ゲゲゲのブラック次元 -96ページ目

ゲゲゲのブラック次元

コッペパンと妖夢が好きなゴクウブラックと
罪のない人間と海砂に優しい夜神月と
色物揃いで最強の部下たちを従えるリボンズ・アルマークが
存在するカオスな次元です


俺たちに翼はない~AnotherStory~(アナザーストーリー)



 伽楼羅と翔は美咲を駅まで送り届け、羽田家に向かっていた。


「はい伽楼羅」


 翔は黒くて平たい物体を助手席に座っている伽楼羅に差し出す。


「なんだそれは」

「スマートフォン、略してスマホ」

「ほぅ、知っているぞ、確かケータイの最新型であったな」

「そっ。伽楼羅へのプレゼント」

「好意は嬉しいが、私は既にケータイを所持している」

「ガラケーよりネットが見れるスマホの方が便利だ。それにほら」


 伽楼羅に手渡されたスマホの待ち受け画面には美咲の画像が設定されていた。


「なっ、美咲様⁈フェニックス、貴様いったいどこでコレを…」

「さっき。どーせケータイ変えるんなら、できるだけ伽楼羅が得した方がいいだろうと思ってさ。それから、美咲ちゃんの番号と俺たちの番号も登録しといたから。」

「気安く姫の名前を口にするな!」

「楽しいなぁ~…俺さぁ、伽楼羅が戻ってきて本当に良かったと思ってるよ」

(ごまかしたな…)

「うむ、余もこの時をどれだけ待ち焦がれていたことか」

「なんたって、10年越しの片思いだったから」

「き、気色悪言い方はよせ」

「伽楼羅、もう引っ込んだりしないでよ。ずっと、俺の傍にいてほしいな。あっ、伽楼羅はこういうこと俺よりお姫様に言われた方がうれしいかな?」

「……姫は私との別れを惜しんでおられる」

「へぇ、あの子結構やるじゃん」

「私は、あの方に二度と寂しい想いをさせるわけにはいかない」

「お前んとこのお姫様はどうすんのさ。何よりも最優先で護らなきゃいけないんじゃなかったの?」

「勿論、私の護るべきお方は今も昔もプリンセス・ダヴただ一人と決まっておる。だが私は…」

「伽楼羅の好み的にはあっちの方がよかったってことか。おまえの妹ちゃん、言っちゃ悪いけど地味だもし。わかるわかる、見た目も華やかな方がいいもんね」

「……何も言い返せぬ」

「伽楼羅、射精がしたいって言ってたね。奥さん欲しいんでしょ?」

「当然だ、王が童貞では国の孤剣にかかわる」

「だったら早いとこ彼女作ったのは大正解じゃん。そんな深刻な顔しなくたって、勝ち組に入れたんだからもっと喜びなよ」

「勝ち組…フェニックス、ならば余は童貞を卒業できたのか!」

「さぁそれはどうだろうね。いっぺんラブホにでも連れ込んでベッドの上で○とかしたらお前も間違いなく童貞卒業だし、あの子も処女卒業だろうね」

「むむん…だが小鳩様からむやみに女性の体に触れてはならぬと申しつかっているのだ。ゆえに私は美咲様とは健全な方向でお付き合いしていきたいと思っている」

「ふ~ん…伽楼羅も結構常識人になったんだ。いや、俺みたいなやつら束ねて第二次攘夷戦争引き起こそうとしてる奴が常識人なわけないか(笑)」

「俺はただ壊すだけだ、この腐った世界を。そして我等の手で悠久の地を取り戻すのだ」

「うん、やっぱり、女に気を取られてても伽楼羅は伽楼羅だよ。俺にとって、永遠のあこがれの存在なんだ」
「ならば俺に倣って、貴様も女性とお付き合いしてみてはどうだ」

「ハァ?何で俺が。」

「美咲様が、貴様は女にモテると仰っていたのでな。つまり貴様は私よりも子孫を残すのに適した人材なのではないか?」

「いやいや、俺が子孫残そうが残すまいが、国の孤剣とかには関係ないじゃん。」

伽楼羅「いや、次の世代で貴様ほど優秀な部下が現れるとは限らぬからな。だが、貴様が子を残せばそのフェニックスの雛はお前のように不死鳥の如き羽ばたき、必ずや我が子を護りきれることだろう。」

