幾つ目かの強烈な坂道、登りきると突然視界が開けた。
北海ともに、Whitbyの町が見えた。
写真で見た古い教会の尖塔まで見える。
あとは坂道を駆け下ってゆくだけ。

待ち合わせ時間には意味がある。
2004年9月22日、ぼくは東京を離れた。
一年前のちょうどこの時間は新幹線を待っていたのだろう。
あれからちょうど一年。
あの時の自分に教えてあげたい。
君からちょうど一年後、イギリスのWhitbyという町で、
学校のスタッフを待っているよと。

時々、バスがあるからと、あるいは町まで車に乗せてくれると、
暖かい申し出をくれた優しいイギリス人もいた。
でも全て断ってしまった。
「これは自分のチャレンジだから」と言うと、笑顔で親指を立ててくれた。

挑戦というのは本当は少し違う。
似ているけれども、しっくり来ない。
これが挑戦だったら、とっくに負けている。
修行?清算?、、、どれもニュアンスが違う。
甘い見通しの上に始めたこの自転車旅行だったけれど、
その責任からは逃げたくなかった。

ただ、たくさんの弱い自分には出会えた。
休みたい自分、まだ寝ていたい自分、言い訳する自分、叫び出す自分。
彼らの横顔は、すべて覚えている。
とことん、ぼくは弱かった。
弱くて弱くて、どうしようもなかった。
完走して強くなった?そうも思わない。

向こうから、長身の男性が、笑顔で近づいて来た。
「Jumpei Murase?」と。
ああ、とりあえず、一つの区切りだ。
ボロボロになって辿り着いたこの町だもの。
もうこの港町が大好きになっている。
これは頑張れる。きっと頑張れる。

「Yes , I'm Jumpei Murase」