カオサン好き、僕は。

カオサンロードは、世界中からバックパッカーがやってくる、バンコクの安宿街。
安宿だけでなく、レストラン、旅行会社、土産物屋、鞄屋、マッサージ、フルーツ売り、コピーCD,
コピーソフト、偽学生証、偽記者証、果てはハッパにオンナにオトコと、まあ何でもござれの町。
ある人はバンコクの中の「租界」なんて言うし、
西洋人宿、日本人宿、韓国人宿、イスラエル人宿なども多い。

2002年2月に初めてこの町に来て以来、

カオサンに来ると「帰って来たぁ」と呟いてしまう。
いつももうすぐカオサンに到着だなぁと思うとちょっと、そわそわが始まる。
カオサン飽きたよなんて言いつつ、やっぱり好きなんだ。
東京にいた時、長く旅行に出られなくて、

この町を歩いている夢を見た事まであるほど。
いろんな人とこの町で知り合ったし、信じられないような再会も果たした。
なんだか妙な磁力があって、いつも引き寄せられてしまう。

 

この町のあちこちに、昔の僕が埋まっている。

まだ何も始まっていなくて、従って終わってもいなかった頃の自分。

俳優に対しても、脚本に対しても、まだまだ希望があったし、

恋愛に対しても、まだまだ一からやり直せた頃。

そしてまだまだ何も知らずに、「すごい!」とか「きっとそうだね!」と言えた頃。

一本一本の小道に、ネットカフェに、SIAMで買う4バーツの水に、

昔の自分と、今の自分を見る。


またカオサンに到着。
いつもの通り、ニューメリーVに宿泊。
シングルで130バーツ。400円くらい。
裏寺散歩にチャオプラヤー川に落ちる夕陽を見て、
アローイおじさんのシェークを飲みながら
世界中からひっきりなしにやってくる旅行者達を眺める。

カオサンは今回で最後と決めている。
次にバンコクに来る事があっても、
もうその時はバックパックじゃないだろう。
だからカオサンには来ない。
見物がてら来るかもしれないけど、
それは「帰って来る」とはもう違ったもの。
だからもう今回で、カオサンは最後。

カオサンロードに来る度、いつも食べるものがある。
チキンバゲット。でっかいサンドイッチだ。
チキンの照り焼きがそのままパンに、
挟まっているのでなく、もうボンとのっかっている。
初めてこの町に来た時、その旨さとでっかさに感動した。
あれが忘れられなくて。
でもどのレストランで食べたのか記憶がはっきりしない。
たしかメイン通りのD&D INNの近くだったのだと思うのだが、、、
で、カオサンに来る度、あの時のチキンバゲットをと、
色々な店で「チキンバゲットプリーズ」を繰り返して来た。

でも、いつも味わう軽い失望。
あの時のチキンバゲットとはどこか違う。
あの時の感動に、どうしても巡り会えない。
こんなものじゃなかった、
こんな味じゃなかったと、
くり返しくり返し、そう。

カオサンロードを去る今日、
もうここに「帰って」来るのは終わりにしようと決めて、
最後のチキンバゲットをオーダーした。
D&D INNすぐ近くのウッドテラスのあるレストランで。

確かにおいしいし、確かに大きい。
でも何かが違う、あの時の感動は、もう僕にやって来ない。
それでも、このチキンバゲットだったのだ。
もうそれで結論づけなければいけない。
02年2月2日に食べたチキンンバゲットは、
きっとこれだった。
もうそれでいいと思った。

だっていつまでもチキンバゲットだけを探し続けるわけには、

もういかないんだもの。