嫌じゃない…と言ってしまったけど…
いや、俺を選んでゲームをしてくれてるってことは喜ぶべきことなんたろう
「准君…嫌な理由って何?」
嫌じゃないと言ったにもかかわらず、彼女は俺がよく思えなかったことをズバリお見通しで聞いてくる
「………」
「そんな変な内容じゃないよ。通勤電車が一緒になって、そこからお互い意識して付き合うまで、みたいな感じだよ」
それがゲームの中での俺と〇〇なんだよな
同じ会社の同僚で付き合いだすまで…か
俺の胸に抱きしめていた彼女の頭がモゾモゾ動いて
顔を上げ俺を見上げてきた
「……ゲーム…だよな」
そう、ゲームなんだよ
俺が俳優として映画に出ているようなものだよな
それを観て彼女が喜んでくれてるってことに近い…のか
「…うん、ゲームだよ」
ズリズリと俺の胸から這い上がってきて鼻と鼻がくっつきそうな距離で見つめられる
「准君の嫌なことはしたくないから…教えて」
まだお互い裸だから、彼女の胸が俺の胸というか鎖骨の辺りに直にあたって思考回路の動きが鈍る
ふにょんとした柔らかな胸が
その先が
あたってる…
「准君…」
「ゲームの中の俺は俺じゃないから」
もう考えていられなくなって頭に浮かんだことをそのまま口にしてしまう
「……」
「だから、本物の俺はだらしないし汚いとこだってかっこ悪いとこだってすごくあるし、その、ダメなところばっかりなんだよ」
俺の言葉をゆっくり咀嚼して脳に送るかのようにじっと聞いている
「ゲームを毎日してるってことはゲームの中の俺と毎日会ってるわけで…現実の世界の俺とはそんなに会えないから…会ったときにこんなの違う、とか思われたりしたらやだなってチラッと思っただけで」
ゲームの中の俺はたぶんファンの子向けに完璧な岡田准一像で描かれているはずだから
服を脱いでそのまま放置とか
ヨレヨレTシャツでソファでうたた寝してヨダレ垂れてたりとか
風呂場で気分良く歌ってたりとか
部屋のあちこちに荷物が積まれていたりとか
爪噛みながらぼんやりしてたりとか
それに…たまに言わされるゲーム用のあの言葉の数々
あんなこと俺は普段ほとんど言えない
いつだって彼女に対していろいろ溢れるほど思ってはいるけど
口に出して言うことはなかなか難しいというか
そんなこと言うシチュエーションなんかほとんどないと思うし
そういう雰囲気作りとかハードル高すぎるから
だから…