緊張するよ


そんなの今ちょっと想像しただけでも、体が固まりそうになるもん



だけど違うよ



違うでしょ



困ったような不安な瞳をしてる彼を、じっと見つめる



なんでわからないんだろ



男の人だから?



ううん、健君やイノッチならすぐわかるよね



彼女を実家に誘ってくれる



親がいるのに誘ってくれる



それがどんなに嬉しいことか



別に何の約束があるわけでもない



ただ付き合ってる彼女を紹介するってこと



もちろんそれだけじゃ満足できない女性もいるよね



だけど私は



彼が大事にしている家族に、私を会わせたいと思ってくれた


その彼の気持ちが嬉しくて光栄で誇らしくて



「彼」に


「岡田准一」に



そんな風に思ってもらえる彼女でいられた



それが涙として溢れ出てしまった



「〇〇…」



鼻をかむのを見られるのが恥ずかしくて、横を向いてかんだ



だから彼は私の顔が見えなくて、オロオロとした声で名前を呼んだ



「あの…さ。俺、やっぱりわかんないから」



左腕がお腹にまわり、ゆるりと抱きしめる



「教えて」



暖かな呼吸が、私の髪を揺らす



私の後頭部に、彼が顔を埋めるようにしている



「いつか…私も准君の生まれ育ったおうちをね、見てみたいなって思ったの」



それは消しゴムで消した気持ち



消しゴムで消しても、書いたあとは紙に残っているもので



そのあとを彼という鉛筆で、そっと擦って浮かび上がらせられた