川端龍子 馬上人物図:掛軸 | 野崎淳之介 『玉石混淆 美術館』 blogsite

野崎淳之介 『玉石混淆 美術館』 blogsite

Jumble of wheat and tares art museum : blogsite

野崎淳之介の所有する美術品・博物品を中心に、自身の作品のこと、Art・芸術のことを紹介するブログ版 Web美術館。

玉石混淆=良いものもそうでないもののごちゃまぜになっている様。



川端龍子(かわばたりゅうし Ryushi Kawabata
明治18年—昭和41年

大正から昭和にかけて活躍した日本画家の巨匠です。
若かりし頃は洋画を描いていましたが
武者修行を兼ねた訪米にて厳しい現実の末に挫折。
帰国前に立ち寄ったボストン美術館で鎌倉時代の「平治物語絵巻」を見て感動し
帰国後は日本画に転向しています。

その後、横山大観の日本美術院同人にもなり院展などで作品を発表していきます。
しかし、龍子の日本画は独学で大画面に迫力あるタッチで描かれたものであり
当時「床の間芸術」として主流だった小さな画面に繊細に優美に描くという描き方とは相反して
賛否渦巻く批判の矢面に立たされてしまうのです。

その結果、川端龍子は美術院を脱退。
そして自らの作品を「床の間芸術」に対して「会場芸術」と称し『青龍社』を結成、
大画面を得意とする独自の芸術を確立していくのです。

こうして、日本画壇において異色画家として巨匠の地位を築いていくのです。


そんな川端龍子が描いたとされる作品です。



馬に乗る少年が描かれています。

大画面を得意とした画家ですが
龍子記念館の展示作品をみてもわかる通り掛軸などの小品も多く描いています。



馬は素晴らしく良い特徴を捉えていて
素早い筆さばきながら、まるで生きているように描かれています。



足元に咲く草花などの表現も、馬・少年同様に
まさに川端龍子の筆使いといったところです!



落款部分です。

まずは署名を比較してみます。



右側のものはすべて参考資料。
様々な川端龍子の真筆とされる作品画像から署名部分を抜粋し
拝借して並べてみました。

こう見ると当作品も明らかに同じ筆跡。
川端龍子の自筆といえると思います。

ただし問題は落款印、いわゆる印譜です。
当作品の印譜は、いくつかの落款辞典を探しても
また龍子記念館の展示作品を見ても合致するものが現在のところ見当たりません。
しかし、代表的印譜の中に似たものが存在します。
その比較がこちら・・・



右側は参考資料。
遊子館 刊「日本書画 落款大事典」から抜粋しています。

同じ印譜と思いきや・・・向きが「逆」なのです。
これは、この印譜が使われている作品はどれも同じであり
当作品のような逆向きのものは今のところ見つかりません。

これは第三者による「偽印」なのでしょうか?
それとも同じような印譜をいくつか所持していたうちの
あまり使われる事のなかった印を使用したレアな作例ということなのでしょうか?

龍子記念館の学芸員さんのお話によれば
川端龍子は生涯、大作から小品まで含めて3000点近くの作品を描いたのではないかとのこと。
それほどの多作の画家ならば多数の印譜の所持や
摩耗した印譜の作り替えなどを行っていてもおかしくないとも思いますが・・・

これは更に多くの作品を見て、専門家に話を聞くなど
研究・検証を要する作品であると思います。
真贋判定はそれからでも遅くはありません。


ひと言コメント
絵筆のタッチや署名の筆跡は明らかに川端龍子のものであると考えます。
しかし上記のように印譜に「疑問符」がついてしまうので至ってグレーゾーンな作品。
また、箱も単なる合わせ箱であり共箱でもないのが残念なところです。

ただし作品自体は生き生きとしていて非常に良い絵だと思っています。
もし仮にこれが贋作だとしても、それは「川端龍子の贋作だった」ということであり
作品の出来自体はとても気に入っているので、これはこれでいいんだと思う事にします。