二人のお酒を | 犬獣戯画

犬獣戯画

下町のロビンソン・クルーソー。
『最後の秘境は他人』がモットー。

 おぼろげな記憶だが、某書で『朝マラせん奴には金貸すな!』と書いてありましてね。根拠も理由もわからないけれど、なんとなく看過できない。むしろ含蓄のあるイイ言葉だとも、もっと言っちゃえばひとつの“真理”であるとすら思いましたな。うんうん。

 

 つい先日、古くからの友人(一般的な言い方をすれば『親友』と呼べる間柄だが、本人たちは恥ずかしくて今更そんなことは言わない)と会うことができた。※今回は彼の仮名を「シモン」とする。

 “会うことが、できた”という言い回しには理由があって、ひとつは彼が美容師なので(国内外のカットショーに出たりしているので『カリスマ美容師』の端くれなのだとは思うが、本人がそのネームバリューをうまく使い回せていないので『カリスマくずれ』と呼んだ方が近いと思われる)あまりお互いの休みが合わないという物理的な理由と、彼は家庭を持っていて、また共働きのため、夫婦それぞれの休みの日には一歳半くらいの下の子の面倒を交代で見ているという家庭の事情もある。こうなってしまうとこちらもテキを誘い出しづらい。

 そんな彼が珍しく「今度身体空けるから、会おうぜ。話もあるし」と言うので「じゃあ天気が良ければ河川敷で日向ぼっこでもして、天気が悪ければ家でシコパ(※要説明※『シコシコパーティ』の略語。みんなで一緒にアダルトビデオを見ながら自慰行為をする。男子寮ではこんなの平気)でもしようかー」などと言ったりして期待に胸を膨らませていた。※もちろん内心では久々にシコパをしたかったのは言うまでもない。

 

 そして迎えた当日、残念なことにお日柄が悪く、晴れ。もちろんシコパは却下で二人で河川敷に向かうことに。

 それなりに幅の広い川のほとりにブルーシートを敷いて、見事にピーカンなもんだから上着も脱いじゃえ、ってなことで上半身を丸裸に※彼はタンクトップ一枚※。さぁいざ乾杯だ。

 

 大方の場合に言えることでもあるのだけれど、私は親しい友人と常にべったりびったり付き合っている訳ではないので(遠隔地の友人も多いので、そこら辺はあまり気にならない)、大抵の場合は「我々が最後に会ったのはいつだったかしら?」という話から始まるケースが多い。今回も案の定そうだった。どうやら彼と最後に二人で会ったのは一年半ほど前の寒い日、別れしなに二人で安いピンサロに行ったアレが最後だということが判明。アラ旦那さん、ずいぶんご無沙汰じゃないのさ。

 

 その後は会話も平常運転。

 「んで、なんか話があるって言ってなかった?」と私が水を向けると、ヤツが「あぁ、それな…」と若干口ごもる。

 「実はさ、来年の春から嫁の里の方(東北)に引っ越して、あっちで店を開こうかと思ってるんだ」

 「へー。それが“例の話”かエ?」

 「だって、俺は出て行く側だから。それに只野(私)とも遠くなったら会えなくなっちゃうだろ?」

 「そんなん言うたって、今だって近くても一年半くらい会わずに居るんだぜ?むしろオレとしては遠くに拠点が増えたような気持ちで嬉しいくらいだ」

 「そーかな。そーゆーもんかな?でもそーだよな…」と言ってシモンは水面の遠くを眺めるような沈痛な顔つきをした。本人なりにずいぶん悩んで出した答えなんだろうな、であればその決断を“肯定する”以外に私が今さら口を差し挟むことでもないと思い私も一緒に遠くを眺める格好になる。

 

 しばしの無言の口火を切ったのは案の定私の方で、それもまたベタな話の変え方であるところの「子供たち、元気か?」という問いかけにパッとシモンの顔が明るくなったように見えた。

 「元気も元気、元気すぎて困っちまうくらいだよ。写真、見る?」とアイホンを取り出したシモンにすかさず私は答える。

 「いや、見ない」

 「なーんでだよー!フツー子供の写真とか見たりするだろーがよー!」

 「どーせ大きくなったりしてるだけだろう。だいたいは見当がつくから、見ない」

 「見当、ってなんだよ!いいよ、こっちが勝手に見せるから!」と言って父親の表情になったシモンは嬉々とした表情でアイホンをツンツン(タップとかスワイプとかそーゆー行為)している。私は私で『シモン、やっぱりお前には笑顔が似合うよ』と思ったりもして、いやはやどーも。

 

 「ほら!子供、大きくなったろ!」とシモン。

 「だから、想定の範囲内じゃないか」

 「ほら、この写真!ブサイクだろー?」と嬉々として(私を置き去りにして)はしゃぐシモンが愛おしい。

 なのに私は「もーいい、もーいい。元気ならば写真なんぞ見なくても構わん。だけど…」という私の言葉にシモンが身を乗り出している。

 「肌がミドリになったとか、ツノが生えてきたとか、そーゆー時があれば真っ先に写真を見せてクダサイ」

 だってそんなのレアケースだもの、真っ先に見たいよね、というのが私の本音でもある。

 

 「そーか…今度、上の子ミドリに塗っちゃおうかな」などとブツブツ口に出してアイホンをしまったシモンはちょうどお酒も切れた様子である。酒飲んでて一番きついのは酒が切れちゃうことだよね、なので私も「おい、焼酎ならあるぞ、割モンなんにもないけれど」と言うと「俺、焼酎は苦手なんだ」とシモンが言う。おい、いつから人の酒を断れるくらいにエラくなったんだ、このカリスマ崩れが、と思ったり口に出したりしながら再度川を眺める我々。日差しを反射してキラキラと水面が眩しい。

 充分にリラックスした親密な空気感の中、私は問いかけた。

 「シモンさ、最近朝勃ちする?」

 「それがさー、しないんだよ、最近」

 「オレもなんだよ。仲間が居て嬉しいわー。でも金は借りられんよね、セツメーは省きますけど。※冒頭参照のこと※」

 伊達に長く付き合って居る訳ではないシモンは今さら私の発言にいちいち疑問符顔をしないでいてくれるので非常に楽だ、これが幸せというものなんじゃないかしらん。

 

 「ところでアナタ、夕方には帰らなきゃ、って言ってなかった?時間大丈夫?」

 「いや、四時過ぎの約束だから…もー少ししたらココを出なきゃ…※この時点でまだ二時半くらい」

 「エラく早い出立だな。移動が遠いのん?」

 「いや、そーじゃなくて…ほら、ピンサロの時間があるだろ?」

 「いや、だからピンサロは今日は行かんのんだって!だからシコパしよって言ったのに!」

 「えー!マジかよー!」とがっかりした顔つきでシモンは私の手から焼酎の入ったコップを奪ってガブリと呷った。

 

 

【二人でお酒を 梓みちよ】

https://www.youtube.com/watch?v=wAtDBifFVKY&index=61&list=PLmAWd7h1DCKU5eSnnYfXFEDPSMB020qbu