介入者の潜伏拠点の一軒家にたどり着いて数時間の時間が経過した。
 空から、酸性雨が降り始めた。
 クスリを飲んだハルが、ずっとソファに横になっている。
「さて、キミにも戦う準備・・・・・・まあ戦闘行為は介入者の意に反するけど。いざというときのために必要だから、武器を持ってもらう」
 そう言ってソースは、家の奥にある電子ロックの大金庫へ向かい、カードキーと暗証番号と指紋認証をクリアして、金庫を開ける。
 中には複数の銃器と弾丸と、現金が入っていた。
「どれを使えるんだ?」
 カナミの方を向くソース。
「いえ・・・・・・私は研究所の人体実験であらゆる銃を使えるように脳に情報を刷り込まれているらしいので、種類を問わず」
 突然、これまで殺してきた人物たちのことを思い出す。
 だが顔には出さなかった。
「そう。じゃあこの拳銃なんてどうかな」
 ソースが一丁の拳銃を取り出してきた。
「一応、消音器付きだから便利だろう。あと、ホルスターと予備弾倉」
「ありがとうございます」
 カナミは慣れた手でそれらを装着した。
 それを確かめたソースは大金庫の扉を閉め、再ロックする。
 二人はリビングに戻り、テレビを点けてテーブルの椅子に座る。
「なにか見る?キミくらいの年齢ならなにがいいのかな」
「あ、じゃあなにかバラエティ番組を」
「そう」
 そして芸能人がたくさん出ている明るい感じのクイズ番組にチャンネルを合わせた。
「ハルはこういうの見ないんですか?ソースさんは?」
「まあ見てるよ、時々。でも俺のほうはインターネットでニュースとかブログとか映画を見るのがほとんどだから、一緒にはあまり見ないかな。ここにはパソコンが無いみたいだから無理だけど。あと携帯プレイヤーでネットで落とした音楽聴いたり」
「・・・・・・んー?」
 そこでハルが目を覚ます。
「起きたか。まだ寝てた方がいいんじゃないか?」
「まあ、体は動くって」
 ニヤリと笑うハル。
「ふたりはいつから一緒にいるんですか?」
 カナミが言うと、ソースとハルはキョトンとして顔を見合わせる。
「俺とハルが?」
「はい」
「2年か3年くらいかな。俺が連邦を抜けて介入者に入って、その時か」
「オレの師匠になったんだよな」
 ハルの言葉に、ソースは頷く。
「その時すでにハルは介入者だったね。そのころの介入者は連邦同盟にとって脅威とみられてなかったみたいだけど。ハルは俺と共通する超能力適性がある候補生だった。それで俺が超能力開発の指導者になったんだよ」
「だな。その時は両親が自殺したばっかでめちゃくちゃ落ち込んでたんだけどさー」
(みんな、大変な思いをしているんだ・・・・・・私だけじゃない)
 カナミはそれを実感した。
 殺したり殺されたり、もっと生きたいのに死んでしまったり。
 憎んだり、憎まれたり。
 カナミは感じる。思う。
(私も、憎まれているんだろうな・・・・・・私も殺したんだから)
 カナミも連邦同盟の名のもとに、革命軍の兵士を殺した。
(私が殺した人たちにも家族がいて、その家族に恨まれているのかも、か・・・・・・当然だよね)
 カナミも戦闘のなかで両親を失い、絶望した立場だ。
 殺したり死んでいった者たちに謝っても許されることではない。
(両親もいなくなって連邦からも抜けて、わたしには戦う理由が無い)
 カナミはそれを表情には出さず、テレビ番組を見つめている。
「なんだ?困ってんのか?」
 突然声をかけてきたのはハルだ。
「え?困ってる?」
 当然、驚くカナミ。
「だってさ、なんかそんな感じしたから」
「いえ、とくには・・・・・・」
 そこでソースも会話に入ってくる。
「俺やハルには透視能力があるからな。人の心は脳の神経の電気信号でもあるから、それを透視して感じたのかもしれない」
「私の、心を?」
 すごいな、とカナミは心の底から驚いた。
(私にも、人の心をわかる力があれば・・・・・・)
 少女はひとり思い、夜に沈んでいった。