翔「……。ったく、だりーなあ…どいつと付き合やぁいいわけ?」

伽楼羅「そんなこと私が知るものか。決まらぬのなら一番身近なやつにすればどうだ。」

翔「身近なやつ…ねぇ。」


伽楼羅「姫、王ガルーダは只今ご帰還いたしました!」


 家の中は静まり返っていた。


伽楼羅「……ん?」

 伽楼羅は階段を上り、小鳩の部屋を静かに覗く。


伽楼羅「(寝ておられるようだ…。やはり今日は遅くまで戯れすぎたか。)


 伽楼羅は自分(鷹志)の部屋に入り、ベッドに寝そべる。


伽楼羅「(美咲様は無事城までお戻りになられただろうか…。)」

 その頃、美咲もベッドに寝そべり同じように伽楼羅のことを想っていた。


美咲「どうしてだろ、いままでこんなことなかったのに…どうしてこんなに虚無感が……伽楼羅さんに……逢いたい。」



伽楼羅「あの、小鳩様」

小鳩「はい?」

伽楼羅「いえ…なんでもありません。(いい加減美咲様のことを小鳩様にお伝えしなければならぬのだが、やはり敵国の姫君とお付き合いをさせていただいているなどと、簡単に申し上げられるものではないな。)」



 伽楼羅は電車の中で美咲を探すが、人ごみの中に埋もれてしまっていたせいか、美咲の姿を目視することはできなかった。

伽楼羅「美咲様…(だめだ、あの方のことが気になって頭が働かぬ。恋というものは人間の思考回路を停止させてしまう恐ろしい副作用があるようだ。)」



美咲「タマちゃああああああん!」


 美咲は日和子に泣きつく。


日和子「どーしたの?」

美咲「伽楼羅さんに会えなかった!」

日和子「ああ、そう。」

美咲「タマちゃん、反応薄いよ!」

日和子「だって、リンダがその人に会えないことなんていつものことじゃん。それとも、優しくされすぎてメンタル弱くなった?」

美咲「うん…昨日の夜から、伽楼羅さんのことばかり考えてたらほとんど眠れなくて、ずっと伽楼羅さんに逢いたくて逢いたくて…。タマちゃん、私おかしくなっちゃったのかな?」

日和子「リンダがおかしいのは今に始まったことじゃないけど、それもう病気のレベルじゃないかな。」

美咲「やっぱりそうだよね、恋って一種の病気っていうし。」

日和子「いや、今のリンダのそれは異常だって。リンダその人に何されたの?」

美咲「そりゃあもう耳元で愛の言葉をささやいてくれたり、一緒に歩いてるときとか肩に手置いて抱き寄せてくれたり、幸せすぎて一緒にいるだけで妊娠しちゃいそうだよ♡」

日和子「…確かにリンダがおかしくなるのも無理ないね。」

美咲「あ~伽楼羅さん…♡」

日和子「おーいリンダー?」


 日和子は美咲の目の前で手を振って意識を確かめる。


美咲「タマちゃぁ~ん、私もう死んだっていいよ~♡」

日和子「だめだこりゃ…。」

美咲「はっ!タマちゃん、私今何してたんだろ。」

日和子「ずっと自分の世界に入ってたよ。その様子だとうまくいってるみたいだね。」

美咲「うん、伽楼羅さん優しいし、私が元気なかったりしたらすごく心配してくれて、ぎゅっと抱きしめてくれるんだよ♡」

日和子「渡来先輩は、乱暴で偉そうな人だって言ってたけど。」

美咲「そんなことないよお。確かにいろいろ過激なところもあるけど、私にはすごく優しくしてくれるよ。」

日和子「ふ~ん…。」

美咲「あれ、タマちゃん、なんでそんな微妙な顔してるの?」

日和子「だってリンダらしくないもん。」

美咲「へっ?」

日和子「私、実るはずのない恋をして、それでも必死にもがき続けてるリンダの素朴な感じが好きだったのに、そんなに報われちゃったら、リンダの魅力自体がなくなっちゃうよね。」

