いながら言った。















それから数日後の雪の舞い降りる冬のある日、智和はとうとうこの世を去っていったのだった…。











⭐to be continued⭐