私の記憶の中で最も古い記憶。

それは、4歳のある朝の出来事。


「これ、出しといてくれ。」


茶封筒を机に叩きつけながら無愛想に言う男。

実父だ。


「はい、わかりました。」

朝食を作りながら男を見ずに言う女。

これは実の母。


共に30前半だった。


私の無味乾燥人生はここから始まっていたのかもしれない。

両親の不仲を鑑みたのだろう。

幼かった私は、


「自分で出せばいいじゃーん!」


私はおどけていった。

次の瞬間、私の体は宙に舞った。


ダーーーーーーーーーッッッン!!


そして、怒号が飛ぶ。

「俺は忙しいんだよ!」



これが私の最古の記憶。

幼い日の記憶の中に、それ以外の実父の記憶はない。


ずっといたのだろうが、

私の記憶には不思議なことにいないことになっている。

あと幼い頃の記憶で残っているものは、

近所の子達と一緒にりかちゃんのおままごとセットで遊び、

カンケリをして、縄跳びをみんなで飛び、

「トロロごっこ」と称したかくれんぼをして遊んでいる記憶だけである。

そして、

「ごはんよー。」

と呼びにくる母の顔も記憶には残っている。


実父に関する記憶がない理由はわからない。

それなりに幸せだったから記憶にないのか、

消したい記憶でもあるのか、

私が眠る頃までには帰ってこず、起きるまでに出勤してしまっていたのか、

全くわからない。


ただ、この頃の実父に対する気持ちは、

「何も感じない。」

というのが正しい表現だろう。



あなたの父親は、どんな父親だった?

そして、どんな幼少期を送った?

あなたは、誰を愛しているだろうか。


恋人?

夫?

家族?

子ども?


…自分?


今、私は医療事務として働いているOLの悠紀南。

みんなには「ユキ」とよばれている。

就職してから3年が経った。

上司も部下もいて、「中堅」という地位にいる。


私には愛しているものなんてない。

ただ毎日を必死というよりは、空洞の中をただひたすら歩く歩兵の玩具の様に過ごしている。

無味乾燥

それが私の今までの人生にぴったりな言葉だった。


私が何も愛さないのには意味があったのだ。