「サソリって速いんじゃのぅ」


「まぁそれは俺も思ったけど……」


「お? あれはつの岩じゃないか。もうこんなところまで来たのか」


「つの岩? あの緩やかな角度で空に向かうとがった岩?」


「そう、それじゃ。まぁここから見ればとがっておるが、実は上面は平らなんじゃ」


「へぇ」


「ほれ、この辺りからもう全然違って見えるじゃろ」


「ほんとだ」


「ここはな、獅子のお気に入りの場所じゃ」


「何? 獅子いるの? ここに?」


「他の星座もおると言ったじゃろう」


「ライオンはサバンナにいろよ!」


「悪かったなぁ」


「うわああぁぁ!」


「久しぶりじゃのう。獅子よ」


「カニよ、何をしている?」


「人間の世話じゃ」


「ペットみたいな扱いやめろよ!」


「ほう。それは御苦労なことだ。しかし人間とは珍しいな」


「じゃろう? 面白いから世話しとるんじゃ」


「やめて! マジやめて! なんかみじめな気持になってくるから!」


「やかましいな、こいつは。食ってやろうか」


「いやいやいやいやすいませんやめてくださいお願いします俺が悪かったです」


「うそだ。最近もうでかい獲物を食うほど体力がない」


「なんじゃ。また悪くしたのか」


「え? 何? 病気?」


「老いだよ、人間。もう獲物を追うほどの体力はわたしには残っておらぬ」


「ライオンらしくねー。っつーかそれじゃ死ぬんじゃね?」


「まぁ幸い周りの者が助けてくれるからな。まだ生きながらえているよ」


「俺が言うのもあれなんだけど、しし座をつかさどる獅子がそれでいいのかよ?」


「私が気にすることでもあるまい。それに――」


獅子はつの岩を登りながら言った。


「面倒だし」


「……は?」


「獅子は昔から面倒くさがりでのぅ。はっはっは」


「笑ってんじゃねーよカニ! 幻滅したよ!」


「期待され続ける私の身にもなってみろ、人間」


「お前はやる気出せよ!」


「えー?」


「言っても無駄じゃて。ほれ、あやつもう寝る体勢じゃ」


「寝んなよ!」


「……」


「寝たー!」




―― Next ――

「お? どこか行くのか?」


「とにかく動くんだよ。ここでじっとしてても意味ねぇじゃん」


「待て待て。移動するならお前さんの肩に乗せてくれ。よし。それでどこに行くつもりなんじゃ?」


「さぁ……。とにかく歩くよ。帰る方法見つけなきゃなんねぇし」


「別に帰らんでもよかろうに」


「帰るよ! 嫌だよこんなとこ! カニがしゃべる場所なんて!」


「やけに嫌われとるのぅ。わし泣いていい?」


「っていうか俺出張中だったんだけど! 会議あるんだけど!」


「無視ときた!」


「うるせぇ!」


「会議なんて知らんわ! というかお前さんがあの墜落した飛行機に乗っとったことぐらい会社側は知っておろう?」


「まぁそりゃあ知ってるけど……」


「じゃあ会議のことなんか気にせんでもよかろうて」


「そういうことじゃねぇんだよ…… 帰りてぇんだって」


「無理無理。この島には何もないからのぅ」


「もうマジなんなのさ……」


「お?」


「ん?」


「よう」


「またなんか来た……」


「久しぶりじゃねぇか! カニの旦那!」


「なんじゃサソリか。しばらくぶりじゃのぅ」


「旦那、この人間はナニモンでぇ?」


「わしもよくわからんが飛行機が墜落してこの島に流れ着いたらしい」


「へぇ、珍しいこともあるもんだねぇ」


「何これ何なの? なんで外骨格の生物が二匹ともしゃべってんの?」


「なんだあんちゃん? しゃべるサソリは嫌いサソリ?」


うっぜぇ……。カニと同じ発想……。つーか――


「どう考えても無理あんじゃん。何? お前ら二匹で申し合わせでもしてたの?」


「なんのこったい?」


「素か! 素でやったのか! わかったバカなんだ! こいつバカなんだー!」


「な! てめぇふざけんじゃねぇぞ! それがさそり座をつかさどるサソリに言うことかい! え?」


「うるせぇ! 外骨格の生物が二匹とも同じ発想しやがって! つーかサソリに至ってはシャレでも何でもねぇ」


「カニの旦那、なんかこいつわけわかんねぇこと言ってますぜ?」


「……」


「カニも黙ったじゃねぇか!」


「ちょ、旦那ぁ。一人にしないでくだせぇ……」


意外と淋しがり屋か!


「いや、わしも今のはないと思うのぅ……」


お前が言うか!


つーか切り捨てんな!


「う、うわぁぁぁぁ!」


子供か!


「どうすんだよ。サソリ走ってどっか行っちまったよ」


「まぁ気にせんでもよかろう。バカだしのぅ」


「いいのかよ……」




―― Next ――

「はぁ……。意味わかんねーよマジ何これ」


まじありえねー


俺は飛行機に乗っていたはずだ


でもなんで


なんで落ちたんだろうなぁ


あの飛行機は……


「なんで無人島の砂浜に座って一人水平線に沈む夕日見ないといけねーの?」


「わしがおろう」


カニしゃべるし


「何? 何なの? なんでさっきからあんたは喋ってんの? カニでしょ?」


「おや? しゃべるカニは嫌いかに?」


うぜぇ……


「マジうぜぇんだけど。ちょっと潰していい?」


「ふ、ふざけおって! 潰すぐらいなら食え!」


「何? 食っていいわけ? 確かに食料ねぇしなぁ」


「食うな!」


「なんなのさ、もう……」


「わしは偉いカニなんじゃぞ。食うなどもってのほかじゃ!」


「まぁしゃべってるもんなぁ。何? 1000年生きたから妖怪になったとか?」


「違う違う。わしはな、かに座をつかさどるカニなんじゃ」


「……かに座をつかさどる神じゃねぇの?」


「かに座をつかさどるカニじゃ」


うぜぇ……


っていうか意味わかんねぇ


「だからしゃべってんの?」


「そうじゃ」


「俺かに座なんだけど」


「だからわしが来たんじゃ」


「マジ?」


「まじじゃ」


「おとめ座に生まれてりゃなぁ……」


ここでおとめに会えたわけだ


「……かに座つかさどるって何?」


「は?」


「普段何やってんのか気になるなぁと思って」


「別に何もしとらん」


「食っていい?」


「食うな! いい加減にしろ! 獅子に言うておまえさんを食うてもらおうか!」


「え、他の星座もいんの?」


「あたりまえじゃ」


「じゃあ俺を家に帰らせてくれるヤツとかいねぇ?」


「無理じゃな」


「えぇぇ……」


「まぁあきらめろ」


「マジ帰りてぇよぅ……」




―― Next ――