美咲「傷ついた!」

日和子「やっぱり、リンダはずっと好きな人の背中追っかけてる方がリンダらしいよ。はっきり言って、今のリンダは人形と変わんない。ひたすら甘やかされて、ひたすら喜んで、まるで子猫みたいに遊ばれて。その伊丹さんって人だって、きっと思ってる。扱いやすい子だって。」

美咲「タマちゃんの…タマちゃんのバカ‼恋愛したことないって言ってたくせに、私に内緒で何食わぬ顔で彼氏作って…そんな卑怯者のタマちゃんに、私の気持ちなんて分かるわけないよ!」

 

 美咲は泣きながら教室を飛び出した。


日和子「リンダ!……彼氏?」

美咲「タマちゃんの鬼!悪魔!…私の気持ちを本当にわかってくれるのは、伽楼羅さんだけだもん‼」



明日香「よぉよぉパチ田さんよぉ。」

伽楼羅「ち、近寄るな汚らわしい!」

明日香「ああ大丈夫、とっとと引っ込んでうちの羽田返してくれたら殴らないから。」

伽楼羅「フンッ、誰が貴様ごときの命令など聞くものか。」


 泣きながら教室を飛び出した美咲は伽楼羅たちのいる教室を覗きにくると、伽楼羅と明日香が痴話喧嘩をしていた。

 

美咲「っ⁈」


 しかし、教室の外から見ている美咲には、その会話の内容がまったくわからなかった。


美咲「伽楼羅さん…渡来さんと何を話してるんだろ……。」

 美咲は、互いに嬉しそうに喜びを分かち合っていた鷹志と明日香の姿を思い浮かべる。


美咲「もしかして、やっぱり伽楼羅さんも……。」


 美咲の表情が更に沈んでいく。


伽楼羅「っ⁈」


 伽楼羅が美咲に気付き、美咲と目が合う。

 

美咲「っ……」


 美咲はその場から駆け出す。今にも泣きだしそうな顔をしていた。


伽楼羅「姫!」


 伽楼羅は美咲を追って教室を駆け出す。


針生「ん?」



 伽楼羅は美咲に追いつき、美咲の手をつかむ。


伽楼羅「美咲様!」

美咲「伽楼羅さん……私、なんで逃げ出しちゃったんでしょう…。」

伽楼羅「私があの女と話していたからですか?」

美咲「……。伽楼羅さんは、渡来さんのこと好きですか?」

 

 美咲は質問に質問で返す。


伽楼羅「何を仰るかと思えば…私はあの女をはらわたが煮えくり返るほど憎んでいると申したはずです。」

美咲「わかってます、わかってますけど、伽楼羅さんがあの人と話してたら、仲睦まじかった羽田先輩と渡来さんのことを思い出して…」

伽楼羅「……。」

美咲「伽楼羅さんも、私の傍からいなくなっちゃうんじゃないかって…」

伽楼羅「っ……」

美咲「伽楼羅さんは、私のことどう思ってるんですか?私は…伽楼羅さんにとって人形なんですか?」

伽楼羅「人形?」

美咲「お友達に言われちゃいました、ひたすら甘やかされて、ひたすら喜んでる私は人形と変わらない。伽楼羅さんもきっと私のこと、扱いやすい子って思ってるんだって…。」


 伽楼羅は美咲を抱きしめる。


伽楼羅「美咲様、貴女は本気で私がそのように思っているとお考えなのですか!」

美咲「それは……」

伽楼羅「私は今まで、愛する貴女に何度も何度も精いっぱいのアプローチをしてきたはずです。しかし、貴女に私の気持ちがそこまでお分かりいただけないのであれば…」

美咲「あっ…!」


 伽楼羅は美咲の体を自分に向けさせ、美咲の両肩に手を置き抑える。


美咲「あの、伽楼羅…さん?」

伽楼羅「姫、ご無礼をお許しください…。」

美咲「うっ…⁈」


 伽楼羅は美咲と口づけを交わす。


美咲「(伽楼羅さん……。)」


 しばらくしてからお互いに接触していた唇を離す。


伽楼羅「これで貴女は私だけのものであり、私は、貴女だけのものです。」

美咲「伽楼羅さん、強引すぎますよ……♡」

伽楼羅「申し訳ありません、手荒な真似をしてしまったことを深くお詫びいたします。ですが、貴女にどうしてもわかっていただきたかったのです。私が、貴女のことを心の底から愛しているということを。美咲様、貴女は人形などではない、貴女は私にとって命よりも大切なたった一人のお妃様です。」

