三人は朝食を食べ終わった。
「で、今日のポーノ君の占い結果はどうだったの?」
ユイが食器を洗いながら問う。
「六位っす」。
ポインターがニュース番組のチャンネルを回しながら答えた。
「良くも無く悪くも無く、どっち付かずねぇ」。
「まあ、その程度で良いってことじゃ?」
「そうね」。
「あ、食器洗い、手伝います!」
ポインターと一緒にテレビを見ていたカナミが立ち上がる。
「うん、ありがとね、リジェちゃん」。
カナミはエプロンを着て、洗剤を手に取った。
ポインターは音楽プレイヤーを取り出す。
それはワイヤレスヘッドホンと繋がっていた。
(それじゃテレビの音、聴こえないんじゃ?)
カナミはそう思ったが、ユイと共に洗い物をした。
それが終わると、カナミは暇になった。
なので、銃の整備を行うことにした。
生まれてから十四年間、この前のテロまで、
銃など触ったことも無かった。
だがなぜか、銃の構造や扱いを知っている。
いつ知ったのか?
分からない。
だが体が自然に動くのだ。
奇妙な現象だった。
アサルトとハンドガンをリビングのテーブルに並べた。
テキパキと分解して、部品を並べ、掃除し、組み立てる。
なぜか体が動いた。
(なんだかなぁ・・・・・・。)
用量良く作業を行う自分に、ぼんやりとした感情を抱く。
「すごいっすね」。
そこで声をかけたのがポインターだった。
「いえ・・・・・・」。
カナミは曖昧に答える。
だが作業はしっかりと進めた。
「二人とも、そろそろ増援が来る頃よ」。
ユイだ。
「そうですか・・・・・・どんな人達なんです?」
カナミはそれが少し気になっていた。
「リールとジャッジね、ポーノは知ってるんじゃない?」
「え、知り合いですか?ポ、ポーノ・・・・・・」。
カナミはポインターを略して呼ぶのにためらいがあった。
しかし考える。
私は不死身の肉体を持っている。
頭を吹き飛ばされない限り、いくらでも再生できる。
それなのに、なぜ怯えるような・・・・・・。
控え目な態度になる必要があるのか?
私は、いつもこの人・・・・・・。
ポインター・・・・・・ポーノに、なにか?
何を感じているんだろう。
ユイには普通に親近感を持っているが。
私は彼を好きなのだろうか?
そう考えてみる。
前にもそんなことを考えたが。
違う気がする。
「リールとジャッジ・・・・・・」。
ポインターは静かに呟く。
「なにか問題ある?」
ユイがにやりと笑ってみせる。
それは新たな二人を舐めるのではなく。
ポインターを見下すわけでもなく。
その時「ビー」と大きな音が鳴った。
「来たわ」。
ユイは監視用のモニターを見て言う。
確かに画面には二人の人物が映っていた。
短髪で筋肉質な大男と、長い黒髪で細身の女だ。
この居住区に来るためにはセキュリティを通過する必要がある。
偽者ではない。
「今、開けるわ」。
ユイが音声を送って、開場ボタンを押した。
リールとジャッジが駐車場に入ってくるのを別モニタで見る。
(あの人達が、リールとジャッジ)。
「その人達も超能力者なんですか?」
カナミが口を開くと、
「そうっすよ」。
とポインターが即答した。
(やっぱりか、でもどんな能力んだろう?)
カナミはそれも訊こうとしたが、やめた。
なんとなく気が進まなかった。
そしてリールとジャッジが居住区の廊下を通ってくる。
「お迎えでもするか」。
玄関の方へ歩み出るポインター。
(なんで?)
またもや疑問を持つカナミ。
カナミはポインターに疑問ばかりを持った。
(なんでだろう?)
わからなかった。
「なぜ?本物だと思うけど」。
ユイが質問で返す。
「なんとなくっす」。
玄関の扉を開けるポインター。
がちっ、と少し鍵が引っかかったが。
開けると・・・・・・。
ごぉっ、と大きな拳が突撃してきた。
だが、それはポインターには当たらない。
さっき鍵が引っかかった一瞬で、「ズレた」のだ。
驚いてよろめくポインター。
その拳の主は、入ってきた大男のものだった。
ポインターに対して空振りした拳。
そしてその肉体はそのまま室内に飛び込む。
「ぅわっ・・」。
と小さな悲鳴を出したユイ。
飛び込んできた人影は突風のように突っ込む。
「!!」
カナミは即時に反応した。
ハンドガンを手に取り、構える。
そして撃った。
だが大男は「にやり」と笑って見せる。
パンパンパン!
