金曜日の待合室はえっ!?と思うほど人が多くて、ちょっと暇を持て余してしまった僕は携帯を取り出して、仕事のメールをチェックした。今のところ、今日の午前中が期限の見積依頼のメールしかきてなかったけれど、僕はそれを見事な手際で無視することに成功した。

彼女は、白いイヤホンを耳に突っ込んで、目の前の壁をキッと睨んでいる。

病的なほど清潔に保たれている白い壁には、なんとか週間のポスターやら臨時休業のお知らせの紙なんかがところ狭しとペタペタと貼られ景観を損ねている。
きっとそんなことは御構いなしで、用済みのポスターをはがした後のセロテープの痕跡をないものにするのが、受付の女の子のこの仕事で唯一のやりがいなのだろう。

娘の名前が呼ばれ、ぼくらはビニールのソファから立ち上がり、僕は携帯をお尻のポケットにしまい、彼女はイヤホンを耳から外す。cowonの携帯プレイヤーに付属していたイヤホンで、使わなくなったから彼女にあげた。付属品といっても、それなりに音はいい。彼女はそれを使い古しのinfobarにつけて、終わらないうたを延々と聴き続けている。ブルーハーツだか、モンパチだかを。外されたイヤホンからは、小気味のいいスネアの音がかすかに漏れて聞こえてきた。

あんまり大きな音で聴いちゃいけないよ。僕がそう言うと、彼女はコクンとうなづいて、ミッキーマウスの黒い小さなトートバックにプレイヤー一式をしまった。今の彼女にはそれがもっとも大切な宝物だった。
どこにだって 美味しいものはあって
ぼくらはそれをありがたく
おいしくいただけばいい
おいしさに優劣はない

誰にだって やさしさはあって
受け取り方や供しかたが
人それぞれなだけ
やさしさに優劣はない

だから美味しくいただきましょう

いつも、ありがとう