美咲「伽楼羅さん、ごめんなさい…!」


 美咲は鳴きながら伽楼羅の胸元に抱き付き、伽楼羅も再び美咲を抱きしめる。


伽楼羅「美咲様、情けなくも私は、こうやって貴女を抱きしめる事以外で、貴女に忠義の証を示すことができません。」

美咲「私は、優しくしてくださるだけで満足です。それ以上は何も求めたりしませんから、ずっと、私の彼氏さんでいてくれませんか?」

伽楼羅「貴女がお望みなら…。」



 休憩時間、伽楼羅は屋上で大空を眺めてたそがれていた。


針生「皇后陛下には会いに行かなくていいのかい?」

伽楼羅「勿論、姫といる時間こそが私にとって唯一の安寧の時。だが敵軍の占領下で派手に動けば官憲にとらわれ、生き地獄へと放り込まれると、フェニックスから言われてもいる。」

針生「そうかい、昨日その鶏から電話があったが、また面白いことが起こるんだってな?『大いなる聖戦』それが何なのか俺に教えてくれよ。」

伽楼羅「私にもわからぬ。」

針生「あ?」

伽楼羅「ただ、そのような気がするだけだ。」

針生「アバウトだねぇ…でもアンタが言うと妙に説得力あるな。予感ってやつかい。」

伽楼羅「私の持つ世界の眼は既にこの世界にうごめく闇を捕らえている。それにこの今にも泣きだしそうな不穏な空は…」

針生「快晴そのものだがな。」

伽楼羅「私は、あの方が飛び立っていったあの空を、忘れない。」



 放課後、伽楼羅は校門の前で待ち構えている女生徒を無視して素通りしようとする。


明日香「無視すんな!」

伽楼羅「黙れ、二度と俺に話かけるな、貴様のせいで姫にいらぬ心配をかけたわ!ホークを出せと言うなら断るぞ。奴はもはや日の目を見ることは絶対にないと言ったはずだ。」

明日香「アンタが沈めば出てくるんでしょ?私としてもいつまでもNTRっぱなしじゃ性に合わないし。」

伽楼羅「誰が沈んでたまるか、余が玉座を制している以上他の者に取って代わられることはありえん。もはや弟たちは死したも同然だ。」

明日香「じゃあ沈めてやろうか?」

伽楼羅「自分の意思にそぐわぬことがあれば誰であろうと手を挙げるのか?どこまでも気の小さい粗暴な女め。」

明日香「うっさい!」


 明日香は伽楼羅に殴りかかるが、伽楼羅は明日香の鉄拳を軽々と受け止める。


明日香「なっ⁈」

伽楼羅「2人の姫の存在によって精神を安定させられたことで、俺の力は完全に蘇った。この前のようにいくと思うな。」

明日香「このーッ‼」


 明日香は伽楼羅に拳を振り続けたが、ことごとく伽楼羅にかわされ続けた。


伽楼羅「どうしたエセプリンセス、拳が止まって見えるぞ。この前までの威勢はどこにいった。」

明日香「はぁ…はぁ……。」

伽楼羅「貴様ごときの拳など何の恐れもないが、この体が貴様の愛するホークのものであったことも忘れるな。この体に免じて今回だけは見逃してやる、だがこれ以上俺に干渉することは許さん。とっとと失せるがいい。」

明日香「…くそっ‼」


 明日香は涙を流しながらコンクリートを殴る。



伽楼羅「さて、これからどうしたものか。美咲様にお会いしていれば2人で愛の時間を過ごさせていただくところなのだが、何の因果か俺がさっき校門の前で会ったのは負け組のエセプリンセス。これでは安定していた精神もいつか再び崩れ去ってしまう。どこかで気分を取り戻さなければならぬ。そうだ、あの場所に行けば…」



