カナミたちは市街中心駅近くの高層マンションに到着した。
マンションには地下施設がある。
そこは大勢を収容できる核シェルターとなっている。
戦争での教訓だ。
もちろん駅にも。
地下核シェルターが存在する。
中央には大型インターネットテレビがあったりする。
補助電力としてソーラーパネルが設置されている。
革命軍の世界同時核爆弾テロで一部地形が変わった。
原子力発電所は無事だったが。
日本では未だに「核の傘」は健在だ。
原発は更なる武装配備による警備が必要となった。
駅だけでなく、マンションにも、
ソーラー発電機が配備されている。
カナミ達が住む場所も。
「わぁ・・・・・・」
思わず声をあげてしまうカナミ。
さすがに金持ち達が住む場所であって警備も厳重だ。
というか、こういうことに金が回ってるなんて考えたこともない。
思考盗聴とか、神経操作とか。
考えてみればそれがどうやって運営されているのか。
と、考えたところで。
(こういうことも考えるだけでダメなんだろうな)
という結論に行きついた。
連邦同盟の秘密なんだから。
また、前のように脳を操作されて倒れそうになるかも。
あれは嫌な体験だった。
そのとき。
「大丈夫?リジェちゃん」
ユイが優しそうに声をかけてくれた。
「あ、はい。大丈夫です・・・・・・」
「クスリは飲まなきゃだめだからね」
「はい・・・・・・」
大丈夫、今朝も飲んだ。
とカナミは自分に言い聞かせる。
「・・・・・・」
ポインターは音楽を聴きながら、その様子を見ていた。
カナミとユイとポインター。
それと別れてジャッジとリールが別室へ行った。
というか隣だが。
「それじゃ」
リールが挨拶して別れた。
「ていうか、俺と女性って組み合わせ良いんすかね?
普通に考えれば俺とジャッジさんで、あと女性陣で別室、
って感じしますけど」
ヘッドフォンを外して言うポインター。
「あー、まあ学校とかじゃないし。
男女平等よ。仕事だし、仕事。
どうせなんか問題あってもすぐバレるし」
微笑みながらユイが言った。
「・・・・・・」
黙るカナミ。
「まあ、思考読み取られてますしね」
と言いつつクスリを複数口に放り込むポインター。
再生ペットボトルのドリンクで飲み込む。
ゴクゴクと。
「はぁ・・・・・・」
そして一息つく。
それぞれ用意された部屋に入って行く。
各自、ケースに入った着替えや武器を部屋で開いた。
カナミのケースには下着などと共にハンドガンが入っていた。
予備のマガジンと弾丸、脇に装着できるホルスターも。
もう一つの長いケースには前に使ったアサルトライフル。
リールとジャッジが用意してくれたらしい。
衣装ケースがあったので、衣服はそこに入れた。
「スターリング社製オートマティックライフル。
一弾倉にスぺシアル専用弾二十五発装填。
強化加工リーダーポイント弾装填可能」
すらりと口から出た言葉。
自分でも実感が無いのだが、無理さは感じない。
(あと、ハンドガン・・・・・・)
カナミはホルスターも手に取る。
「ウチガワ社製サスケモデル。
疑似金属強化プラスティック構造。
八ミリパック弾十二発装填」
また、さらりと呟いた。
動作を確認し、弾を込めた。
(こんなの、わかんないはずなのに)
これは、洗脳というやつなのだろうか?
そんな技術が存在するのか・・・・・・。
だが、それを考えるのなら超能力だってそうじゃん。
そうだ。
超常的な現象を起こす人間。
人間と呼べるのかもわからないが。
何回も確認するが、自分がそうなのだ。
そしてこの「裏」の世界に存在する連邦組織。
思考が自動で読み取られてるなんて、考えもしなかった。
いや、知ろうとしなかっただけかも。
それに逆らうのが革命軍なんだ。
でも、革命軍はテロリストとして扱われている。
そこでカナミは、また気づく。
こう考えているのも丸見えなんだ。
連邦同盟はそうやって人を監視して、敵を割り出している。
カナミは考えるのをやめる。
そしてユイと話すことにした。
部屋から出る。
「ユイさーん・・・・・・」
どこだろ?
自分の部屋かな?
「はい、なに?リジェちゃん」
ユイをすぐに見つけた。
「あ、どうも。今後のその、仕事について聞きたいんですけど」
「ああー、そうね」
「私たちは、そのいなくなった超能力者を探すんでしたっけ?」
「うん、追いかけるってわけじゃないんだけど。
行方の手掛かりを探すのね。
あと、その超能力者の代わりに、この地区の監視をします」
「そ、そうですか・・・・・・。
監視って、どんなことをするんです?」
「うーん。まあ、そっか。そろそろ話しても良いかな。」
少し控えめな声になってユイが言う。
なんだろ?
カナミはそれを疑問に思い身構えた。
「もうそろそろ、リジェちゃんたちは主に二人で組んでもらうの」
「え?」
「私は主に、超能力者の監視・支援が目的なのね。
それで、ずっと同じ超能力者についているわけじゃないの。
更に言えば、今ポーノと組んでるじゃない?
だけど時間が経てば、いずれ一人で行動することになる。
それにちょっとずつ慣れていかなきゃなの」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
カナミはちょっと不安になった。
これからの仕事・・・・・・。
今まではユイの明るさに助けられてきたけど。
それが無くなるのか。
不安・・・・・・。
「クスリや武器弾薬を届けるときには来るけど」
ユイは付け足した。
ひとりで・・・・・・。
やって行けるだろうか?
