いつもの照れて口元を触る仕草ではなく

目の周りを戸惑ったように触り続け

美しい瞳が

会場の照明をうつしただけではない光を集め輝く。

熱く湧き出る涙をぐっと堪え話す彼

赤くなった目元

震える唇

紡ぎ出される言霊


きれい

きれい

きれい


姿形ももちろんだけど、その存在が美しくて
気付いたら頬が濡れていた。

この人はなんて美しい魂を持っているんだろう?

20年間、思い出したくもないようなこともあったはず。

辛い

悔しい

悲しい


言い表せないようなそんな負の感情をここまで見事に昇華できる人


この人を好きになったことを誇りに思える。

たとえどんなときでも誰にでも

私の好きな人はとても誇らしい人だと言い切れる。


そんな幸せ


仲間と一緒に壇上ではにかむような弾けるような笑顔を浮かべている


ああ

この人と出会えてよかった



そんな思いでテレビの前にいた2時間がすぎたころには

私の中のモヤモヤは

すっかり溶けていた。



彼が選ばれた

彼が選んだ

そんな仕事

大丈夫。
きっとまた素晴らしい作品を携えて笑顔で帰ってきてくれる。

登山家ではなく映画人。
だから映画が撮れなくなるようなことは絶対にしない。それは何がなんでも避けるはず。


そう信じられたらなんだか急に疲労感が襲ってきて、まぶたが重くなってしまった。

「少しだけ…」

そうつぶやき、ソファにかかっていたブランケットに潜り込む。

いつもの彼の匂いがして

まるで抱きしめられているようで

「ふふふふふ」

1人にやける。