一幕
こんなことをしている場合じゃない。
急がなきゃ。
急がなきゃ、
終わってしまう。
このゲームが。
どうか無事でいてと、願う。
願いは無意味だ。
時間が刻々と過ぎていくだけ。
時間は間違いなく、俺たちからあの子を奪うだろう。
取り戻さなくては。
早く。
はやく、早く、早く!!
ぽん、と、くくりつけられた風船がまたひとつ割れる。
自分で逃げることはできない。ただ助けを待つ、無力な身である。
生徒会長が高らかに笑う。
「これでわたしたちの勝ちも同然ね。あんたたちの悪事もこれまでよ、観念するのね」
「うう、不覚……」
圭斗はがっくりと頭を垂れた。
十五分毎に割られていく風船はあと三つ。それがなくなるまでに救出隊が来なければ、彼はゲームオーバーを迎えることになる。そうなればテレメン史上初の敗北は免れないだろう。
『テレメン』は文化&体育祭(この学校では二年前から、いっぺんにやることになったのだ)最大のイベントである。先輩方から引き継いだ誇りである。
自分が負けを引き寄せるなど、真っ平ごめんだ。
「かくなる上は……!」
「! 待ちなさい――」
自ら残りの風船を割ろうとした圭斗に気付いた会長が、慌てた声を上げる。しかし、伸ばした手は届く距離ではなかった。
パンパン、風船が割れる。そのときだった。
『ふははははは! 待たせたな諸君!!』
学校中のスピーカーから轟いたのは、誰もが心の中で待ちわびていた『彼』のものだった。
『愚かなる我らがマスコットよ、捕虜になった身を嘆くことはない! 光はすぐに差す。それまでにできることを精一杯やるのが、おまえの真の使命だ!』
「坂河先輩……」
余計なことを、と生徒会長が唇を噛む。その背後で、捕虜が『自分にできること』――せっせと女装を始めている。
『しかし俺の出番はこれっきりだ! さらば!!』
地響きのようなどよめきが、学校を包んだ。イベント発案者の影響は、卒業後も依然強力だ。
形勢不利だったテレメンチームの士気が一気に上がったのを、会長は感じた。
反撃が、始まる。