私が、定期的にGLITTER式®プログラムの養成講座を開講していて感じる事ですが、正直、同じ講座を受講している鍼灸師・マッサージ師であっても、施術者ごとにスキルの差というのはあると思います。どの先生に、どのように関わっていくかが重要ですし、それはどの医師にオペしてもらうか、小児のことをしっかり学んでいるPTかということも同じです。小児障がいのことをしっかり勉強して、一人ひとりちゃんと向きあってくれる専門職に出会えると、お子さんの予後も変わっていきます。

GLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療を受けているお子さんたちの自慢は、変形がほとんどないということです。支援学校等で、同じ診断名のお子さんの中で変形が少ない見本の症例として紹介されるほどです。医師に診てもらっても「オペの必要はなさそうだね」と言われる子もたくさんいます。

脳に障がいのある子ども達は、一度獲得した運動でも、どんどん出来なくなっていきます。でも、GLITTER式®マッサージをコツコツ続けてきた子は、出来てたことが出来なくなるということはほとんどありません。運動をどんどん獲得していくことも大切なのですが、今できていることをずっとできるようにしてあげることはもっと大切です。早い子だと小学校高学年や中学生ぐらいで出来ていたことが出来なくなってくるケースもあります。でも、ちゃんとケアをしている子は、できてることはそのままできる状態で、変形もなく、立位をすれば求心性のフィードバックが働いている状態を保っています。感覚や緊張をちゃんとした状態にしていなければ、立位をとらせることに何の意味もありません。こうした、しっかりとした土台をつくっていくことが、GLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療の役割です。

 障がいのあるお子さんをお育てになっているお母さんたちに、何を目指しますか?と聞いた時、「車椅子で自律できたら・・・」と仰るお母さんでも、医師からお子さんは将来寝たきりだと言われたお母さんでも、本心は独歩できるようになってくれたら…と望む方もたくさんおられます。

 

 それは将来的なゴールかもしれません。しかし、私たちマッサージ師が考えていかなくてはならないことは、短期的にどうこうではなく、将来、その子にとって一番良い状態、すなわち二次的障がいができる限り少ない状態にしていくことを目指さなければなりません。脳に障害のある子どもたちは、緊張による姿勢の偏りによって脊柱が回旋して側弯になってしまいます。脳性麻痺のあるお子さんと側弯は切っても切り離せないものです。それをいか緩やかにしていけるかで、その子たちの将来のQOLは大きく変わってきます。

 

 2歳で歩けなかった子が4歳ぐらいから独歩を獲得する子もいます。独歩だけがゴールではありませんが、そのお子さんにとって一番良い状態を目指すには、GLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療でコツコツと土台づくりをしっかりしていくと良い結果に繋がると感じています。

 

 筋解離、SDR、ボトックス、バクロフェン・・・医療にもその時の流行りのようなものがあります。様々な治療法も効果的に行えば有用なものもありますが、その判断はとても難しい繊細なものです。筋解離術もしっかり選択して限定的に行えば効果的ですし、ボトックスに関しても同じで、どこにどれくらい打つのかをしっかり検討すれば効果的です。一概に整形外科的オペや治療が悪いというつもりはありません。しかし、たくさんの子ども達を診てきた経験から、本当にこの子にこのオペは必要だったのか。ボトックスもこんなに何か所も必要なのか。逆に緊張を作るような状態にして、医師は小児障がいの知識があるのかと疑うようなケースも多いのが現実です。例えば先述のような大腿四頭筋を切るようなオペは大変珍しいケースです。ハムストリングスや腓腹筋の筋解離術は良い結果となるケースはあります。しかし、大腿四頭筋という大きな筋を切るために何ヶ月もの入院を余儀なくされました。将来的には癒着が起こらないよう見守っていく必要があります。身長がグッと伸びる時期に必ず何か変化が出てきます。すると、せっかく今少し立ったり歩いたりできるようになってきているのに、それが崩れてしまったりします。オペを行った医師はそこまで考えているのかと感じずにはいられません。

 

 ある程度は、お母さん達にも知識が必要です。日本は保険大国であり、様々な選択肢から選択ができる国です。ただ勧められるまま、医師の言うままではなく、しっかりと知識を持って選択していくことが大切です。

その選択肢の一つとしてのGLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療を、より多くのお母さんに知ってもらいたいと思っています。

私のスタジオ(スタジオグリッター)に、「オペ前に戻してほしい」と、大腿四等筋や腸腰筋など複数の筋解離術を受けた小学生のお子さんを連れて来られたお母さんがいました。太ももの前側の大きな手術痕が痛々しい小学生のお子さんでした。残念ながら一度オペをしてしまえば、それを元の状態に戻すことはできません。

 

さらに、小学生ということでこれからどんどん骨格は成長していきます。すると切った傷も骨の成長とともに引っ張られ、さらなる過緊張を生んでしまいます。こうなれば、他の筋をうまく使えるように頑張るか、装具を使う以外に自重支える方法はなくなります。緊張が強いという理由でそういった将来のことを考えずに筋解離術をすすめる医師もいます。

 

