【星空の交換日記…51】
プロゴルファー・アンナさん(23)より

(前回の続き)
病院に着くと遺体安置室へ案内され、兄と対面した。
額にわずかな傷跡があったが、笑っているかのような穏やかな表情だった。

洪水のごとく溢れ飛び散る涙も拭わず、横たわる兄の胸にしがみついて号泣した。
私が落ち着くのを待って、鳶の親方が少しずつ話しをしてくれた。

前日、土曜日の午後に救急搬送された兄は、手脚の骨折と内蔵破裂と診断され、すぐに手術が行われた。
一命は取り留めたと思われたものの、医師は「予断はできない」と慎重だったとか。

翌朝(日曜日) は意識があり、ゴルフの試合を見るか? と聞くとウンと頷いたので、ず〜っとテレビを点けていたそうです。
しかし、すぐに昏睡状態になり、意識があるのかも判らない…。
「アンナちゃんが頑張ってるよ!」と声を掛けても反応はない。

そして私が最終ホールでティーグランドに立ったとき、一瞬だけ兄が目を開けてテレビを見たそうです。
ところが、わずか数秒後、モニター(生体監視装置) の反応が無くなったという。

その時、私のティーショットのボールが左に跳ねて池に落ちたのがテレビ画面に映し出されていたそうです。
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すぐに医師が来て処置をしたが、時間の問題と言うだけ。

それから数分後…、一瞬、兄が口を動かし、声にならない声で「アンナ!」と叫んだという!
同時に私の第3打がグリーンに向かって一直線に伸び、そのまゝカップインしたのです。

たまたま偶然が重なっただけかも知れません。
でも、あの奇跡のイーグルは“兄の魂” が惹き起こしてくれたに違いない! そう思った。

ある偉人の〖大きな愛のあるところ、常に奇跡がある〗(作家:ウィラ・キャザー) という名言が脳裏をよぎった。
それは、兄の“大きな愛” が起こした奇跡に違いないと…。

鳶の親方の話しによれば、兄はゴルフ場などに行ったこともないのにクラブを持っていて、休憩の合間によく素振りをしていたそうです。
親方は、ゴルフをやっている妹さんの影響かな? ぐらいに思っていたとか。

その話しを聞いて、兄は本当は自分がプロゴルファーになりたかったのではないか? と思った。

幼少の頃、兄がゴルフクラブを持って来たのは、自分で遊びたかったのだ…。
それを3歳の私が駄々をこねて奪ってしまったんだと思う…。

兄の棺を前にして涙が止まらない私でしたが、その脳裏は子供ながらに私を励まし引っ張ってきてくれた兄の笑顔や姿が走馬灯のように駆け巡っていました…。
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兄は、プロになる自分の夢を、妹の私に託したにちがいありません…。
16歳の若さで妹のために、兄というより父親のように私を支えてくれた兄。

遊びたいのを我慢して、私のために働き、貯金をしてくれていた。
プロで初優勝をあげ、注目される今の私があるのは、間違いなく兄のお陰です。

少し時が経って、ようやく私の気持ちは落ち着きました。
「ギャラリースタンドには、いつだってお兄ちゃんが見守ってくれている」そう思ったら立ち上がれた。

今は、兄の遺言(?) だった“日本” と名のつくメジャータイトル優勝を目指して頑張っています。
「お兄ちゃん!  見ててねっ!」
     (了)
 ※写真は、本文と関係ありません。