彼の合掌。

その子には手がない。
両肩からなにかネギのようなものが15センチほど、ひょろっと生えている。
根の先には爪らしきものが一つ生えている。
首にお金を入れてもらう為のポシェットを提げている。
手になり損ねた両の手を合わせ、お金を下さいと懇願する。

僕はバスの中から彼を見おろしている。
50ドルを両替した20万カンボジアリアルで財布はパンパン。
でも僕はバスの窓を開けなかった。
窓を開ければ、対向車がまき散らす赤い砂埃がまた車内に舞い込むだろう。

「お金はあげないと決めた」
「お金をあげる事によって彼らの自立を妨げている」
「一人だけにお金をあげても、きりがない。それは見て来た通り」
そんな様々な言い訳は用意できても、
窓を開けなかった直接の動機は、
自分が一番分かっている。

眠りたい。
もう少しだけ、眠らせてほしい。