美容医療のSNSを見ていて、こんなことを思ったことはありませんか?

 

「炎上覚悟で言います」

「美容外科の闇を暴露します」

「○○は時代遅れです」

「○○なんてやる意味がありません」

「◯万円で脂肪吸引やりたい人いますか?」

XやThreadsを開くと、似たようなフレーズが次々と流れてきます。

 

あるいは、

「この術式は古い」

「この術式こそ最強」

「この先生は分かっていない」

など、美容外科医同士がいつも喧嘩しているように見えることもあります。

 

プロフィールを見れば、

「全国から指名殺到」

「〇〇症例数No.1」

「糸リフトの帝王」

「埋没の神」

など、強そうな肩書きが並びます。

いや、どれだけ神や帝王がおるねん、と突っ込みたくなることもありますチュー

 

 

美容外科医という仕事柄、私も日常的に多くの美容SNSに目を通します。

そして最近思うのです。

これは美容医療の話というより、人間心理の話なのではないか、と。

なぜ似たような投稿ばかりになるのか。

なぜ断定的な発言が増えるのか。

なぜ対立構造ばかりが目立つのか。

そこにはSNSの仕組みだけではなく、人間の脳そのものの性質が関係しています。

 

 

なぜ断定は魅力的に見えるのか

例えば人は、自信満々に話す人を信頼しやすい傾向があります。

実際に正しいかどうかではなく、

「この人は詳しそう」

「自信がありそう」

という印象に引っ張られてしまう。

心理学では「確信バイアス」や「権威性ヒューリスティック」などと呼ばれる現象です。

本来、医療はそんなに単純なものではありません。

「症例によります」

「適応によります」

「一概には言えません」

という回答の方が正確な場面は少なくありません。

 

しかしSNSでは、そうした説明はあまり歓迎されません。

複雑な話より、分かりやすい話の方が伝わるからです。

「○○はやめろ」

「○○一択」

の方が理解しやすく、記憶にも残りやすい。

だから断定的な発言ほど広がりやすくなります。

 

 

なぜ人は悪い話に惹かれるのか

さらに、人は良い情報より悪い情報に強く反応します。

心理学ではネガティビティバイアスと呼ばれる現象です。

例えば、

「良いクリニックの選び方」

よりも、

「絶対に行ってはいけないクリニック」

の方が気になる。

「おすすめの治療法」

よりも、

「失敗する治療法」

の方がクリックしたくなる。

人間の脳は昔から危険情報を優先的に処理するようにできています。

 

だからSNSには暴露、告発、内部事情、業界の闇といった話題が集まりやすい。

さらに行動経済学では、人は得をする喜びより損をする恐怖を強く感じることが知られています。

「この治療で綺麗になります」

よりも、

「その治療を受けると失敗します」

の方が強く刺さる。

安心より不安の方が拡散しやすいのです。

 

なぜ人気者はさらに人気になるのか

そしてもう一つ。

「全国から指名殺到」

「症例数○万件」

「予約半年待ち」

といった表現もよく見かけます。

人は、

「多くの人が選んでいる」

という情報を見ると、

「きっと良いものなんだろう」

と感じやすくなります。

これは社会的証明と呼ばれる心理です。

行列のできるラーメン屋を見て、つい気になってしまうのと同じです。

 

もちろん、本当に人気のある先生もたくさんいます。

ただ、本来は

フォロワー数・発信力・マーケティング能力

 

と、

 

純粋な手術技術は別々の能力です。

 

しかし人間は、それらを無意識に一つの評価としてまとめてしまいます。

有名だから手術も上手い先生に違いないと思ってしまう現象です。

 

美容SNSはなぜ似てくるのか

こうして見ると、美容SNSで目立つ投稿には一定の共通点があります。

断定。

対立。

不安。

権威。

人気。

人間が反応しやすい要素です。

これは美容に限らず、広く政治の演説や、企業の広告や、マーケティングや自己啓発、各種セミナーなどで人間心理が巧みに利用されている場面は無数にあります。

 

そして、それらは数字になりやすい。

数字になる投稿は真似される。

真似される投稿はさらに増える。

すると発信者が違っても、使う言葉や構図は少しずつ似ていきます。

「炎上覚悟で言います」

「業界の闇を暴露します」

「これだけはやるな」

「○○は時代遅れ」

気付けば、誰が発信しているのかよりも、人間心理に最適化されたテンプレートの方が目立つようになります。

私はこれが、美容SNSの飽和の正体なのではないかと思っています。

美容外科医が増えたから飽和したのではない。

発信する人が増えた結果、人間が反応しやすい表現だけが淘汰され生き残り、皆が同じような言葉を使うようになった。

その結果として、美容SNSはどこか既視感のある世界になっていく。

 

もちろん、強い言葉で発信する先生が悪いと言いたいわけではありません。

SNSにはSNSの作法があります。限られた文字数で情報を届ける以上、分かりやすさも必要です。

ただ、SNSで伸びる情報と、診察室で本当に役立つ情報、そして患者さん自身の問題解決につながる情報は必ずしも同じではありません。

 

もし美容医療について調べる機会があれば、

「何を断言しているか」だけでなく、「何を断言していないか」

にも注目してみると面白いかもしれません。

 

私は美容SNSを見ていると、美容医療を学んでいるようでいて、実は人間の心理そのものを観察している気分になることがあります。