 伽楼羅は翔や鷲介のことを思い出し、鷲介に成りすましてアレキサンダー花水木店に立ち寄る。

鷲介「マスター、この燃えるゴミ、邪魔なんで外に片づけときますね。」

狩男「萌えるゴミだと?何を言っている、萌える物は全てが宝だ。まったく、最近の若い者は贅沢になったものだ。俺の若いころは河原に落ちてるエロ本であろうと、大切に持ち帰って、日々濡れてるページを1枚1枚やぶれないよう気を付けて…」

鷲介「マスター、それ意味あるんですか?仮にも有名喫茶店の支店店長を務めるアンタが、そんなみみっちぃことしてちゃ面目丸つぶれですよ。欲しいなら買えばいいじゃないですか。」

狩男「買うだと⁈いや、おまえの言うことももっともだ鷲介。誰かが読み終えたものを読むなど、どうやら俺は萌えコレクター略してモエコレとしての誇り高きプライドをどこかに忘れていってしまったようだ。」

鷲介「いや、意味わかんないっす。」

狩男「ん?どうした鷲介、今日は少しノリが悪いな。いつもは俺の甘いトークにこれでもかというぐらい食いついてくるというのに。おまえらしくないじゃないか鷲介。」

鷲介「別にー、いつもの千歳鷲介ですけど。つうか俺らしいってなんすか、アンタが俺の何を知ってるんですか?」

狩男「…お前ほんとに鷲介か?それとも機嫌が悪いだけなのか?」

鷲介「だから普通だって言ってますよね。別に機嫌が悪いわけでもないですよ。」

狩男「そ、そうか…逆に翔は今日やけに機嫌が良さそうだな。」

翔「別に、いつもの俺だけど?」


 翔は満面の笑みで答える。


狩男「鷲介が来てから一分たりとも笑みを崩さないじゃないか。んっ…おまえらまさか、コレか?」

 

 狩男が親指を上げる。


翔「やだなぁマスター、そんなわけないよ。」
英里子「そうそう、千歳はともかく翔がホモなわけないじゃん。ねー翔♪」
翔「うんうん、ひのえりわかってんじゃん。」
英里子「あれ、翔、今日はウザそうに声がでかいとかで罵倒してれないの?」
翔「アハハハ、何言ってんの、俺そんなキチキャラだっけ?」
英里子「いや、そういうわけじゃないんだけど…ほー君、今日はなんか爽やかすぎないかなぁって。逆に千歳は翔みたいでクールキャラになってんじゃん。」
狩男「確かに、今日の二人は誰がどう見ても違和感しかないな。」
英里子「まるで中身入れ替わったみたい。」
狩男「おっ……」


 狩男のケータイが鳴る。


狩男「はいもしもし、アレキサンダー花水木店です。……本当ですか⁈わかりました、すぐそっちに向かわせていただきます‼」
英里子「どしたん店長。」
狩男「2人とも、悪いがこの場は任せた。」
英里子「えっ?」
狩男「ふっふっふっ、どうやら柳木原に新しくできた新校の女子ブレザーが手に入ったそうなのだよ。なぁに安心したまえ、すぐに受け取って戻ってくる‼」

 

 狩男ははしゃぎながらアレキサンダーから駆け出して行った。


英里子「あちゃー、ありゃ当分戻らないね。あたしちょっとシフト入るから、千歳あとよろしくー。」


 英里子もその場を去る。


伽楼羅「ふん、やっと騒々しい連中がいなくなったか。」
翔「どお伽楼羅、これがバイトってやつだよ。」
伽楼羅「なかなか面白いものだな、長く続けるほどではないが。」
翔「伽楼羅は王だもん、そりゃバイトなんて合うわけないよ。」
伽楼羅「人の上に立つものとして、下のものの気持ちも味わってみようと思ったのだが、時間の無駄だったようだ。」
翔「そのようだね。俺ちょっと外でタバコ吸ってくるわ。」


 翔も一時席を外す。


伽楼羅「ん?」


 伽楼羅は自分の下を見て何かを感じ、便所のほうへ首を傾ける。


伽楼羅「自然が呼んでいる。」


 伽楼羅は便所の中へ姿を消した。
 そこへ2人の招かれざる客が訪れる。


咲夜「あるエエェ~?あ・あ・あ、あ~んれれれれれれぇェ?」
美咲「どしたの佐久間君。タマちゃんいた?」
咲夜「いいいい゛~ンや!タマチャンは見つからねーんだけどさぁ……なあ~んか今、俺のリスペクトばりばりんぐなアニキ的存在が、この店にいる気ィしちゃってぇ……。」