カナミはハンドガンで三発放った。
が・・・・・・。
ギギギィン!
金属音が響いた。
三発とも、拳に弾かれたのだ。
「!?」
カナミは突っ込んできた拳に驚愕した。
(な、なに!?)
そして拳は、ぴたりと止まった。
「よぉ、お嬢ちゃん」。
にやにや笑いの大男が不敵に挨拶してきた。
「え・・・・・・?」
突然の挨拶にカナミは茫然とした。
それに対し入ってきた女のほうは呆れ顔で、
「まったく・・・・・・」。
と、呟く。
「俺がジャッジだ、なかなかやるねぇお嬢ちゃん」。
ジャッジと名乗った大男は笑いながら言った。
「はぁ・・・・・・」。
(敵、ではないの?)
カナミは頭の中で呟いた。
「悪いわね、リジェ、さん?」
「は、はぁ・・・・・・いいえ」。
カナミはどうも状況を分かっていない。
「試された、とか?」
カナミがそう言うと。
「おう」。
と、大男がはっきりと言った。
「ホントにもう・・・・・・」。
女の方はうんざりした感じだ。
「私がリールよ、久しぶりね、ポインター」。
「え、知り合いなんですか?」
カナミがぼけっとした様子で言った。
ポインターはナイフを構えていた。
そして状況が分かると、ナイフを足首のポケットに戻した。
「まあ、リールは。ジャッジさんは違うけど」。
ポインターはそう言った。
「はぁー、びっくりしたぁ」。
ユイが深く息を吐きながら言った。
「失礼したな、でもたいしたもんだ、
あの速さで反撃してくるとはな」。
ジャッジは両手でぽん、と叩きながら言った。
(この人・・・・・・)。
カナミは冷静に状況を把握する。
(あの拳、改造されているな)。
ジャッジの拳を見る。
(速さと頑丈だけでもない。
そんなんじゃ、銃弾を無傷で防げるはずがない)。
そして一つの結論を導き出す。
(超能力、か・・・・・・?)。
ジャッジも何らかの超能力を使う。
それしかないと思った。
(私の弾丸を弾く時に音がした。それがヒントになりそうだ)。
「なんだいお嬢ちゃん、怖い顔して。怖いかい?」。
「・・・・・・いえ」。
カナミはジャッジを見つめる自分に気付いた。
「この子は、お嬢ちゃんって名前じゃないわ」。
そこへユイが口を挟んできた。
「分かってるって。リジェネイターだろ?」。
「・・・・・・リジェで良いです」。
カナミは少し不機嫌そうに言う。
奇襲に驚いた、というのもあるが。
それなのに冗談交じりのジャッジが気に食わないのだ。
「そうかい?リジェちゃんよ」。
ジャッジがにやりと笑って言う。
「ごめんなさいね、リジェさん」。
リールがため息交じりで謝った。
「いえ、平気です」。
とは言いつつも少し不機嫌なカナミ。
「わかってる、俺の能力が気になるんだろう?」。
ジャッジは拳を差し出し、開いたり閉じたりした。
「ええ、まあ少し」。
カナミは無関心を装った。
「まあ、そのうち教えてやるよ。」
ジャッジがまた、にやりと笑う。
「・・・・・・」。
その様子を見ているポインター。
(あの拳し当たっていたら、とんでもないことになってた)。
ポインターは恐怖と安堵を感じる。
(さっき、もし一瞬でも拳とのタイミングがズレてなかったら)。
弾丸をも弾く拳だ。
そんなのものに殴られたら、ただじゃ済まない。
ポインターは己の運の良さに感謝した。
「リール、どういうことか説明してくれ」。
ポインターも少し不機嫌な調子を見せる。
「ああ、ごめんなさい、こいつロリコンなのよ」。
「ばっか!違うって!俺はだな、不死身の超能力を!」。
にやにや笑うリールに激怒するジャッジ。
「私の、超能力?」。
(そっか、ジャッジさんはそれを試そうとしてたんだ)。
カナミはハンドガンをぎゅっと握りしめる。
だが引き金には指を触れない。
「まあ、そういうわけだから、勘弁してやって」。
