9月17日14:00より職務発明セミナーを実施します。

http://www.kinyu.co.jp/cgi/seminar/261755.html

現行特許法35条は職務発明について規定しており、3項において従業員等に対して相当対価請求権を認めています。これは大正10年法以来の規律であり、平成16年改正前の特許法(以下「旧法」)にも同様の規定があります。
この職務発明についての旧法の規律(以下、その司法解釈及び企業の職務発明規定等を含め、「職務発明制度」という)は、オリンパス最高裁判決において企業の職務発明規定に基づく支払額が「相当の対価」に満たない場合、不足額の請求が可能であると判示されたことにより脚光を浴びることとなり、その後、不足額請求を認容する下級審裁判例が多数現れたことから社会的関心を集めるようになりました。
このような裁判例の流れに対し、産業界から批判がなされ、これを受けて、旧法35条は改正されて、相当対価の決定手続を重視する現行法に至っています。
しかし、現行法35条の示す基準は抽象的であり、どのようなプロセスを経た場合に相当対価の決定手続が合理的といえるのか判然としません。この点、特許庁がガイドラインを公表していますが、未だ抽象的であることは否めません。また、既存の職務発明規定の変更についてのあるべき手続も不明確です。そのため、現在、特許法35条の更なる改正が議論されています。
本セミナーにおいては、就業規則の変更法理及び労働協約による労働条件の不利益変更を巡る議論なども参照し、かつ、改正動向も踏まえ、「相当の対価」の算定方式、職務発明規定の変更手続及び相当対価の算定手続等について可能な限り具体的考察を行います。なお、拙著「職務発明規定変更及び相当対価算定の法律実務」をテキストに用いますが、本では書けなかったのノウハウも公開します。
是非、この機会に多数ご参加くださいますよう、ご案内申し上げます。

1.現行特許法35条の内容及び制定経緯
2.改正動向
3.制度設計の基本的視点
4. 「相当の対価」の算定方式 ~ 実績補償方式 vs 出願時一括払い方式
5.対価額の算定手続
6.職務発明規定の変更手続
7.退職者・出向者の取扱い等特別な問題
~質疑応答~
職務発明の改正動向(3)
4 第8回小委員会の内容
4-1 各紙の報道もあり、職務発明の話題が意外にもホット・イシューとなった。そこで、記憶を喚起しつつ、第8回小委員会の内容をより詳細に振り返ってみたい。

4-2 追加的論点提示
衆目を集めた事務局発言の後、配付資料1「職務発明制度の見直しに係る具体的な制度案の検討上の論点」に沿った説明が事務局よりなされた。
その概要は以下のとおり
ア 第7回の小委員会の審議結果を受け、具体的な制度案を検討したが、新たな論点が浮上したため、今回は、具体的制度案の提案はせず、新たな論点についての審議を要望する。
イ 新たな論点は以下の4点。
論点①:法人原始帰属とし、かつ、法定対価請求権を撤廃する場合、従業員等に対し、法定対価と同等の権利を保障することが必要か。仮に(すべての場合であれ、一定の場合であれ)法定対価請求権を撤廃することとするならば、特許法において長きにわたって認められてきた権利(財産権)の撤廃を正当化しうるだけの立法の必要性と合理性とは何か、を明らかにする必要があるのではないか。
論点②:法定対価請求権を撤廃した場合、対価の取り決めに関し、民法の一般条項により規制されることになることの結果として予見可能性がより低下するか否か、
論点③:発明者の保護について一定の規制を及ぼすことが不要か。。論点④:「一定の場合」については別の制度を設けることとした場合、2つの異なる仕組みが併存することにより、実務に混乱や困難を招くおそれがあるか否か。
本来であれば、これら4点に沿って審議が展開するはずであるが、実際には、連合委員から、論点④について、この論点をクリアするために、一律に法人帰属にするという趣旨か否か等についての確認がなされ、事務局はこれを明快に否定。つまり、事務局発言が虚偽でない限り、「政府の方針が一律法人帰属で固まっている」ものではないことになる。

