最近議論や批判される事が多い“直美“問題

今回は形成外科専門医と美容外科専門医の資格を持つ立場から、医師のキャリア論のような話を少ししてみたいと思います。

 


 

私は形成外科を経て美容外科に転職しましたが、もともと最初から美容外科を志していたわけではありませんでした。

 

研修医の頃から美容外科という働き方の存在は知っており、「形成外科のキャリアの延長線上に美容という選択肢もある」と先輩から聞いていました。そのため、将来的な選択肢を残すという意味で、専門として形成外科を選びました。

後期研修を終え、手術の独り立ちが進み、自ら術式や方針を組み立てるようになった頃、形成外科の教科書だけでは最適解に辿り着けない場面に直面しました。そうしたときに美容外科の文献を参照する中で、同じ“形を扱う外科”であっても、発想やアプローチが異なることに気づきました。

その違いは非常に興味深く、「より良い結果を出すためにどう考えるか」という観点で、形成外科的技術と美容外科の柔軟性を組み合わせる“ハイブリッドな手術思考”に強く惹かれるようになりました。いわば、手術オタクとして技術を突き詰めていく過程で、美容外科に辿り着いたという感覚です。

したがって、私の場合はスタートが「根っからの美容好き」だったのではなく、「手術を突き詰めた結果として美容に関心を持った」という流れでした。

 

そのため、美容に転向した当初は、上司から「美的センスが弱い」と指摘されることもありました。
「自分は形成外科専門医だ」という、どこか天狗になっていた自信はそこで打ち砕かれ、悔しさを感じると同時に、形成外科時代には十分に意識してこなかった感性や発想をさらに磨く必要性を痛感しました。

 

しかし、そこから学習と経験を積み重ね、美容外科専門医を取得し、現在では患者さんから一定の信頼をいただき、手術のご依頼や継続的に通ってくださる方も増えてきています。

競争の激しい業界の中で、今も前線で診療に携わることができているのは、本当にありがたいことだと感じています。

 

 


 

ここで最近感じるのは、いわゆる“直美”の先生方についてです。

初期臨床研修を終えてすぐに美容の道に進むケースは増えていますが、果たして2年間で本当に自分の適性を見極められているのでしょうか。少なくとも私は、自分が手術に適性があると自覚するまでに、形成外科専門医を取得する程度の時間を要しました。

そのため、進路に迷う若手の先生には、「まずは形成外科で外科的基礎を身につけてからでも遅くない」と伝えると思います。

実際、形成外科に所属していれば、美容医療に関わる医師との接点は少なくありませんし、領域としても一定の重なりがあります。

もちろん、所属しているだけで無条件で美容診療を任せてもらえるほど甘くはありませんが、形成外科医としてのバックグラウンドは、人脈形成や手術見学の機会において有利に働く場面が多いのも事実です。

そうした環境で経験を積みながら、自分が本当にその領域に進みたいのかを見極める。その上で美容に進むという選択は、決して遅くありません。

 

私は初期研修の頃、先輩から「長い医者人生なんだから、自分の好きなことを仕事にした方がいい」と言われたことがあります。

この言葉は今でも強く印象に残っています。

待遇や条件ももちろん重要ですが、医師という仕事は専門を決めた後も膨大な勉強を続けていく職業です。

興味の持てない分野を選んでしまえば、その積み重ね自体が苦痛になりかねません。

 

だからこそ、自分が本当に興味を持てる分野なのか、長く向き合えるのかを見極めるプロセスは非常に重要だと思います。

その見極めを省略するには、医師という仕事はあまりにも長く、重いものです。

 


 

一方で、美容外科は実力主義の側面が強く、基礎から丁寧に育ててもらえるほど甘い世界ではありません。

たとえ就職先のクリニックが教育体制を掲げていたとしても、多くの場合はその施設で扱う診療内容の範囲に限定されます。

一施設で美容外科全領域を網羅的に学ぶことは難しく、保険診療のように標準化された後期研修ルートも存在しないため、強いセルフマネジメントが求められます。

上司や外部医師との関係構築を主体的に行えなければ、直美に進んだ数年後に「何もできない状態」に陥るリスクもあります。

実際に、手術に関わる機会を得られず、オペレーターとしての道を断念するケースも毎年一定数存在します。

初期研修後すぐに美容に進み、思い描いたポジションに到達できなかった場合、その環境に長く身を置き続けられるかは慎重に考える必要があります。

 


 

今後、いわゆる“直美”に対する社会的な風当たりは、さらに強まっていく可能性があります。一方で、美容医療業界内の競争は激化しており、緩やかになることは考えにくいのが現状です。

その中で、外科的基礎を持たずに参入するのか、それとも形成外科としてのバックボーンを持った上で美容に関わるのか。

どちらが長期的に見て、社会的信用やプレイヤーとしての生存率を高めるかは明らかだと思います。

それは最終的に、自分自身の医師としてのキャリアの満足度にも直結します。

私は、若い先生ほど一度は形成外科で基礎を身につけ、自身の適性を見極めた上で進路を選択することが、最も合理的な選択だと考えています。実際に経験してきた上での私の実感です。