ヒッチなんて最悪だ。
何時間も、待ちぼうけなんて当然。
乗れてもギュウギュウ詰めのキャビン、砂埃舞い込むトラック荷台、スペアタイヤの中。
寒さに震え、トイレを我慢し、検問に怯え、尻の感覚はなくなる。
眠れば鉄柱に頭をぶつけ、黒色の服は灰色になり(埃で)、バックパックにはコールタールがべっとりと(アスファルト運搬トラック)。
まぁ、最悪。

バスだったら、ランクルだったら。
移動の心配をする事もない。
天気を心配して空を見上げなくてもいい。
地図も見なくていい。
中国語もチベット語も覚えなくていい。
写真を撮りたきゃ「フォト」と言えばいい。
何か文句があればドライバーやガイドに当たればいい。
まぁ、最高。

でも僕は知っている。
バター茶のうまさ。ツァンパの粉っぽさ。
チベット人のおじちゃんが、峠にさしかかると車を止めて、持って来たタルチョ(五色の旗)を、電柱に結んでいる、あの満足そうな顔。
その後リンガ(ピクニック)して歌を歌うこと。

知っているだろうか。
チベット人ドライバーがカンリンポチェを仰ぐ眼差し。彼らの心の中にはいつだってカンリンポチェがあり、彼らはカンリンポチェを仰ぐ時間に「帰って来る」のだという事を。だから旅行者のように大騒ぎしてシャッター切りまくるなんて必要ないのだという事を。

「お客さま」には決して見せてくれたない、彼らの素顔、横顔。
そんな彼らの隣に、僕はいた。