あるカップル | こころ、しばり、――鬼と鬼祓いのふれあいファンタジー

あるカップル

友人の彼氏は、ろくでもない男だ。

「ごめんね、行かなきゃ」
携帯電話を閉じた友人は、それだけ言って慌てて行ってしまおうとする。私はその後を追った。


その男は、わたしにとっても友人にとっても『幼馴染』というやつで。
目つきは悪いし愛想もない。人に対して素っ気無いくせに、気に入った人間に対する執着はすこぶる強い。
人に弱さを見せることが大嫌いで、人の弱みを握ることが大好きな男。
そう、思う。
だけどよくわからない。
それは今のそいつなのか、昔のそいつなのか。
友人からそいつを紹介されたときに、わたしはそれが誰なのか気付かなかった。
昔は大嫌いだった。もちろん、今も。


呼び出しておいて、出迎えもない。
そんなことをあたりまえのように受け止めて、彼女は男の部屋に入る。わたしも続いて。
室内は、ひどく臭う。
「きゃーっ、リュウちゃん!」
友人が悲鳴を上げる。これで、何度目だろう。

床に、男が倒れている。手元には携帯電話。
「リュウちゃん、大丈夫?」
彼女が声をかけても、彼はうなり声を上げるのが精一杯で、起き上がろうともしない。
「ごめんね、足持ってくれる?」
言われるまま、男の足を持つ。彼女は男の脇の下に腕を通し、せーので持ち上げる。男の体は、尋常じゃなく熱い。
「まったく、いつもいつも、最終的にSOS出すなら、もっと早く、ミクに看病させればいいじゃない」
「…………、るせぇ……」
態度に腹が立ったので、無理やりベッドに放り投げてやる。

もうリュウちゃんは本当に手がかかるんだから。
なんてことを言いながら、友人はどこか嬉しそうに彼の嘔吐の後片付けをしている。
甘えられるのが嬉しいのだという。
こんなときにしか甘えてくれないから、と。
だからいつだったか、男に言ったことがある。もっと彼女に甘えなさいって。
そうしたらヤツは馬鹿にするように鼻で笑って、
『俺は最大限甘えてる』
とふんぞり返ったのだった。


夜になって少し楽になったのか、男はもそもそと起きだして、友人の作ったお粥をすする。
「あんたねー、わかってんの? 季節が変わるたびにこれじゃ、ミクだって大変でしょ」
「うるせーな、てめーは……」
「何よ! 大体ね、体調崩して我慢することに何の意味があんのよ、馬っ鹿じゃないの」
「違うの!」
言い合うわたしと男の間に、友人がクッション材のように入り込む。
「リュウちゃんはただ、いつも風邪ひくから『今度こそ一日寝るだけで治してみせる』って挑戦して失敗してるだけなの!」
男がお粥を噴き出した。
どうやら図星のようだった。


「お、おまえ、何言って……」
「違うの?」

友人の彼氏はろくでもない男だ。と、思う。
けれど友人はそれなりに幸せなようだし、二人はうまくやっている。
主導権はこっそりと、彼女が握っているようだから。



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