リールが軽く頭を下げる。
「そんなら、謝るのは俺じゃねぇか」。
ジャッジがぶつぶつ文句を言った。
「だったら最初から無礼はやめなさいって」。
リールがツッコミを入れる。
「ったくよぉ」。
ジャッジはまだ、ぶつぶつと言ってる。
「まあまあ、これで面子は揃ったってことで」。
ユイが気前よく仲裁に入ってくれる。
「そ、そうですね」。
「そっすね」。
「そうね」。
「おう」。
それぞれ返事をする。
「じゃあ、私達は隣の部屋へ行くわ」。
リールが言う。
「本当は、ポインターと二人きりが良いんだけど」。
それからリールがポインターに視線を合わせる。
「あら、二人はそういう関係?」。
にやにやしたユイが興味深い態度を示し。
「何度も二人きりで夜を明かした仲なの」。
微笑みながら言うリール。
「まあ、仕事でね」。
補足するポインター。
「でもリールは美人だし、気にはなるんじゃない?」。
「ああ、きれいだし良い人だと思うよ」。
「じゃあこの際だから二人きりになっちゃえば?」。
ユイが嬉しそうににやにや笑いを浮かべる。
「良い考えね」。
「まあ、俺はそれでも良いっすけど」。
「そいつは良いな、俺は一人の方が気を使わなくて良い」。
ジャッジも嬉しそうに会話に混ざってきた。
「でもね残念。今はジャッジと組むよう命令されてるの」。
リールが頬に顔を当てながら言う。
実に残念そうな表情だった。
「ああ、そういやそうだな。命令違反はできねぇ」。
「そういえば、俺もリジェさんと組むよう言われてる」。
「じゃ、そういうことだから」。
リールとジャッジは荷物を持って隣の部屋へ行った。
(はあ、大人の会話だなぁ、ついていけない)。
カナミは心の中でため息をついた。
「ごめんね、リジェちゃん、困ったでしょ」。
「い、いえ、大丈夫ですよ」。
カナミは首を振って答えた。
(本当は困ったけど・・・・・・)。
心の中でそう呟くカナミ。
(ていうか頭の中見られてるんだから・・・・・・・)。
そう、心の中の声は筒抜けである。
(やだなぁ、ほんとそういうの)。
カナミはまた心の中で、本当にうんざりした。
(ていうか皆、平気なのかな?)。
カナミは平気ではなかった。
この世界の真実を知ってから、平気ではいられない。
(ていうかポーノさん、自殺したって言ってたし)。
カナミは頭の中がフル回転していた。
ごちゃごちゃと考えが回りまくっている。
(私はなんか、自殺をしようとは思わないけど)。
「大丈夫?リジェちゃん」。
そこへユイが声をかけてきた。
「は、はい!なんでもありません!」。
それに対してカナミは大声を出してしまった。
「や、やっぱり緊張してるわね」。
ユイもちょっと困った感じになる。
「す、すいません」。
カナミは気が小さくなってしまう。
「あっ」。
そして気づく。
銃を持ったままだった。
カナミは慌ててセーフティをかける。
「危ないわねぇ」。
ユイが微笑んで言う。
「す、すいません。」
カナミはついつい何度も謝ってしまう。
「しかし凄いな、銃の整備まで出来るんすか」。
そこへポインターが一言ツッコんできた。
「はい、なんとなく体が動いちゃうんですけど」。
テーブルの上にハンドガンとアサルトを並べる。
「ポーノはナイフでしょ?」
ユイがポインターの事をポーノと呼ぶ。
ポインターも気にしていないようだ。
「そう」。
「そういう違いって、どう判断されるんですか?」
銃をじーっと見つめながらカナミが問う。
「うーん、それは私の専門外だな」。
「そ、そうですか」。
「さーて、さっきの二人の準備が出来たら始めますか!」
ユイがパンパンと手を叩きながら言う。
「「なにを?」」
カナミとポインターが同時に問う。
「訓練!」
ユイはにっこり笑って、答えた。