 咲夜は店の中を見渡す。


咲夜「ううううぅぅ~ん、やっぱりアニキだった気がすんだよなぁ!悪りィ、リンダ×2!俺様チャン、ちょっと店ン中探しまわってくるJ!一番安いコーヒーよろしQ!」
美咲「あ、うん……いってらっしゃい。」


 美咲はコートを椅子に掛ける。


美咲「一人になっちゃった……今日はタマちゃんいないのかな。」
?「おねーえ!ちゃんっ!」
美咲「へっ?」
少年「おねえちゃんしましまだね!」

美咲「………へっ?」


 ジャー 用を足した伽楼羅が便所の扉をあけて出てくる。


少年「おねえちゃんしましまだね!おねえちゃんしましまだね!」

伽楼羅「ん?この感じは……」


 伽楼羅は美咲の気配を感じ取り、顔を傾けると…

伽楼羅「なっ……?!」
美咲「ええええええっ?!」

伽楼羅「(み、美咲様!!)」

 その時伽楼羅の頭の中にそれとよく似た光景が映り込み、伽楼羅の脳内を交差する。


少年「おねえちゃんしましまだね!おねえちゃんしましまだね!」

美咲「ひやあああっ!えええっ!?だめーっ!

だだっ、だめっ、やあめてえーっ!」

伽楼羅「グルオオオ゛オオオオオオオオオ゛゛オオオグルァアアアアアアアアアアアアーーーー!!!」

母親「真聡!二度とそんなことしないって約束したでしょう!」

真聡「だってこのおねえちゃんのしましまは、いつか見るって決めてたんだもん!」

伽楼羅「貴様ああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛゛アアアアアア!!!」


 伽楼羅は目にもとまらぬ速さで少年を美咲から振りほどき胸ぐらを力いっぱいつかみ挙げる。


真聡「ぎにゃああああーっ!!」

母親「ま、真聡⁈」

伽楼羅「貴様アアアッ!!いったい何をしたかわかっているのか!お、俺の命よりも大切な方を…貴様は、貴様はアアアアアア!!」

美咲「ううっ、うううぅ……。」


 伽楼羅は目を受血させて少年の首を握りしめる。


伽楼羅「殺してやる…殺してやる!!」

母親「ほ、本当にすみません、充分に言って聞かせますので……!!」

伽楼羅「貴様がこのゴミクズの母親か!こいつには弟がいるはずだな、そいつも今すぐここへつれて来い!こいつとともになぶり殺しにしてやる!!」

母親「そ、そんな!」

伽楼羅「早くしろ!出来ないなら貴様もこのクソガキ同様地獄送りにしてやる!いや、そうでなくとも今この場で親子そろって殺してくれるわ!!」

母親「お、お願いします!どうか、息子の命だけは……」

美咲「ううぅ…かる…伽楼羅さん…」

伽楼羅「貴様、何か言い残すことはないか?」

真聡「しましま…パン…ツ…。」


 少年はかすれ声で答える。


伽楼羅「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

美咲「もう止めてください伽楼羅さん!!」


 美咲の泣きながらの制止も間に合わず、少年は更に強く首を締めあげられ投げ飛ばされる。


母親「真聡!!」


 そこへ翔が駆けつけ、伽楼羅に投げ飛ばされた少年をキャッチする。

 伽楼羅は気が付くと、少年の首をつかんでいた手を美咲に両手で軽く握られていた。


伽楼羅「はぁ…はぁ!…美咲…美咲様?!」

美咲「伽楼羅さん、もういいですよ…」

伽楼羅「美咲様、貴女はお下がりください。今の私は、怒りに身を任せて理性をコントロールできません。少しでも私の理性が残っている間に、早く私から離れてください!やつは…こいつらは俺が!」

