「まだ・・・・・近いよ」
「・・・・・・・だって近くで見たくてあんなでっかい双眼鏡持ってきてたんでしょ」
そうだけど
吐息がかかる位置だともう何も考えられなくなっちゃうから
「息が・・・・・・かかってくすぐったいよ」
「ん-?俺にもかかるけどくすぐったくなんかないけどなぁ」
私のウソをわかってるような目
熱い息と熱い目に
もう体中の細胞が熱くなってしまって
我慢できなくて
「ぅわっ」
ぎょうううううううううっと抱きついてしまった
そのまま彼の首筋に顔をうずめ
彼の匂いを思いっきり吸い込む
他の人とは全く違う匂い
雨の日の前日みたいな
深い森の中みたいな
誰もいない図書館みたいな
心地よいのに
体中の血が静かに沸騰しそうになる
そんな匂い
「ははっ、なぁんだよぉ~」
笑いながら私の背中をポンポンって優しく撫で叩いてくれる
「今日はまだ時間あるからさ」
もっと感じたくて無言で顔を彼の首筋にぐりぐりとこすりつける
「いっぱい甘えて」
「・・・じゃあもっとぎゅってして」
「んふふ、了解」
ぎゅうううううううううううううううう
「ちょっ・・・・・と苦しい~」
本当はそんなに苦しくないけれど
急に恥ずかしくなっちゃったから
そんな私の心を読んでいて少し笑って優しく緩めてくれた腕
私の何倍のも筋肉で覆われた逞しい腕
すっごく安心できる場所
この場所にずっといられるように
この場所にふさわしい自分でいられるように
明日からもがんばろうって思った
終わり