『……………智……』
俺を呼ぶ声に、俺は思わず立ち止まった。
翔くんに「智」って呼ばれたのは
どれくらいぶりだろう。
翔くんが俺を呼ぶときの「智」って発音は
ちょっとみんなと違うんだ。
翔くんの声で
翔くんの発音で「智」なんて呼ばれたら
俺……………
なに降り構わず
翔くんのもとに走っていって
抱き着きたくなるじゃないか………
俺は翔くんに背を向けて
じっと我慢して次の言葉を待っていた。
「智は、今日が水曜日だからここに来たの?」(翔)
「翔くんは、今日が水曜日だから来たんじゃないよね。」(智)
「智は…………お祭りに来たんだよね。
それで、たまたま思い出してここに来たんだろ。」(翔)
「翔くんは、彼女とお祭りに来てたんでしょ。
それで、たまたま思い出してここに来たんでしょ。」(智)
お互いが聞きたいのに
聞けない思い。
……………長い…………沈黙。
「「やっぱり………
俺たちはもう……………
終わったんだ……」」
俺は、振り返ることなく
もう一度前に歩き出した。
『智!!』
翔くんの慌てた声が俺を呼び止めた。
『………な……………な……に?』
やっと絞り出すように答えた。
たったこれだけの言葉なのに
なんで出てこないんだろう………
そのあとに続く会話が………
怖かったのかもしれない。
翔くんが、俺に近づいてきて
『一人で………………お祭りにきたの?』
と、聞く。
「お祭り?
違う。
水曜日だから………
…来たのに…………
翔くんは違うの?」
って、言いたいのに
言えずに首だけを横に振った。
そしたら
『…そっか……
…雅紀たち………と来たの?』
と、俺からしたら突拍子のない言葉。
俺が首を横に振ったから
一人で来たんじゃないと思ったんだ。
だから、
俺は、大きく首を横に振った。
「水曜日だから………
翔くんとの約束の…………
秘密の……………水曜日だから……………」
こうも俺たちの思いは、スレ違ってしまったんだ。
そう思うと胸が苦しくて
この場にいるのが堪えられない。
『じゃあ…………潤と来たんだ?』
俺は、その言葉に
その言い方に思わず涙が溢れてしまった。
「どうせ、
また潤のお守りでここに来たんだろ。」
って、裏の言葉が聞こえてくる。
ずっと、
ずっと…………
翔くんだけを…………
翔くんだけを待っていたのに…………
堪えていた涙…………
涙を見せたくない。
見られたくなくて………
翔くんが来る前に立ち去ろうと走り出す。
なのに、
俺は、翔くんに捕まった。