4-3 産業界の意見
 この配付資料1は、会議の前に委員には配布されていたようだ。この追加的な論点提示を受けて、産業界は、配付資料4を提出していた。
その概要は以下のとおり。
ア (一律に)法人原始帰属を採用。
イ (法定対価請求権を撤廃し)使用者等は、一定の手続きを経て策定した契約、勤務規則等に基づき発明者に報奨する旨を法定。
これにより、論点①ないし③は解消され、また、論点④については、「一定の場合」については別の制度を設けることには反対とのことだった。
このイの内容は若干分かりにくく、各方面からの質疑応答がなされた。産業界委員らの発言を総合すると、発明者の報奨請求権は肯定であるが、その法的性質については、法定のものか、契約、勤務規則等に基づくものかは詰めきれていないということらしい。
また、司法審査に関しては、手続きの合理性については司法審査の対象とするが、明確性を高めるため、ガイドラインの作成が必要であり、内容の合理性については司法審査の対象外とするということと理解できた。

4-4 労働法学者の意見
労働法学者は二人おり、意見が必ずしも一致しているものではない。
ある委員は、論点①に関し、帰属が変わっても、労働者の金銭支払請求権に関し、現行法からの切り下げ認められないことを強調していた。また、論点④に関しては、企業と大学の相違に着眼しつつ、これは優先順位の問題であり(2つの仕組みを併存させることの必要性と複雑性という弊害とのバランスと思われる)、十分な議論が必要との指摘がなされた。
他方の委員は、内容の合理性に関する司法審査は必要との立場を一貫して示されていた。
4-5 民法学者の意見
論点②に関して、悪質なケースについては、不法行為・不当利得が認められると思われるが、何を以て「損害」・「利得」と考えるのか難しいとの指摘があり、民法に投げないで欲しいとのコメントがあった。
また、論点①については、法定対価と同等の権利を保障することが必要との立場と理解できた。

4-6 知財法学者の意見
知財法学者からは、論点①に関して、(ア)全ての知的創作物について権利が認められるものではない、(イ)法定の対価請求権を撤廃しても、既に発生した具体的権利を消滅させるものではなく、これからなされる発明については、産業政策上有効か否かという観点から議論すれば良い等の意見が表明された。(イ)は、改正に遡及効がないことを前提としていると思われる。

3 法人原始帰属を前提として、改正案を検討してみる。
まずA案。
現行1項は「使用者等は、職務発明について特許を受ける権利を有する」旨に変更。
現行2項は削除\。
現行3項は、「従業者等は職務発明について相当の報奨を受ける権利を有する」旨を規定。
現行4項は、「対価」を「報奨」に変更し(以下同じ)、「等」を削除し、末尾に「本項に定める協議において、過半数jの従業員等からの明示の反対jの意思表示がない限り、基準の策定は合理的になされたものとみなす」を追加。
現行5項は、「使用者等が受けるべき利益」を、「発明の技術的価値、発明者の特段の努力の有無・内容」に変更。

まとめると、以下のとおり。

1項:使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について、特許を受ける権利を有する。
2項:従業者等は、職務発明を完成したときは、相当の報奨の支払を受ける権利を有する。
3項:契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の報奨について定める場合には、その内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより報奨を与えることが不合理と認められるものであつてはならない。本項に定める協議において、過半数jの従業員等からの明示の反対jの意思表示がない限り、基準の策定は合理的になされたものとみなすものとする。
4項:前項の報奨についての定めがない場合又はその定めたところにより報奨を与えることが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の報奨の内容は、その発明の技術的価値、発明者の特段の努力の有無及び内容、その発明に関連して使用者等が行う負担及び貢献並びに従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

この建付けの場合、相当報奨請求権が法定のものとなるから、産業界からは不満があるだろう。しかし、勤務規則等の制定を文字通り義務付けて、相当報奨請求権とを勤務規則等に基づく権利と構成することは迂遠であるし、今のところ、有意義とも思えない。また、「相当」という形容詞を付加することにも抵抗があるかもしれないが、「十分な」インセンティブ制度を法的Jに担保することを前提とするならば、やむを得ないと考える。