美咲「これ以上やったら本当に死んじゃいますよ!!」


 美咲は伽楼羅に抱き付く。


伽楼羅「グッ…?!」

美咲「お願いだから…元の伽楼羅さんに…元の優しい伽楼羅さんに戻ってください!!」


 美咲が伽楼羅の胸の中で泣き叫ぶ。


伽楼羅「み…美咲様……。」


 翔が少年を無造作に床へ放る。


翔「伽楼羅、俺の言葉を覚えてるか?分かってると思うけど、ここは敵軍の占領下…この国じゃ、ガキ一人殺しただけでも重罪になるんだよ。」

伽楼羅「フェニックス…。」

翔「その子もそういってることだし、今日はこれで勘弁してやったら?」

伽楼羅「クッ……!」


 伽楼羅は握りこぶしをほどき、再び母親を睨みつける。


咲夜「あは~ん、やっぱりアニキ居なかっちん!俺様チャンのシックスセンスも錆びついてきたかなぁ。あるェ?リンダ×2どしたん、犯されたみたいな顔しちゃって。」

美咲「うっ、うううっ……。」

咲夜「ん?てか、そこのアンタ……アアアア!アニキ!!」

伽楼羅「行きましょう、美咲様…。」

咲夜「やっぱ俺様チャンのシックスセンスは錆びついてなかった!ああちょちょアニキ!無視すんなって!」

伽楼羅「っ……」


 伽楼羅は咲夜を睨みつける。


咲夜「げっ……」

伽楼羅「…消えろ。」


 伽楼羅は美咲を抱き寄せアレキサンダーを去っていった。


咲夜「ってあっ、あれ?うオオオオイ、アニキと一緒にどこ行くんだよリンダリンダぁ!タマチャンの仕事場を冷かして遊ぼうJプロジェクトはどうなっちまうんだよォ!うオオオォォーーィ!」

母親「真聡‼」


 母親が少年の元へ駆け寄る。


翔「喉元完全にやられてる。そいつもうたぶん一生喋れねぇよ。」

母親「そ、そんな‼」

翔「その程度で見逃してもらえたと思ってんじゃねぇだろうな?そいつはこの世で最も触れてはならない者に触れた。その代償は死より重い。すぐに死にたくなかったら二度とこの店へ来るな、二度とあの子に関わるな。あいつに、伽楼羅にロックオンされた以上、お前らの命長くねぇぞ。」


 翔は咲夜の方へ顔を傾ける。


翔「おいおまえ、烏んとこの信者だろ。代わりに店番頼むわ。」

咲夜「はぁ?んなななんで俺様チャンが⁈」

翔「やるよな?」


 咲夜は翔に睨みつけられる。


咲夜「は、はい…。」


 咲夜は俄然裏声で答える。

 翔は伽楼羅の後を追いアレキサンダーを出ていく。



美咲「伽楼羅さん…見ました?」

伽楼羅「っ?」

美咲「見えました…よね…。あの…その…」

伽楼羅「っ?!……はい。」

美咲「……ううぅうぅ…見られちゃった…。」

伽楼羅「……」


 伽楼羅は美咲から体ごと手を離す。


美咲「あっ…」

伽楼羅「申し訳ありません…貴女を救い出すためとはいえ、私は見てはいけないものを見てしまったのですね…。」

美咲「ああ、あの…」

伽楼羅「近寄らないでください!もはや私に…貴女を愛する資格など…」

美咲「違うんです…そういう意味じゃありません!」

伽楼羅「っ?」

美咲「確かに、私、貴方にだけは絶対に見られたくありませんでした。でもそれは…誰よりも大好きな人に、嫌われたくないからなんです。」

伽楼羅「えっ……」

美咲「あんな恥ずかしいものを見られたら、だらしのない子だって、きっと敬遠されてしまいます…。伽楼羅さんならなおさらです。伽楼羅さんは私に高貴なイメージを持って付き合ってくださってるのに…あんなものを見られて…私は、伽楼羅さんの純真な心を裏切ってしまいました。私のほうこそ、貴方の彼女さんになんて相応しくありません!」