例えばSDR(選択的後根切除術)のオペがうまくいった成功例であっても、オペ後5年間ぐらいは良い状態を保てるかもしれません。しかし、5年後以降は、感覚麻痺などの後遺症が残ったりするお子さんおられます。

 

SDRの後遺症については経験上、感覚が入りにくくなることが多いように感じますが、それによって強い緊張や痙性があるお子さんの動きの獲得に繋がることもあります。もちろんどんなお子さんにもSDRが合うというわけではありませんので、お子さん一人一人の、何年か先の事も考えて判断する必要があります。

 

オペ一つをとっても、短期的な対症療法だけでなく、そういったこどもたちの「将来」のことを考えて、判断しなければなりません。

 

オペに関しては、本当に素晴らしい医師もおられます。実際、オペをしてとても良い状態のお子さんもいます。反対に、適当に解離したのではないか?と疑うぐらいめちゃくちゃにしてしまう医師がいるのも現実です。それを選択するのは、結局のところ親なのです。

 

私たち小児障がい児に携わるマッサージ師は、子ども達一人一人が、大人になってからもその子にとって一番良い状態になるように、出来るようになったことはずっと出来るままでいられるように、「今」だけ見ていくのではなく、長期的な視点に立って携わっていくことが求めまれます。

 脳性麻痺、PVL(脳室周囲白質軟化症)、染色体異常(ダウン症)など、我が子に障がいがあるとわかったとき、不安と悲しみに目の前が真っ暗になるような経験は、当事者の親御さんにしかわからない体験です。しかし、医療現場では一定の確率で起こる日常でもあります。

 

 例えばPVLと診断されたお子さんの場合、粗大運動の獲得や自発的運動の獲得の状態で「四肢麻痺になる」「痙直型の麻痺になる」など、将来の状態はある程度予測することができます。しかし一方で、その予測は絶対ではなく、その子の能力を適切に引き出してあげることで、将来の状態は変わってきます。

 

 そういった予測を立てた医師はどんな治療をすすめるのか。成長の過程で、「これだけ緊張が強いと将来的に股関節が亜脱臼する。だからボトックスで筋緊張を緩めましょう」「それも効かなくなってきたら筋解離のオペしましょう」「SDR(選択的後根切除術)やりましょう」それも効かなくなったら幹細胞、臍帯血…といったように、子どもの成長や状態によってすすめていく治療法の流れはある程度決まっています。どの治療法も完璧というものはなく、副作用や将来の2次的障害についてもよく考えて進めなければなりません。

 

 ただ、医師によってはそのお子さんの「今日の体調や緊張の状態」という観点がないまま、触診もせず、バギーからおろすこともなく、慣れない環境で緊張によって瞬間的に内転している股関節の画像だけ見て、「股関節悪くなってるから、ボトックス打って外転装具はめないと脱臼します」と言われたりします。もちろん、それが必要で有効な場合もありますが、その治療を行うことで将来どうなるのか?といった長期的視点に立つ医師は少ないのが現状ではないでしょうか。これは現在の医療システムが、その瞬間の状態から、即座に治療法を選ぶという異常発見即治療という流れになっていて、現場において長期的な視点で診断したり治療をすることが難しいという事情もあります。

 

 では、私たち鍼灸師、マッサージ師にできることは何でしょうか。お子さんの今の状態、成長を考慮した将来の状態を長期的視点で捉え、しっかりと触診をし、今、お子さんの脳と身体で何が起こっているかをよく観察し、本来持っている力を発揮できるような、その子にとって一番良い状態、つまり感覚の土台がしっかり育っている状態をつくっていくことです。

 

 例えば股関節に対して、力学的に負荷をかけましょう、立位をとらせましょうとなったとき、お子さんの身体の準備ができている状態でなければ、求心性のフィードバック(自分の身体の状態の感覚が脳に伝わって情報処理すること)が働きません。「立っている」という感覚が脳に伝わらない状態で、いくら立たせても意味がありません。立位だけでなく、すべての動作が、感覚がしっかり育っていなければ、いくらその動作をやらせても学習には繋がりません。そういう、何をやっても意味がない状態から、何かやれば意味のある状態にしていく。つまり脳が自分の身体の情報を受け取るための、感覚の土台を育てていく。過緊張は緩め、低緊張には神経を発火させる手技を加えていく。それがGLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療の役割です。

 

 リハビリも大事なのですが、そういった準備の大切さををしっかり考えているPTであれば、GLITTER式®マッサージを受けている子のリハビリはやりやすいと感じたり、マッサージの重要性を理解してくれます。ただ、医師もPTも、私たち鍼灸師・マッサージ師でも、小児障がいへの知識がないまま関わっているケースも多いのが現状です。大人の脳血管障害や麻痺、関節拘縮と、小児障がいは全く異なります。大人と同じように触れば、効果が得られないどころか悪化させてしまったり、医療事故の原因にもなります。

 

 そして、過緊張があっても、どんな状態であっても大人と同じような動作練習を中心としたリハビリを始めてしまったり、医師も画像だけみて、股関節が悪いからボトックスしましょう、緊張している筋を切りましょう、という短期的視点からの対症療法を提案されることも多いです。だからこそ、医師、PT、鍼灸師・マッサージ師はしっかり小児障がいについて学んでいる人を選んでもらいたいのです。