……その家は
 小さな池の
 ほとりに立っていた
 ぼくは、はっきり
 おぼえている

 

  母は
 少し神経質で
 よくこごとを
 言った
 手のよごれや
 食事の作法や

 


ヨハンのモノローグとそれに呼応する回想シーンから物語は始まります。  

ガタン ガタン   という汽車の音と、回想するヨハン。


 

 
小さな町で汽車を降り、作家のモリッツ・クラインを訪ねるのだけど。。。

 「お・・・・・? だれだね」

 「?」「・・・・・・あ、あの」

憧れの作家を前に何も言えないヨハン。

 ♪♪・・・

 「コンソレーション・・・・・・!・・・リストですね?」

 「-ああ ルイーゼかね ルイーゼならはなれだよ」 

思わずその場を離れてしまい、ピアノの音のほうへ行ってしまう。

   

クラインの娘ルイーゼと初対面し、ピアノのひき方を教えているうち、おしゃべりが始まる。

ヨハンをルイーゼのボーイフレンドだと勘違いしたまま乗馬に出かけたクライン。

 

クラインが戻るまで、ルイーゼの部屋で続きのおしゃべりを。

 

・・・・・会話をして行くうちに、ヨハンのバッグから落ちた1枚の写真で、訪問の本当のわけがルイーゼにわかってしまう。

 

 

 

 

 

一瞬の沈黙の後、クラインを待たずにその家を退出しようとするヨハン。

それを止めようとするルイーゼ。

泣き出すルイーゼに、ヨハンは、本当の理由を語るとともに、心の中でつぶやく。

 

 ああ、そう

 あの人だって・・・


 ぼくよりずっと

 たくさんの時間を 生きて

  たくさんの悲しみに会ったはずなのに

 

 あの人は

 …なんてあたたかい

 …なんて澄んだ 

 言葉で 語り かけるものを かくんだろう・・・

 

ひきとめるルイーゼにお礼を述べ、ヨハンは自分の町へ帰路に向かう。

乗馬から戻り、ルイーゼからヨハンのことを知らされて、後を追いかけるクライン。

 

ヨハンの乗り込んだ汽車が出発する汽笛が鳴った、その時。

目の前に、馬から飛び降りるクラインが。。

 

 

「ヨハン!」と叫ぶクライン。

動き出した汽車。

 

大きく腕を広げ、自分の胸に飛び込むよう促す、クライン。

驚きのあまり声も出ないヨハンの代わりに、答えるかのような、車輪の音。

    

       (ガタン…)

 

二人のアップが交錯し、車輪の動く音の中、このモノローグが・・・再び始まる・・・

 

 ……その家は

 小さな澄んだ

 池のほとりにあった。

 ぼくは はっきり

 おぼえている

 

幼少時の回想と、二人の顔との、フラッシュバック。

 

 ぼくと弟たちは

 その家で生まれ

 幼年時代を過ごした

 

 家と

 母と

 季節ごとの花と

 

    (ガタン ガタン

     ガタン ガタン・・・)

 

 母はしょっちゅう

 ぼくたちの名を

 呼んでた

 よくとおる

 高い声で

 

 ―ヨハン!

 パウル!

 クリスチャン!

 

      (ガタン・・・ )

 

 父は

 大きな人で

 ぼくたちは

 いつも

 肩ぐるまを

 ねだった

 

 高い背

 

父とじゃれ合うこどもたち、そばに立って見守る母。

逆光を浴びる5人の親子の、シルエット

 

そして・・・・・・

 

そして、この後にラストページ。。

 

 

しゃくりながら泣きました。

たった、24ページ。なのに。

 

まるで映画のシーンのような、このクライマックスと、最後の、ヨハンの、逆光を背につぶやく、顔。。

 

 

ヨハンが七つになった時、父母は離婚し、父は作家となって別の女性と再婚していたのです。

ヨハンは、初め父を恨んでいた。

けれども、父の小説を読むうちに父への憎しみが尊敬に変わり、その父にひと目会いに行こうとした旅だったのです。

 

映画のような、広いアングルからの人物タッチと緻密な構図(コマ割り)、ストーリーの構成。

そして、詩を詠むようなヨハンのモノローグ。

 

萩尾望都さんの世界をよく表している、珠玉中の珠玉作だと思います。

本棚にずっと大切にしまってあります。

 

 

 

それと

 

この表紙の、ヨハンの伏し目のお顔。

羽生くん、この表紙のヨハンとイメージがかぶるんです。

伏し目の雰囲気が似ている。

髪の分け目が違うけどネ。

 

 ♥-(●´ェ`●)