私が中学生の頃の話だ
自宅の向かいには
小さな長屋風の家がいくつか軒を連ねてあった
そのうちの一軒に70代くらいの夫婦が住んでいて
良くうちの母と立ち話していた
『F原さんは今でこそ婆さんだけど、昔は夜の蝶と言われるくらいべっぴんさんやったらしいで』
悪口なんか
褒めてるのか
ようわからんことを
母は子どもの私にF原さん豆知識としてくれた
『夜の蝶って何?』
と尋ねると
『スナックあるやろ?夜、お酒を出すお店で働く綺麗にしている女の人のことよ』
母は得意気に言う。
『じゃあ、F原さんが夜の蝶なら、お母さんは昼間の蛾やなあ』
とやはり言わずにはいれなかった。
『どーしてあんたは一言多いんかな。腹立つわ』
と母のホルモンをまた刺激してしまった
夜の蝶のうちには
可愛い真っ白なマルチーズのメリーちゃんがいて
いつも夜の蝶が抱っこしていた。
ある日いつものように
夜の蝶が昼の蛾をつかまえて、笑いながら話しかけてきた。
テーブルの上に準備していたメリーちゃんのドッグフードを、ご主人が酒のあてだと思って全部食べたと言うのだ。
それを知った蛾は、
待ってましたと今度は仕事帰りのご主人を捕まえ、
『あんたメリーちゃんのごはんもわからんで食べたんな?』
『それがな奥さん、うめぇで気がつかんかったわ。あんたも食べてみて』
『いや,よう食べんわ。しかし、よう気が付かんかったなー』
ただバカにするだけのために足を止めさせたのだった。
しばらくして、
我が家のヨークシャテリアのテルが脱走をして、夜の蝶の庭先でメリーちゃんと遊んでいるところを見つけた。
それからどれくらい経った頃だろうか、
夜の蝶からメリーちゃんが妊娠していると聞き、
『なあ、もしかしたらテルが脱走した時に妊娠させたかもしれんなあ』
と私は昼の蛾に尋ねた
『あんな短時間でそんなことあるかい』
と鼻で笑った
程なくして
メリーちゃんは3匹の可愛い仔犬を産んだ
テルの子どもの頃そっくりの
真っ黒い毛の赤ちゃんを、、、
うちで飼いたいと号泣したものの、結局赤ちゃんたちは数か月過ぎた頃、親戚の獣医さんが小型犬を家族に迎えたいと言う里親さん達のもとに連れて行ってくれた。
あれから30年
もうその家には
違う人が住んでいて、
夜の蝶が越した理由を
私は母から聴いたのだろうが全く覚えてない。
それでも
子どもが寝ない時にする夜のドライブで
古めかしいスナックの灯を目にすると
メリーちゃんを抱っこした夜の蝶を
今でも思い出す