「・・・・・・・・焼きすぎ」
「うん・・・・・・・こっちは大丈夫なんだけど」
久しぶりに剛君が遊びに来てくれるっていうから、私は張り切ってパンを焼いた
食の細い剛君だけど、私が作ったものは見た目や味がいまいちでもいつも全部食べてくれるから
約束の時間に合わせて焼き立てを食べてもらいたくて
「剛君、こっち食べてね」
そういって焦げていない方をお皿に盛って手渡した
「・・・・・・・・で?」
目だけでなんで焼きすぎたのかを言えと促される
「えっと・・・・・・・焼けるのを待ってる間にネットをみてて・・・」
「なんの?」
間髪入れずに聞かれる
「・・・・・・・・・・映画の・・・・宣伝の・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の?」
そう。ヒメアノ~ルの宣伝が公開されて、短いだろうしちょっとだけ観ようと思ったら
「・・・・・・・・・・・・・・うん」
何度も何度も何度も繰り返し観ちゃってたんだよね
怖かった
だけど
かっこよくて
胸に迫る静かな熱が感じられて
気がついたらパンの焼き加減をすっかり忘れてた
「…そっち、よこせよ」
私が持っていた焦げたパンのお皿を剛君が奪った
「え?いいよ、こっち食べて」
「・・・・・・・こっちのがうまそうなんだよ」
そのまま彼は焦げてしまったパンをもぎゅもぎゅ食べだした
けっして私の方を見ないけど
優しいたれ目の周りがほんのり赤くなっている
優しい
優しすぎる彼
ぶっきらぼうな彼の気持ち
今日もやっぱり彼が好きすぎるって思いながら
見ないふりして気がついてないふりして
サラダとオムレツをテ-ブルに並べた
終わり
はい。パン焼きすぎたんです
こんがり…で、色見てたら剛君をふと思い出して