また、不安だ・・・・・・。
「まあ、大丈夫よ!リジェちゃんは必要な事は刷り込まれてるから!」
そう言い、ユイはカナミの肩を撫でた。
「は、はい・・・・・・」
頼りなく声をふりしぼって出すカナミ。
「うん、じゃあこれが連絡用端末ね」
ユイはそう言うとポケットから薄っぺらな板のようなものを出した。
そしてそれを、カナミは受け取る。
「端末・・・・・・」
「まあ、ケータイみたいなもんね」
「あとこれ、この部屋のカードキーとパスコード」
「は、はぁ・・・・・・」
「・・・・・・一応言っとくけど、それも監視されてるから」
そこは表情を暗くして言った、ユイ。・
「はい」
カナミはしっかり返事をした。
こうなれば、覚悟の上だ。
というか、他の人はそれが普通なのだろう。
私も慣れなきゃ。
「クスリの残りはある?」
と、ユイが表情を少し明るくして言ってきた。
「はい」
「そっか。私はこれからクスリを取りにいかなきゃ。
補充のために一度、研究所へ戻らなきゃなの。
また来たら連絡するから、任務続行してね」
と言いながら微笑んだユイ。
「はい」
カナミは、はっきりと返事をした。
「じゃあまた」
ユイは一言言って出て行った。
カナミは部屋でユイからもらった端末をいじっていた。
なんだ、普通のケータイと同じじゃん。
電話帳リストには研究所とユイの連絡先が登録してあった。
これで家に電話したら、やばいだろうな。
そしたら、ポーノさんとかに殺されるんだろうか?
冗談じゃない。
本当のことなんだ。
甘ったれた理屈でいたら、死ぬ。
いくら身体再生能力を持っていても、万能ではない。
と思った。
試したことないし、試せない。
死んだら終わりだし。
と、そこまで考えたところで。
ポーン。
部屋の呼び出し音が鳴った。
慌てて部屋を出るカナミ。
ポインターも出ていた。
インターホンを見る。
ジャッジとリールが映っていた。
「俺が出るよ」
とポインターが言うと。
「はい」
カナミは返事をした。
玄関のロックを解除し、扉を開く。
「よう」
「どうも」
大男のジャッジと、クールビューティーなリールがいた。
全員そろって四人。
「さてと、全員集合したわけだが・・・・・・」
ジャッジは、ぽん!と手を叩く。
「うむ」
そしてリールがうなずく。
「これからどうするんすか?」
ぶっきらぼうにポインターが言うが。
「・・・・・・」
カナミは黙って聞いている。
「俺たちゃ元々がこの任務のために派遣されてきたんだ」
にやりとジャッジが笑ってみせた。
「薬物の監視ですか?」
今度はカナミが口を出す。
「おう、この地区にクスリをばらまくんだ。
それによる変化を、監視する。人間をな。
そんでよ、研究に役立ちそうな奴を研究所に送るんだよ」
「クスリは用意してあるわ」
リールがスポーツバッグのような大きい鞄を出した。
それを「ドサッ」とテーブルの上に置く。
「クスリを、ばら撒く・・・・・・」
カナミがそう言うと、またもやジャッジがにやりと笑う。
「不満か?」
「そのクスリで薬物中毒とかになるんですか?人が」
「ああ」
「死んだりする人も、いるんですか?」
「いるさ。なんだ?汚い事は出来ないって感じか?」
「いえ・・・・・・」
カナミが少し落ち込んだ様子を見せる。
「おい、あまりいじめるな」
リールがカナミを擁護する一心で言葉を放った。
「してねぇよ」
ジャッジが口をとがらせて言う。
「まあなんにしろ、今の俺達は連邦同盟の一員だし。
命令に従わなければ、関係なくても親族までも処分される。
やるしかないでしょう」
ポインターは笑顔でそう言って見せる。
笑顔・・・・・・。
カナミはそれを気にしていた。
前もそうだったが、今もポインターには気になることがある。
そういう感覚があるだけで、それがなんなのかはわからない。
「じゃあ、頼むぜ」
と一言、ジャッジが言うと。
「ああ」
リールがそう言い、突然目を閉じた。
「な、なんですか?」
それをよくわからないカナミは問う。
「リールさんは透視能力者なんすよ」
ずばり言うポインター。
「透視・・・・・・」
「喋らないで。気が散る」
「は、はい・・・・・・」
そしてしばらく時間が、無言で過ぎた。
「ふぅ・・・・・・」
リールが息を吐く。
「どうだ?」
「第一地区と第二地区にはクスリはあまり出回ってない。
第七地区は中毒者がかなりたくさんいる。
第八と第九は七より浸透率は少し低めな感じ」
つらつらと述べるリール。
「な、なにを感知しているんですか?」
カナミはリールの透視能力に驚いた。
「まあ、条件設定で色々制限はかかるが、感覚だ」
すごいなぁ・・・・・・。
カナミは心底驚いていた。
「全部で十地区あるから、二手に分かれてやろうぜ。
つーか、もともとがそういう計画て俺達は来たんだ」
そうなんだ・・・・・・。
前は人殺し・・・・・・。
これからは麻薬の売人・・・・・・。
なんだかうんざりしてくるが、不思議と落ち着いている。
「リジェさんと俺、リールとジャッジさん?」
二手に分かれる、と言われたので問うポインター。
「そうなるな」
「く・・・・・・」
「なんだ不満か?リールよ」
「くそ、私もポーノと・・・・・・」
「なんだよ我慢しろよ、それくらい。
こうやって会議の時にちょくちょく会えるんだから」
「だが・・・・・・まあいい」
「じゃあ、さっそく行こうぜ。
ポーノ、確かお前、車運転できねぇんだよな?」
「ええ」
「じゃあ俺らが遠い六地区から十地区の方をやるよ。
ポーノたちはこの拠点から近い一から五地区だ」
「はい、わかりました」
「じゃあな」
「じゃあ、また」
ジャッジとリールが別れを告げた。