 美咲の涙は留まることを知らない。

 美咲は伽楼羅に背を向け逃げ出すようにその場から駆け出す。


伽楼羅「美咲様!!」


 伽楼羅は美咲の後を追う。



 伽楼羅は美咲に追いつき、後ろから美咲に抱き付く。


伽楼羅「美咲様…」

美咲「放してください…。どうして…どうして一人にさせてくれないんですか…。」

伽楼羅「美咲様、貴女は元々ホークのことを好いておられた。しかし、私が玉座を掌握したことでホークは帰らぬ存在となってしまった。私は貴女に憎まれて当然の存在なのです。だが…貴女はそんな私を認めてくださった上、生涯誰からも愛されなかった私を唯一愛してくださった。ならば私も、例え貴女がどうなろうとも、貴女のことを永遠に愛し続けます!生まれる前からずっと、愛していたのですから…」

美咲「伽楼羅さん……私は、私はどうすればいいんですか…。」

伽楼羅「言ったはずです、もはや貴女は私だけのものだと。他の誰にも渡しません。例え貴女のご命令であろうとも、従えません。貴女にどんなに憎まれようと構わない、貴女が私から離れようと仰るのなら、私は死んでも絶対にこの手を離さない!」

美咲「私、初めて自分が魔性の女だって思います。伽楼羅さんみたいな純粋な人を、こんなになるまでたぶらかして…こんな悪い子いませんよ!」


 美咲は再び伽楼羅の胸に抱き付く。伽楼羅も美咲を更に強く抱きしめる。


伽楼羅「美咲様、貴女らしくもないことを仰らないでください。私は知っています、貴女が自己防衛心の強い方だということを。」

美咲「……。」

伽楼羅「貴女は私の妃になられる方。ゆえに姫であろうと主人である私の命令に逆らうことなど許しません。これは私からの最初の命令です。自分を責めるような発言はお止めください。」

美咲「命令なのに、敬語なんですね。」

伽楼羅「妃に厳しく徹しきれない私のほうこそ、主としてまだまだ半人前ということです。」

美咲「ふふっ、伽楼羅さんってかわいいですね。」

伽楼羅「お戯れを…貴女の愛らしさには遠く及びませんよ。」

美咲「わかりました、これからは少しでも貴方のお妃さまになる者としての自覚をもって、貴方のご命令に従います。死んでも愛してますよ、伊丹伽楼羅さま…♡」

伽楼羅「二度と貴女を一人でなど逝かせません。ならば今度こそ…死ぬときは一緒です。林田美咲様。」

翔「伽楼羅、お取込み中のとこ悪いんだけど。」

伽楼羅&美咲「へっ?」

美咲「おお、鳳さん、いつからそこに⁈」

翔「えっと…キミが伽楼羅に抱き付いたあたりかな。」

美咲「ううぅ…はじゅかしい…。」

伽楼羅「フェニックス、私と姫の時間に水を差したということは、よほどの事なのであろうな?」

翔「まぁね、周りを見てごらんよ。」

伽楼羅「ん?」


 伽楼羅が後ろへ振り向くと白服の男たちが立っていた。


伽楼羅「なっ⁈」

翔「俺たち、囲まれちゃってるよ。」

美咲「か、伽楼羅さん、なんですかこの人たちは…また誰かのお友達ですか?」

伽楼羅「少なくとも弟たちの友人ではありませんな。」

翔「伽楼羅、おまえ何か知ってるんじゃない?」

伽楼羅「白服…白……白い翼…」

伽楼羅「翼人兵⁈」

白服A「目標を撃滅する。」


 白服Aが伽楼羅たちに銃を向ける。


白服B「待て000753号、奴の後ろを見てみろ。」

白服A「ん?あの緑色の美しき髪の少女は……まさかプリンセス・リンダ⁈」

美咲「えっ。」

伽楼羅「(やはり…!)」

白服B「早く銃を降ろせ、姫に対して銃口を向けたと皇帝に知られれば即死刑だぞ。」

白服A「そ、それはまずい…!」


 白服Aは銃を懐に戻す。


白服A「即時撤退だ!」


 白服たちがその場から去っていく。


翔「なんだったのアイツら。」

美咲「プリンセス・リンダ…あの人たち私のこと知ってるみたいでしたね。」

伽楼羅「(まさか…昨日から感じていた不穏な気配はやはり。)」

?「翼人兵…遂に動くか、『森羅万象の二枚羽』が。」