―第1話― 史上最年少セールスマン
ごきげんよう。
ジュマペール です。
このたび私は、
10年間にわたる
予備校講師生活に
別れを告げ、
外資系生命保険の
セールスマンへと
華麗に転身する
こととなりました。
これまで私を応援してきて
下さった皆様、
またこれから応援してくださる皆様に
感謝の気持ちを込めて、
私のセールスマンとしての華麗なる生活を、
そっとお伝えして参りたいと思います。
そもそも私のセールスマンへの転身は、
いったい宇宙のどのあたりから、
どのように発せられた電波の影響によるものなのか。
... まず言えること, それは必然だったということです。
モォツァルトが初めて作曲をしたという5歳の頃、
私もすでにセールスマンとしての第一歩を踏み出していました。
人を狂わせるような陽炎の揺れる夏のある日、
私は突然湧き上がったある考えに一人高揚していました。
「自分で採ってきた虫を、自分で売り歩いたらどうだろう。」
召使たちの目を盗み、宮殿を抜け出した5歳の私は、
近くの寺院で、イモムシやら甲虫やらを
手当たりしだいに捕獲しました。
そして近隣の屋敷を一軒ずつ訪問しながら、
採った虫を販売してお金を稼ぐというゲームに
一人挑んだのです。
大いに悩んだのは価格の設定でした。
虫はすべて神から頂いたものであるゆえに、
それに値段をつけるという行為は、
少なからず罪悪感を伴うものでした。
最終的に、イモムシは100円、甲虫は300円、
セミの抜け殻は一個10円、に設定しました。
売り文句はこうです。
「ごめんください。お宅のお子さんに虫はいかがですか。」
ところが、不気味がられたのか、
それとも単に需要に添わなかったからなのか、
虫はただの一匹も売れませんでした。
結局、半日振り回されてぐったりした虫たちの入った箱を抱えて、
トボトボと我が宮殿へと帰ったのは、
常に華麗なセールスマンであるはずの私にとって、
苦い経験ではありました。
僥倖というのは、
そう日常的に掌の中に落ちてくるものではないのだな、
と思ったその感覚が今でも妙に生々しく残っています。
【第一話 終わり】