脳性麻痺、PVL(脳室周囲白質軟化症)、染色体異常(ダウン症)など、我が子に障がいがあるとわかったとき、不安と悲しみに目の前が真っ暗になるような経験は、当事者の親御さんにしかわからない体験です。しかし、医療現場では一定の確率で起こる日常でもあります。
例えばPVLと診断されたお子さんの場合、粗大運動の獲得や自発的運動の獲得の状態で「四肢麻痺になる」「痙直型の麻痺になる」など、将来の状態はある程度予測することができます。しかし一方で、その予測は絶対ではなく、その子の能力を適切に引き出してあげることで、将来の状態は変わってきます。
そういった予測を立てた医師はどんな治療をすすめるのか。成長の過程で、「これだけ緊張が強いと将来的に股関節が亜脱臼する。だからボトックスで筋緊張を緩めましょう」「それも効かなくなってきたら筋解離のオペしましょう」「SDR(選択的後根切除術)やりましょう」それも効かなくなったら幹細胞、臍帯血…といったように、子どもの成長や状態によってすすめていく治療法の流れはある程度決まっています。どの治療法も完璧というものはなく、副作用や将来の2次的障害についてもよく考えて進めなければなりません。
ただ、医師によってはそのお子さんの「今日の体調や緊張の状態」という観点がないまま、触診もせず、バギーからおろすこともなく、慣れない環境で緊張によって瞬間的に内転している股関節の画像だけ見て、「股関節悪くなってるから、ボトックス打って外転装具はめないと脱臼します」と言われたりします。もちろん、それが必要で有効な場合もありますが、その治療を行うことで将来どうなるのか?といった長期的視点に立つ医師は少ないのが現状ではないでしょうか。これは現在の医療システムが、その瞬間の状態から、即座に治療法を選ぶという異常発見即治療という流れになっていて、現場において長期的な視点で診断したり治療をすることが難しいという事情もあります。
では、私たち鍼灸師、マッサージ師にできることは何でしょうか。お子さんの今の状態、成長を考慮した将来の状態を長期的視点で捉え、しっかりと触診をし、今、お子さんの脳と身体で何が起こっているかをよく観察し、本来持っている力を発揮できるような、その子にとって一番良い状態、つまり感覚の土台がしっかり育っている状態をつくっていくことです。
例えば股関節に対して、力学的に負荷をかけましょう、立位をとらせましょうとなったとき、お子さんの身体の準備ができている状態でなければ、求心性のフィードバック(自分の身体の状態の感覚が脳に伝わって情報処理すること)が働きません。「立っている」という感覚が脳に伝わらない状態で、いくら立たせても意味がありません。立位だけでなく、すべての動作が、感覚がしっかり育っていなければ、いくらその動作をやらせても学習には繋がりません。そういう、何をやっても意味がない状態から、何かやれば意味のある状態にしていく。つまり脳が自分の身体の情報を受け取るための、感覚の土台を育てていく。過緊張は緩め、低緊張には神経を発火させる手技を加えていく。それがGLITTER式®マッサージやGLITTER式®はり治療の役割です。
リハビリも大事なのですが、そういった準備の大切さををしっかり考えているPTであれば、GLITTER式®マッサージを受けている子のリハビリはやりやすいと感じたり、マッサージの重要性を理解してくれます。ただ、医師もPTも、私たち鍼灸師・マッサージ師でも、小児障がいへの知識がないまま関わっているケースも多いのが現状です。大人の脳血管障害や麻痺、関節拘縮と、小児障がいは全く異なります。大人と同じように触れば、効果が得られないどころか悪化させてしまったり、医療事故の原因にもなります。
そして、過緊張があっても、どんな状態であっても大人と同じような動作練習を中心としたリハビリを始めてしまったり、医師も画像だけみて、股関節が悪いからボトックスしましょう、緊張している筋を切りましょう、という短期的視点からの対症療法を提案されることも多いです。だからこそ、医師、PT、鍼灸師・マッサージ師はしっかり小児障がいについて学んでいる人を選んでもらいたいのです。