第一章、はいります。
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この時期特有の、優しい花の香りがする。それは外だけでなく、職員室の中も同じだった。この時期が来るたびに、不思議な気分に凛子はなる。もう一年が巡ったんだな、と昨年度の思いが頭をよぎると共に、新しい一年が始まるというなんだか明るい気持ち、と言ったらいいのだろうか。ついこの間まで纏っていた鋭い、冷たい空気など嘘のようだ。
「また新しい一年が始まるんやなあ」
隣で、名簿に目を通していた志賀がぽつりと呟く。そうですね……と凛子はそれとなく同意する。昔、勉強漬けだった頃の凛子とはまるっきり違う年の流れを感じていた。昔の凛子は、気が遠くなるほど長い365日を過ごしていたが、今では、手を伸ばしても掴めないほど早く手の内をすり抜けていく一年だ。一日一日が惜しくて堪らない。平凡ではない毎日は、これほど時の流れを早く感じさせるのだろうか。
「今年は、ほかの学年よりも遥かに激動の一年になるはずですよ。だって、3年生ですから」
「そうですなぁ……。今日から、始まるんですな。激動の一年、ってやつが」
「ええ。長いようで短い一年がまた、ね」
『新しい一年が始まる』要は今日は入学式なのだ。生徒も続々と、満開の桜の下、校門をくぐってきている。大きな制服を着て、不安を隠しきれない表情で歩く生徒もいれば、明らかにスカートを上げまくって登校する生徒に髪の毛が少々明るくなったんじゃないだろうかと思われる生徒までわそれはもうらわらと。職員室の窓に張り付いて唸る小野田の声が止まらない。あの野郎確実に染めただろう、とかあいつ課題全部やってきただろうな、とか。生徒指導主事の宿命、学年一斉生活指導の時期が来そうである。
「大型の休みの後は大体あんな感じになりますねえ。窓に張り付く小野田先生」
「しょうがないわよね。だって生徒指導だもん。頑張れ小野田先生ー」
「棒読みで言わないでください棒読みで!!ほら志賀先生もそんな人ごとのように名簿にかじりついてないで!ああくそ、もうすぐ時間じゃねえかッ」
凛子は時計に目をやる。今日の予定表に示された時間、入学式移動の時間にもうすぐなりそうだ。井上と井島は姿が見えない。もう生徒を体育館に誘導しに行っているようだ。
「ほら小野田先生、行きますよーッ」
と、志賀に引きずられながら凛子達は3年生の教室がある廊下へと向かった。