今や日本人が世界で活躍することは業界やジャンルを問わずに珍しくない。
ダンスの世界でも、日本人ダンサーが海外のビッグアーティストと共演したり、
欧米の賞やタイトルを獲得したというニュースは、よく耳にするだろう。
今回、インタビューするTAKAHIROも世界で活躍する日本人ダンサーの一人だ。
NewsWeek誌の「世界が尊敬する日本人100人」に選出され、昨年はマドンナのPV・ワールドツアーへの出演、
さらに今年に入ってから日本でのドキュメンタリー番組等への出演で、TAKAHIROの名は、広く知れ渡るようになった。
JSDAやエイベックス・ダンスマスターの普及に携わっている丹野とは、昔のダンス仲間ということもあり、
創刊記念スペシャルインタビューとして、TAKAHIROのダンスに対する考えや思いを尋ねてみた―――。
『 MORe Dance』創刊記念スペシャルインタビュー』
丹野(以下 丹): 昔のメンバーとこんなインタビュー形式で話すとなんか緊張するな(笑)
TAKAHIRO(以下 T): そうですね(笑) 僕も変な感じがします。
丹: あの頃は、TAKAHIROと僕とでダンスユニットやってたよね。
T: ですね! 今でこそ色々なスタイルが確立されて普及されてきましたけど、ユウキくんと一緒にやっていた時なんかは、まだまだ情報が少ないときでしたから、新しいスタイルを取り入れたりすると、周りからの視線が厳しくて肩身が狭いこともありましたね。
丹: そうそう! でも、その頃からTAKAHIROのダンススタイルは基本的には変わってないよね。
T: 好きなことを突き詰めたかったんです!
丹: 今まで聞いたことなかったけど、ダンサーになろうと思ったのはいつ頃から?
T: 気付いたらダンサーになっていました。踊ることに没頭していた時から自分はダンサーだったと思います。ただ、プロダンサーになろうと思ったのはNYに来て2年が過ぎた頃です。米国のコンテストテレビ番組で優勝した後、初めて決意しました。
丹: そうだったのか。活動の拠点を日本ではなくアメリカ、それもNYを選択したのはなんで?
T: はじめは、長く滞在するつもりは無かったんです。僕は大学4年間、東京でバカがつくほどダンスに没頭していたんですが、就職の時期にダンスを辞めようと考えていました。でもどうしても簡単には諦め切れなくて、「これが最後の挑戦」と選んだ舞台が、NYのハーレム地区アポロシアターで開かれる「アマチュアナイト」という大会でした。この大会は世界で一番有名なHIPHOPエンターテイメントのコンテストと聞いていましたし、世界最大の壁にぶち当たって終わるなら、この青春は気持ち良いと思っていました。ところが、その大会で優勝をしてしまった。そして1年間を勝ち抜いて、翌年に全米放送のテレビコンテストに出ることになり、そこで9回連続優勝してグランドチャンピオンになったんです。その時にチャンスを掴んだNYでもう少し挑戦してみる決意をしました。そうして、少しずつ歩んでいった今、6年目になりました。
丹: 向こうでいろいろなダンサーと会ってみてどう? 日本人はダンサーとしてのスキルは高いのかな?
T: 特に技術という点では間違いなく世界クラスだと思います。
それは欧米で行われているコンテストなどでも日本人が多く入賞し、実証されています。一つの技術を突き詰めていく姿勢は日本人ダンサーの大きな武器だと思います。
丹: 少し深い質問をしてもいい? 日本では、インストラクターやバックダンサーを出口に設けたストリートダンス検定がスタートしたんだけど、それついてどう思う?
T: 正直なところ、「ストリートダンス検定」の言葉が包括する範囲が広すぎるので、色々な誤解を生むのではないかと思いました。ストリートダンスには、沢山のジャンルがあり、いろいろな考え方もあります。さらにダンスは、決まりがないからこそ「生き生きとする」という考え方もある。ダンスは、学問でなく芸術性を多くはらんでいるから、ただ全てを「検定」として、良し悪しの評定をする権利は誰も持てないように感じています。
丹: TAKAHIROらしい意見だね。
T: でも、資格を与えることが、将来ダンサーの仕事で役立たせるためという考えに立っているのであれば、これを実施してみようという試みはとても意義のあることだと思います。個人的には、もし「ストリートダンス検定」が空手のように「流派」を明確にすれば、より分かりやすくなってくると感じています。例えば、僕のスタイルの流派に関しては、僕が創設者ですから良し悪しを決められると思います。だから、「TAKAHIRO ダンス検定3級」などはあってよいと思いますね。
丹: すごく興味深いアイディアだね。それでは、社会的地位がまだまだ確立されていないダンサーという職業が、この先にもっと認められるようになっていくためには、どう変えていくべきだと思う?
T: 社会的地位とは何を指すのかを明確にする必要もあります。単純に僕が考えるところで、一つは、「ダンスを職業とした人が、サラリーマンと同じくらいの収入を得て安定して過ごすことが出来る」ということかなと思います。日本でも米国でもスキルは上がっているのに、その向上に対してのギャランティーは低いままと言う事例がまだ多く見られます。さらに、仕事が安定して得られる土壌も発展途上にあるように感じます。変えていかなきゃいけないことは、ダンサー全体が仕事を受ける際の意識とポリシーを高めていくこと、そして仕事を与える側にも意識改革を求めることです。現にアメリカではダンスの部門には「労働組合」が存在し、ダンサーの価値の不当な暴落を抑えています。
もう一つは、「対価はなくても、みんなに憧れられ、名誉や威信を得られる職となる」ということです。ストリートダンスがダンサーのためだけではなく、一般の人にも触れやすいものとなり、かつ全ての人々が「これはすごい」と分かりやすく認識できる指標があることが望ましいです。例えば芸術芸能で言う「人間国宝」、役者で言うなら「オスカー賞」など国際的、国家的に認められるほど訴求力は高くなっていくと思っています。他にも社会的地位を上げていく可能性はたくさんあると思いますが、社会的地位が上がることだけが、良きダンスの未来とも限らないかもしれないとも思っています。
丹: しっかりした意見を有難う。最後にTAKAHIROの夢や目標を教えてください。
T: 目標は、来年NYのストリートダンサーによる今までにないタイプの舞台を作り、日米で公演すること。夢は、将来、世界の人があっ! と喜んで憧れるようなナンバーワンのエンターテイメントグループをプロデュースしたいですね。
丹:今後はTAKAHIROにワークショップや講義などを日本で是非やってもらいたいね。JSDAでも是非お願いします。これからも応援してます!
丹野 雄貴(たんのゆうき)
98年よりダンサーとして活動を始め、イベント・PVなどに出演。2000年にヨーロッパ7か国をダンス修行としてまわり、帰国後は日本でのTAKAHIROの活動時、2つのダンスユニットにて共演する。その後、ダンス番組への出演やアーティストのバックダンサーなどを経験し、08年よりエイベックス・プランニング&デベロップメントに入社。現在はエイベックス・グループのダンス事業全般に携わり、ダンス文化の普及に努めている。