ボフッと小さな音がして、私の指定した隣に少し間をあけて彼が座った



「じゃあ乗ったところからね」


「乗ったところって…」



「ロシアン観覧車だよ。今から2人で乗ったってことね」


「ロシアン観覧車…」


演技派の彼


だからすぐにその気になれるはずだよね


「あ、目をつぶってね。ロシアン観覧車だから外は見えないんだよね」


「ん…」


素直な声にチラッと横目で見たら


きっとこの線が全部正解!パーフェクト!って言いたくなるような綺麗な輪郭の横顔があった



それから自分でそんなこと始めたくせにこの先どうしていいかわからなくて無言になったら



彼が優しい低い声でゆっくりと話し出した



それは実際ロシアン観覧車に乗ると流れるアナウンスをまねしているようで



観覧車に普通に乗っていたら見える景色の説明などだった



「ふふふ。目をつぶっていてもひらパーの景色が見えるみたいだね。」



彼の柔らかな低音でのアナウンスに本当に乗っている気分になっていた


「よかった」


「園長本人のアナウンスなんて贅沢だよね~」



ソファに置いていた私の左手に彼の手が重なってきた



大きな手にきゅうっと包まれる感覚が、目をつぶっているからやけに感じられてドキドキしてしまう



「そろそろ下に着くのかな」



ドキドキを隠すように言葉をつなぐ


「…まだ」


「随分長い観覧車なんだね」


観覧車って乗ってもいつも背筋がヒヤヒヤしていて早く下にって思いながらだから、一周がどれぐらいかかるか覚えていない


「もうすぐてっぺんだよ」



「まだ半分も行ってなかったんだ~」



彼と乗る観覧車ならずっと乗っていたいから嬉しくなる



「〇〇」


「1番上に着いた?」


1番上についたらどんな景色乗ってアナウンスしてくれるんだろう


枚方市の景色かな


なんてワクワクしていたら風が動いて



「んっ」


私の唇に彼の唇が重なっていた